第1話 交換は拒否しよう
今日も気持ちが押さえきれていないようだ。
"『
嫌な顔をしたら、それはそれでややこしくなりそうだから、無視をして無表情を貫いている。
毎日こんなことが続くのだ。
卒業のその日まで。
地獄でしかない。早く告白してくれ。
振るから、そうすれば俺への好意は終わるだろう。
俺の気持ちを分かってくれたらなと、そんなことを思う今日この頃。
嫌いではない、だって雨宮さんのことを何も知らないから。
好きでも嫌いでもなく、ただのクラスメイトと思っている。
ただのお隣の席の女子生徒と認識している。
1ヶ月で席替えしないかな、なんて希望を毎日願う。
※
「可愛くない?」
「あーはいはい」
高身長で筋トレ好きで細身に見えて脱ぐと鍛えられている。
太眉を活かして整えていて、目は優しい感じだ。
面白い話をすると思いきや、中学の時から付き合っている彼女の惚気話がメインである。
激甘過ぎて吐き気がするが、話したくてたまらないことが、雰囲気からも心からも伝わってくる為、我慢して聞いている。
「流すな流すな!」
「興味ないからな」
「なんてヤツだ!」
「それな」
「自分で言うな!」
持ってきた弁当を残さず食べた。
ごちそうさまでした、母ちゃん美味かったよ。
「お前もさ、彼女作れよ?」
「どうでもいい」
「何でだよ?」
「疲れる」
「楽しいぞ」
「あっそ」
「ダメだこりゃ」
諦めろ、竜二。
俺には分からない世界だ、恋愛という未知の領域には踏み込めん。
それは箱の中身が何なのか分からず、そこに手を突っ込んで探るようなことで、それは恐怖そのものだ。
危ない橋は渡らない、安心安全な道が良いに決まっている、大冒険しなくてもいいのだから。
「恋に落ちれば、分かるぞ」
「落ちない落ちない」
「どうだか」
将来恋に落ちるかもしれないが、今は落ちない自信しかない。
だって、隣の女子の心が駄々漏れで、それをキャッチしているから疲れているのだ。
誰か分かってくれー…。
※
「
「さよなら、雨宮さん」
"『明日明後日は休み、会えない、寂しい』"
俺は束の間の休日で大変有難いのだが。
"『連絡先交換したい!』"
絶対嫌だから!
去り際の彼女の気持ちを読んでしまいドッと疲れた。
5日間お疲れ様、俺。
休日は引きこもろう。
家に居れば疲れはしない。
家族の心しか聞こえてこないから楽なのだ。
それに本人達は心の中で呟いているのに、俺からは会話しているように聞こえてしまい、たまに笑いそうになるから、堪えるのに必死だ。
暫く教室でスマホを弄ったり読書して、1時間後。
さて帰ろう。
部活の生徒しかいないから、あまり聞こえてこない静かな時間帯に俺は帰っている。
聞こえてくるのは教室だと、そこにいる人達だけの心だけ。
他の教室からは全く聞こえてこない。
戸が閉めきってさえあれば、そこの教室を通り過ぎても聞こえてこないのだ。
だから俺にとって静かな時間帯はまさに部活の時間帯なのだ。
昇降口に着き、上履きから外履きのスニーカーに履き替えて、上履きは靴箱に置いた。
昇降口を出てゆっくり歩く。
"『何で取れねーんだよ!』"
誰だか分からないが、外で練習している野球部の方から聞こえてきた。
"『もっと早く走りたいのに、上手くいかない、どうしよう』"
グラウンドの真ん中で談笑している陸上部員の中に呟かれた焦り。
"『納得いかない』"
窓を開けて外に向かってトランペットを吹く女子生徒のストイックさ。
みんな青春してんだな。
俺には関係ないな。
そんなことを思いながら気にせず歩いていると。
「わっ!」
「おわっ!?」
右に曲がろうとした時にひょっこり現れた雨宮さん。
何故だ、待ち伏せか!?
ストーカーになっているのかと疑う。
「ど、どうした?」
落ち着いて聞いてみた。
「一生のお願いなんだけど」
その言い方は嫌な予感しかない。
潤んだ瞳でお願いを聞いてと言わんばかりの表情。
伝わってきたその一生のお願いとやら。
"『連絡先、交換するぞ』"
マジかよ、どうしようか。
実は1度だけ連絡先の交換をお願いされたことはある。
が、その時は充電ないからという嘘を言ってかわした。
今は2度目、同じ手は使えない。
壊れたも言えない、さてどうしようか。
「連絡先交換なんだけどー…」
やっぱり、だよな。
さらに心が伝わってきた。
"『ダメなのかなぁ』"
うーん、正直に言えばいいのか。
なら、そうしよう。
「ごめん」
「えっ?」
早口にならないように、ゆっくり話した。
「雨宮さんとは同じクラスになったばかりで人となりを知らないから、互いにもう少し知ったら声をかけてほしいかな」
断固拒否は流石に理由はないから出来ないと思い、含みを持たせた感じになってしまった。
仕方がない、これが最善だろう。
すると雨宮さんは「分かった、じゃあ仲良くなってからね」と笑顔で言った。
それと同時に心はというと。
"『よし、来週から話しかけまくろう!』"
面倒くさくて、ややこしくしてしまったと、後悔した俺だった。
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