第53話 プレゼント決め

数週間がすぎもう12月となっていた。千里と別れるまでもう一ヶ月もない。


「あれからお兄さん達から連絡はないの?」


「うん、兄さんは必要な時以外は連絡しない人だから」


「ほんと人に関心がないんだな」


「そうだね。それに兄さんはすごく忙しいんだと思う」


僕は少し引っかかるところがある。千里を家に戻す、そう言い始めたのは彼女の親のはずだ。それなのに親から何の連絡もないというのは少しおかしい。


千里の家の事情は全く知らないが親なら少しくらい連絡してもいい気がする。


「千里ちょっとこっち来て」と北條さんの声がした。


「わかった」と千里。


「和樹くん行ってくるね」


「ああ」


千里が北条さんたちと話している時綾香と健吾が僕の方に来た。


「ねぇ和樹」と少し声量を落としそう言う綾香。


「何だ?」


「千里っていつ帰る予定なの?」


「確か26日って言ってたはずだ」


「って事は───」


「ああ、誕生日は祝ってやれる.....」


僕にとっても千里にとっても多分それが唯一の救いだ。


「冬野ってクリスマスが誕生日なんだな」


「和樹はプレゼントとか決めた?」


「いや、まだだ」


「そっか......」


「なぁ和樹、お前の誕生日の時みたいにどこかで祝うのか?」


「ああ、そのつもりだ」


「和樹、ケーキ作れんの?」とニヤつく健吾。


「無理だ。市販のケーキでも買うよ」


「そうか.....」


面白くなさそうな顔をする健吾。


僕がケーキ作るところでも見たかったのかこいつは.....。


「それなら私、美味しいケーキ屋知ってるから当日買っていくよ」


「わかった。それなら頼む」


僕はとりあえずプレゼントだな。


「それで祝うんだったら誰の家にする?」


「それなら僕の家でやるよ。親には出ていってもらう」


「ははっ、ひでーなお前」


「親に見られるなんてごめんだからな」


まっ、事情を話せば開けてくれるだろう。


「じゃあこのこと悠真にも伝えとくね」と綾香。


「ああ、頼む」


綾香にとっても千里は一番の友達だ、率先してやるのはちゃんと別れを言うためだろう。


まだ諦めきれていないのは僕だけなのかもしれない。


放課後になり僕達は五人揃って学校を出た。先生たちの出張が重なり部活が休みになったらしい。


「今日どっか行かねぇか?」と悠真。


「良いねぇ」と綾香。


「千里も来るよね?」


「うん!」


「あっ、悪い僕行けないわ」


姉さんから連絡があり買い物に付き合え、と言われてしまった。


「そっか、じゃあまたね」と綾香。


「ああ、また誘ってくれ」


「バイバイ和樹くん.....」と少し寂しそうな千里。


「うん、また明日」


僕は手を振りみんなと反対側に行った。


ほんとタイミングが悪い.....。


姉さんが僕を呼ぶ時はだいたい一人じゃ持てない量の買い物をする時だ。まぁ母さんから頼まれた買い物の時が多いので断れない。


千里と遊びたかったなぁ。



電車に乗り二駅程先にあるショッピングモールまで来た。


入り口近くで姉さんが待っていた。


「姉さん急に呼び出すのやめてくれ......」


「ごめんごめん、なんか買ってあげるから許してよ」


「それで母さんにでも頼まれたのか?」


「いや、私の買い物」


それなら千里達の方行けばよかった。


「帰ってもいい?友達と遊ぶの断ってきたんだ」


僕は引き返す素振りをした。


「───ちょっと待て!確かに大半は私のだけど......。お母さんから頼まれたのもあるから!お願い」と引き止める姉さん。


「はぁー、わかったよ」


今更戻っても遅いしな.....。

しかもちょうどショッピングモールだ。千里のプレゼントを探すのもありかもな....。


そうして姉さんとショッピングモールの中に入った。


「姉さん、どっか見てきていいか?」


「うん、呼んだら来てね」


「わかった......」


僕は姉さんと別れ千里のプレゼントを探しに行くことにした。


女子って何貰ったら喜ぶんだ?


恋愛経験がほぼ無い僕にとってこれはすごく難しい問題だ。


千里が喜びそうなものか......。


千里の事だ何渡しても笑顔でありがとう、って言って貰ってくれそうではある.....。


でももし別れるならちゃんと形に残る、使えるものがいいな。


僕は色々な店を回った。だがどうしても決められなかった。


寒いからマフラーとか手袋も考えたけど冬しか使えないしなぁ。


年中使えるならアクセサリーてきな......。


指輪とか.....?いや、それは重すぎるな。そんな考えがよぎった自分に寒気を感じた。


僕はとりあえずアクセサリーのある店を回ることにした。


ある店で悩んでいると「やっと.....見つけた」と姉さんの声が聞こえた。


たくさんの荷物を持ち息が荒れている様子だった。


「何回も.....電話したのに.....何で出なかったの?」


「あっ、ごめん気づかなかった」


「まぁいいけど、ちょっとこれ持って」と大きな袋を三つ渡してきた。


───重っ.....!?何は入ってんだこれ.....。


「それで和樹は何見てんの?」


「ああ、千里の誕生日プレゼントを探してるんだ」


「へぇー千里ちゃんの誕生日近いんだ」


そういやあの話姉さんにはしてなかったな。


「千里、もう少ししたら実家に帰ることになってるんだ。誕生日のその前の日」


「───えっ.....それ、ほんと?」と驚いた顔をする姉さん。


「ああ、残念な事にな......」


「和樹はそれでいいの?」


「嫌に決まってるだろ。でも僕じゃ何も出来ないんだ......」


「だからプレゼントは形に残るものをあげたいんだ」と続けた。


僕は姉さんにプレゼントのこと相談することにした。一応女だしな。


「そっか。じゃあ愛のこもった物を渡さないとね」とニヤつく姉さん。


「そんなの重すぎるだろ.....」


「そんな事ないよ。逆にそっちの方が女の子は安心するのよ 。愛されてるんだって気づくからさ」


「そういう物なのか?」


「そうよ、和樹よりは女心わかるんだから私の言うことは聞いておいた方がいいわよ」


まぁ女だしな。


「わかった、じゃあ手伝ってもらってもいいか?」


僕はただ千里を喜ばせたい、そんな気持ちでいっぱいだった。


「もちろん、和樹をこんなに成長させてくれた子だからね。私の感謝と愛も伝わるものを探してあげる」


「───いや、それは良い」


「なんでよ───!」


そうして何時間もかけ姉さんと一緒に千里のプレゼントを探した。


決められた時にはもう辺りは真っ暗になっており、プレゼント探しに夢中になっていた僕達は時間を見てものすごく驚いていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る