第54話 終業式と近づく別れ (冬野視点)
兄さんが来てからというもの一日一日が私の中で大切になっていった。みんなも毎日のように遊びに誘ってくれるようになり和樹くんにも前より甘えるようにもなっていた。
だからだろう、楽しい日々というのは意識するほどに早く流れていってしまう。それはすごく寂しい。
「おはよう和樹くん」
12月22日、今日は二学期終業式。もう帰るまで一週間も残っていない。さすがの私も気にしてしまっている。和樹くんにちゃんと笑顔を見せられているのか不安で仕方ない。
「おはよう」
和樹くんもあまり触れないようにしてくれている。多分忘れようとしていることを気づいているからなんだろう。
彼はそっと私の手を握ってくれる。帰る日が近づく事にその力は少しづつ強くなっていった。まるで離したくない、と言っているかのように、でもそれが嬉しかった。ここまで私を大切にしてくれた人は家族を含めても居ない。
学校について思った、今日がこの学校を見る最後の日になるかもしれないって。
「おはよう千里!」
いつものように眩しい笑顔を見せる綾香。
「和樹、お前もう隠す気無くなったんだな」とニヤつく高橋。
隠す気?そういえばちょっとクラスがザワついているような......。
和樹くんも不思議そうな顔をしていた。
「そういえば確かに!」
綾香が私たちの腕あたりに目を向けた。
───っ!?私は驚いた。和樹くんとまだ手を繋いだままだったのだ。
「───ごめん!千里」と照れくさそうにする和樹くん。
「ううん、私も気づいてなくてごめんね」
クラスメイトかれ付き合ってるの?という質問が飛び交ってきた。
私たちは恥ずかしくなりそれから目をそらす。
「気づかないほどとは二人とも随分仲が良いねぇ」とニヤつく綾香。
「や、やめてよ!」と回らない舌で私はそう言った。
しばらくクラスメイト達からの質問攻めは続いた。
私たちは諦め付き合ってることを教えなんとか収めた。
和樹くんは周りの男子から羨ましがられたりと、私の付け入る隙がないほどみんなに囲まれていた。
「ねぇ冬野さんあいつのどこが良かったの!」と一人の女子が聞いてきた。
「ど、どこって.....」
そんなの恥ずかしくて言えないよ───。
「それ俺も気になる!」
和樹くんを囲んでいた人達が一気に私の方へとなだれてきた。
「和樹くん助け.....」
そう言っていたが和樹くんは安堵の息を漏らすだけだった。
聞いてない───。いや、聞こえて無いのか......。
和樹くんはクラスの中では無口なキャラで浸透しておりみんなどこが好きになったのか興味があるらしい。
聞こえてないなら言ってもいいかな......。
「えっと.....優しくて、かっこよくて......後いつも私を助けてくて.....」
「わぁー!素敵ぃ〜!」「立花聞いてたか?」とクラスは私達の話題で盛り上がっていた。
「聞こえてなかったよ」
そう言う和樹くんの頬は真っ赤になっていて不意に目があうと逸らしてきていた。
絶対聞こえてたじゃん───。
私も頬が熱くなっていた。
「冬野さんかわいい」とクラスメイトから言われさらに恥ずかしくなってしまった。でも和樹くんに言われた時みたいに取り乱したりはしなかった。
私達の周りをクラス全員が囲っていたので先生も何事かと驚いていた。
終業式だった事もあり学校は直ぐに終わった。
「これからどうする?」と綾香。
「腹減ったから飯でも行かね?」と国賀。
「和樹くんはどうする?」
「行くよ」
「じゃあ私も行く」
残りの時間を私は大切に過ごしたい、そう思う反面まだこの生活から離れることを諦めきれてはいなかった。
※
みんなと遊び帰る頃には夜になっていた。私と和樹くんは揃って家へと向かう。
「寒いね.....」
夜はやはり冷える。私は手の感覚が無くなってきていた。
「カイロいる?」
「大丈夫、和樹くん寒いでしょ」
「良いよあげる」
和樹くんはカイロを私にくれた。
「ありがと」
自分のポッケに手を入れる和樹くん、私は何だかイタズラをしたくなったのでカイロを片手に持ち、冷たい方の手を和樹くんのポッケに入れた。
「───冷っ!?」と驚く和樹くん。
「ふふっ、びっくりした?」
「ああ、でもこんな冷たいならもっと早くに言ってよ」と言いそのまま私の手を握った。
───なっ!?予想の行動に私が驚いていると「ははっ、何その顔」と和樹くんがニヤリとした。
「人の顔で笑わないでよ!」
「仕返しだよ.....」
「もぉ〜!!」
私は頬ふくらまして怒ったふりをした。
和樹くんの手は暖かくてカイロを持っている手の方が冷たいと感じていた。
「なぁ千里.....」と空を見上げている和樹くん。
私も空を見上げた。
「雪だ.....」
真っ白の大粒の雪が空からゆっくりと降り始めていた。
「これ、積もるかもな」
「そうだね」
「千里はスキーとか出来るの?」
「ううん、やった事ないから分からないけど多分出来ないと思う」
「じゃあいつか行こっか」と微笑む和樹くん。
「そうだね、いつか.....」と私も微笑み返す。
少しの沈黙の後和樹くんが口を開いた。
「なぁ千里、25日空いてるか?」
「空いてるよ......」
「確か誕生日だったよな」
「うん、そうだよ」
知ってたんだ.....。私は嬉しくて思わず笑みがこぼれた。
「じゃあその日、僕の家来てくれないか?」
和樹くんは少し照れくさいのか、それとも外が寒いからか頬を赤くしていた。
「うん、もちもん行くよ!」
「じゃあ楽しみにしてて」
「うん!」
私はとっても嬉しかった。誕生日を祝ってくれることが。それを伝えたくて気づけば和樹くんに抱きついていた。
「───ちょっ.....千里?」と顔を赤くし驚く和樹くん。
「ふふっ、暖かい」
「そっか、なら良かったよ.....」
和樹くんは私の頭を優しく撫でてくれた。
※
ついひ25日を迎えた。楽しみ過ぎたのと別れが近づいている悲しみから全くほとんど寝れなかった。
せっかく和樹くん達に会えるのにくまとか無いよね。と私は洗面所で慌てているとインターホンがなった。
こんな時に誰───?
慌てていた私は何も確認せず玄関のドアを開けてしまった。
「荷物はまとめたか千里」
「───えっ.....兄.....さん?」
どうしてここに.....明日って言ってたはずなのに....。
兄さんの後ろには数人のスーツを着た人達がダンボールを持って私の部屋に入っていく。
「どういう.....ことですか.....?」
状況が理解できず混乱している私は出ない声でそう言った。
「言ったはずだぞ今日帰ると」
「それは明日のはずじゃ───」
「明日?ああ、悪いな今日の間違いだ」と不気味な笑みを浮かべる兄さん。
何となくおかしいとは思っていた。あの兄さんが別れの期間を作るなんて、そんなに優しい人じゃなかったはずだったから。でも私にとっては大切な時間だったから何も言わないようにしていた。
「そんなの認められません。お願いです兄さん明日まで明日まで待ってくれませんか?」
突然の訪問に私はそんなことしか言えなかった。ほんとは親と縁を切ってもいいから帰りたくない、とでも言おうとしていた。そう思えるほどに離れたくない人達と会えたから。
「充分時間はやっただろ。さぁ帰るぞ」
そう言い兄さんは私の腕を掴んみ引っ張ってきた。
「嫌です。帰りたくありません」
私はドアノブに手をかけ必死に抵抗する。
でも周りにいたスーツの人達に手を離され私は引きづられるようにして兄さんに連れられてしまった。
どうして....どうしてなの.....。別れるとしてもこんなの無いよ.....。
私は溢れる涙が止まらなかった。
助けて....助けて誰か....助けて和樹くん───。
私は心の中で何度もそう叫んだ。
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