第2話

「起きなさい、私のかわいい息子や」

「うわっ!布団の中に入ってくるな!ババア!!」

母親ソフィアの常軌の逸した行動に、俺は飛び起きた。

「誰がババアだ!!誰が!!」

俺の母親のソフィア・フォン・マクラーレンは年齢不詳の見た目をしている。俺を生んだというからには20代前半ぐらいなのだろうが、下手をすると20歳を下回るかもしれない。

銀髪碧眼で顔立ちも整っているし、スタイルだって悪くない。あと10年若ければ、間違いなくモテただろうなと思わずにはいられない外見なのだ。

まぁ、俺が物心ついた時からずっとこんな感じだから母親と言っても違和感しかないんだけどね。

「今日は王様のとこに行く大事な日でしょ!?だから起こしに来てやってんのに!」

「誰も頼んでねーし」

母親のババアは「フン!」と鼻を鳴らす。

「あんたねぇ、父親の前では敬語使ってんのに母親である私にため口っておかしいでしょ?不敬罪で首ちょん切るよ?」

母親にそんなことを言われて、俺は背筋がゾッとする。

俺の名前はジェラルド・フォン・マクラーレン。マクラーレン王国の王族である。

その俺が母親のソフィアにため口を使っているのには理由がある。

まぁ、ちょっと長くなるんだが・・・ あれは今から5年ほど前になる。

父親のグスリは1人息子が可愛くて仕方がないらしく、時間を見つけては俺と一緒に遊んでくれた。

やんちゃだった俺は父親とよく城を抜け出して城下町へ繰り出したものだ。

町の住人たちはそんな俺たちを笑顔で迎え入れてくれるし、俺達はいつも楽しい時間を過ごしていた。

そんなある日、事件は起こった。

それは俺が11歳のころ・・・俺はいつも通り城を抜け出そうとして父親の執務室の前を通りがかる。

「父上!僕を置いてお出かけになるなんてズルいですよ!僕も一緒に連れて行ってください!」

父親に遊びに連れて行ってもらおうと執務室の扉を開けてみると、そこには俺の知らないおじさんがいたのだ。

「えっと・・・」

俺は状況が理解できずにその場で固まってしまう。

「ジェラルド・・・な、なぜここに?」

父親の困惑した声が聞こえる。

「あの・・・父上、この子は?」

俺は恐る恐る目の前にいる見知らぬおじさんについて質問する。

「これはこれはお初にお目にかかります」

その見知らぬおじさんは深々とお辞儀をすると、顔を上げて俺に微笑みかける。

「私の名前はオーブ・フォン・マクラーレン。あなたの父であるグスリのライバルだった男です」

俺はそのおじさんと父親を交互に見て困惑することしかできなかった。

「ジェラルド、この人のことは気にするな」

父親の言葉に俺は無言で頷くしかなかった。

「グスリ、そろそろお暇するとしよう。今日のところはこれで失礼するよ」

オーブはそういうと執務室から出ていった。

「父上・・・」

「ジェラルドよ、このことは誰にも言ってはいけない。分かったな?」

父親は俺の手を握り締めると真剣なまなざしで見つめてくる。

俺は黙って頷くことしかできなかった。

この日以降、俺は父親からオーブの名前が出ることはなかったし、俺の前でオーブの話題が出ることもなかった。

「ほら!ボサッとしてないで早く準備する!」

ソフィアは俺の布団を剝ぎ取ると、俺をベッドから引きずりおろして浴室へと引っ張っていく。

「風呂ぐらい1人で入れる!!」

「ダメよ!あんたには王と謁見するというのに緊張感がたりない!私と一緒に入らないと綺麗になんかならないわよ」

俺の母親であるソフィア・フォン・マクラーレンは超絶美人なのだが、中身が少々残念なのだ。

見た目が若いのでまだ若作りで通じるが、そろそろ年齢的に厳しくなってきた感じが否めない。

「私のこの美貌はあんたの為にあるようなもんなんだから感謝しなさい!!」

「うるせーババア!いつまでも自分が若い気でいるんじゃねよ!!」

俺の母親であるソフィア・フォン・マクラーレンは30歳なのだが、外見はずっと20代前半なのだ。

これは俺が物心つく前からずっとそうだったので、もう今さらという感じではあるのだが・・・ そんな見た目だけは若々しい母親と浴室に入ると、俺の体と髪を洗い始める。

「ジェラルドは父ちゃんに似て男前なんだから、もうちょっとシャキッとしたらどうなの?」

「俺はこういう性格なの!親父に似てんだから仕方ねーだろ!」

「あんたね・・・今の態度は絶対に父親に似たんじゃないでしょ」

母親はため息を吐きつつ俺の頭をガシガシ洗う。

「いてーよ!」

俺は母親の手を振りほどくとさっさと湯船につかる。

「早く出なさい。そしたらお城に向かうから」

「へいへーい」

俺は湯船から上がると浴室から出る。

「そこに着替え用意してあるから早く着ちゃいなさい。髪も乾かしてあげるから」

母親は俺が脱いだ服を手渡すと、ドライヤーという魔道具を使って髪を乾かしてくれる。

この魔道具は魔力を電気のようなものに変換するらしく、母の魔力を注ぎ込むことで効果を発揮する優れものだ。

この世界ではこうして魔法を生活に活かすことでとても便利に暮らしている。

「よし!綺麗になった」

俺の髪が乾くと、満足そうに頷く。

「着替えたらダイニングに来なさい」

俺は頷くと用意された服に着替える。

もちろんシャツにズボンとベストというシンプルなデザインだが、この世界では一般的である。

浴室を出てダイニングに向かうと、テーブルにはすでに朝食が用意されていた。

「いただきます!」

俺は用意された朝食を食べ始めると母親がじっと俺を見つめる。

「・・・何だよ?」

「いや・・・大きくなったなぁって思って」

「うるせーババア・・・」

「だから、母親に向かってババア言うな!!」

俺は母の声をスルーして朝食を平らげる。

「ごちそうさま!じゃあ、お城に向かうわ!」

俺は椅子から立ち上がるとダイニングを出ようとする。

「待ちなさい!」

母親はそういうと俺に魔道具を手渡す。

「これは?」

それは掌サイズの小さな箱で、上面には魔石がはめこまれている。

「これは魔力計測器。魔力の計測ができる魔道具よ。使い方は簡単、こうやって魔力を込めるだけ」

母親は実演するように魔力を箱に込めると、箱の中の魔石が赤く光る。

「この魔道具があれば、ジェラルドがどれくらい魔力を持っているかが分かるから」

「ふーん・・・じゃあ行ってくるわ!」

俺は母親に手を振るとダイニングを出た。

母親ソフィア・フォン・マクラーレンは若作りである。いや、美魔女?まぁそんなものである。

そんな彼女が俺を溺愛しているものだから、俺も少々歪んで育ってしまった。

といっても、外見も中身も母親似なので本当に俺のせいなのかは甚だ疑問ではあるが・・・ そんな俺も16歳になり、そろそろ王城で王と謁見することになるのだが・・・ 俺は自室に戻って準備をしていた。

「早くしなさい!王様を待たせるわけにはいかないでしょ!」

それを急かせるのがこのババア・・・もとい俺の母親であるソフィア・フォン・マクラーレンだ。

「どうせいつもの謁見の間だろ?そんな大げさにしなくても大丈夫だって」

俺はため息を吐きながら母親に答える。

「ダメよ!王様をお待たせするなんて、不敬罪で処刑されても文句は言えないんだから!!」

俺の母親は父親であるグスリに俺が王との謁見を渋っているということを相談したらしく、王に会えるように取り計らってくれたのだ。

「あの王様なら許してくれるって・・・」

「ダメよ!王族なんだから礼節を重んじなさい!」

俺はため息を吐きながら母親の後に続いて部屋から出た。

「ジェラルド・フォン・マクラーレン様ですね?お待ちしておりました」

王城の城門に着くと、城の衛兵が俺達を出迎えてくれた。

「お初にお目にかかります。私、当城で宰相を務めさせていただいておりますランベルトと申します」

このランベルトという男は父親であるグスリの元同僚らしく、彼に連れられて俺も何度か会ったことがある。

「久しぶりだねランベルト・・・いや、ここでは宰相殿と呼ぶべきかな?」

俺は冗談半分でランベルトに問いかけた。

「いえ、私も王と同じくジェラルド様のお人柄は存じておりますゆえ、どうか普段どおりにお呼びください」

「んじゃランベルトでいいか?今更敬語使うのも面倒くせーし」

「はい。それで構いません」

こうして俺と俺の母親、そしてランベルトは王の待つ謁見の間へと向かった。

謁見の間は俺が想像していたものとはまるで違っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

宣告を受けた勇死者 おおやましのぶん。 @ooyama-shinobun

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る