第46話 兄さん (冬野視点)

カーテンの隙間から差し込む朝日に私は目を覚ました。視界のすぐそばにスマホがあるのが分かった時私は何か違和感を覚えた。


あれ....目覚まし鳴ってないよな....。


そう思った瞬間私は焦り完全に目が覚めた。


いつの間にか寝ちゃってた!私は時計に視線を向け時間を確認する。


時計は9時を指していた。


今日学校は───!?と私はスマホの電源つけ日にちを確認する。


土曜日....。よかったぁ〜。


私は安堵の息を漏らす。


そう安心するとスマホにメールが届いているのに気がついた。


和樹くんから『おやすみ』と来ていた。


それを見て私はある事を思い出した。


そういえば昨日寝る前に電話してたような....。でも切った覚えないし....。


───はっ、もしかして私....!?


私は和樹くんに『昨日もしかして私寝ちゃってた?』と送った。


絶対そうだよね!だってこんな所にいつもスマホ置かないもんね!


数分立ち和樹くんからメールが返ってきた。


そこには『電話中に寝ちゃったから切っといたよ』と返ってきた。


うぅ〜やっちゃった。まさかの寝落ちしちゃうなんて....。と申し訳なさと恥ずかしさが込み上げてくる。


寝ぼけて変なこと言ってないよね───。とか寝顔を思いっきり見られた事とか色々考えてしまっていた。


私は『寝ちゃってごめんね』と送った。


和樹くんが『疲れてたんだし仕方ないよ』と返ってきた。


やっぱり優しいなぁ。


私はとりあえずベットから出る事にした。カーテンを開けて朝日を浴びる。


いっぱい寝たからかものすごく体が軽く気分が良い。私は朝ごはんを食べる事にした。


朝ごはんを食べている時スマホが鳴った。


和樹くんかな....。と私は食べる手を止めスマホをつける。


───えっ....。兄さん....。


そう兄さんからメールが来ていたのだ。


『今日そっちに行く』と書かれていた。


今日来るの....。


私は思わず固唾を飲んだ。


兄さんに『わかりました』と送ったあと一度深呼吸をする。


言わないと帰らないって。


兄さんに反抗するのは怖い、今までそんなことしてこなかったから。兄さんは厳しいけどいつも正しい人だった。でも自分の思い通りにならないと気が済まない性格でもある。多分反抗してもあの手この手で私を家に返そうとしてくるだろう。それでも今回だけは諦めたくは無い。


緊張で手が震える。目で時計をちらちらと確認してしまっていた。


落ち着きたいがために私は和樹くんにこの事を伝える事にした。


一度和樹くんにこの事を話した時すごく気持ちが楽になったからだ。


『今日兄さんが私の家に来るみない』と送った。


数分立って和樹くんから『そっか、もしかして前言ってた話し?』と返ってきた。


『そうだよ』


『それじゃああの事言うの?』


『うん、言わないと家に帰らなきゃ行けなくなっちゃうから』


『そっか、大丈夫?』


『ちょっと緊張してる』


ほんとは体が震えるほどに緊張していたが彼に心配させたくないと思った。


『僕に手伝えることある?』


『ありがとでも大丈夫』

『これは私の問題だから』


『そっか、頑張ってね千里』


私はその言葉に元気を貰い少し緊張がほぐれた気がした。


和樹くんや綾香、他のみんなともせっかく出会えたなんだ。今になってお別れなんて絶対嫌だ。



12時を過ぎた時インターホンがなった。カメラには黒髪にメガネを掛け鋭い瞳をした男が映っていた。そう私の兄さんだ。


「今開けます」と私はエントランスのドアの鍵を開けた。


兄さんは黙って中に入る。


私は落ち着くために深呼吸をする。


少しして家の前のインターホンがなり私はドアを開けた。


スーツ姿の兄さんが家に入るなりまるで何かを不満そうな顔で家の中を目で見回した。


「荷物はまとめてないようだな」と鋭い眼孔で私を睨みつけきた。


「はい、私は帰るつもりはありませんから」と私は兄さんの目を見つめる。


今すぐにでも目を背けたくなるほどに兄さんの視線は怖く私は震えそうになる体を抑えるため手をぎゅっと握った。


ここでおののいてしまえば兄さんは話しも聞いてくれない。


少しして兄さんが口開いた。


「なるほど覚悟は決めているようだな。話しは聞いてやろう」と言い兄さんは家の中へと入った。


リビングの椅子に座り私の方を見てきた。話せとでも言いたいのだろう。


「今の学校は私にとってすごく良い場所なんでんです。友達も出来て他の日々を過ごせています。前よりも自分に自信を持つことだって出来たんです」


当然だがただ学校生活が楽しいからだけじゃ兄さんは絶対認めてはくれない。この学校にいるメリットがあることをアピールする必要があるのだ。


「自分に自信がついた。それだけなら他の学校でも変わらないんじゃないのか?」と兄さん


「.......確かに兄さんの言う通りです。でも今の学校だからこそそれを得られたんです。いえ、自信だけじゃないその他にもたくさん....。それにまだ何か得られるものが....」


「何か?そんなあやふやなもので俺や親が納得するとでも思っているのか?」と睨みつけてくる。


「それは....」


私は何も言い返せなかった。


「確かに自信がついたのはほんとの様だな。前のお前は俺に反抗なんてしたことが無かったのだから」


「なら、成果がなかった訳では....」


「だからなんだ。そんなものだけで将来過ごせて行けるわけが無いだろ。それにお前、別に成長するのが目的でいたわけじゃ無いんだろ」と何かを見透かしたかのような顔をする兄さん。


「そんなわけ....」と私はそれを否定しようとした。


完全に図星だったそれでも否定しなければならないと思った。


だが兄さんは私の言葉を遮りこう言った。


「立花 和樹だったか....。お前の恋人なんだろう」


「───っ!?何故そのことを....」


「お前が家に帰る気がないのは前会った時からわかっていた。だからその理由を探るためにここ数日家の人間にお前を監視させていたんだ」


私はもう言い訳すら出来なくなっていた。何を言おうと全て兄さんにはおみとうしなのだから。


兄さんは私が言い返せないようにするために期間を開けて、全て知った上でまたここに来たのだ。


「諦めろ千里、いくら反抗しようとお前の望む形にはならない」


「だとしたら....どうして兄さんはこの家に住むために協力してくれたのですか?」


どうせ実家に戻すなら最初からこの家になんて行かせなければ良かった話しだ。


「お前が中学でいじめられてたことは知っていた。あのままだったら本当に使えない人間になるところだったからな。それならこっちの方が後々良い方に働くと思ったんだ」


兄さんは自分にメリットがある事しかしない。これも優しさでは無いんだろう。


「親の説得は面倒だった。結局お前が住んでいるこの家も仕送りも学校の入学費も全て俺が払うことでその場を収めたんだ」


「それなのにお前は遊びや恋などにうつつを抜かして....。これ以上ここに置くのは返って悪影響のようだな」と苛立ちを露にする兄さん。


「待ってください兄さん。嘘をついた事は謝ります。でも....」


「黙れ!お前は俺の言う事だけ聞いていろ!」


兄さんは怒りの声を上げた。


私はもう反抗する気力を完全に失ってしまった。


「お前には俺の会社で働いてもらう。そのためにある程度使える人間になってもらわないとな。お前も一応冬野家の人間だ、優秀さだけは他の人間よりは確かなんだからな」と言い不気味な笑みを浮かべた。


兄さんは最初からこうするつもりだったのだろう。だからこうやって自分の使いやすい人間にしようとしてるのだ。


まるで私、道具みたい....。


すると家のインターホンが鳴った。


「来たか」と兄さんが出た。


少しして家の前のインターホンが鳴り兄さんが出た。


リビングから誰が来たのかと私は耳を傾ける。


「引越し用のダンボールを持ってきました」と言う声が聞こえた。


引越し....!?背筋が凍るのを感じ私は玄関法に視線を向けた。


スーツを来た男一人を連れ兄さんはリビングに戻ってきた。


そのスーツの男は平たいダンボールを持っていた。


「このダンボールに荷物を詰めておけ」と兄さん。


私は戸惑い声が出ない。


「安心しろ今すぐに出ていくつもりは無い。別れの期間くらいは与えてやる」と笑みを浮かべる兄さん。


「そんな....」


「早くても三学期には新しく神谷高校に通って貰う。俺も暇じゃない、そうだな12月26日その日までに荷物を詰めて待っておけ。反抗など考えるなよ」と言いダンボールを置いて家を出ていった。


今日はこれを言うために来たのだ。反抗しても意味が無いことを教えるために。


12月26日、その日はきっと兄さんがあまり忙しくない日なんだろう。私を力づくにでも家に連れ帰るために。


ぎりぎり誕生日はこっちで居れるんだ....。



実家に帰ればきっと和樹くん達に合わせてはくれないだろう。だから神谷高校なのかな....。ここからじゃ凄い時間かかるし


どうして....。せっかく和樹くんと恋人になれたのに....。


まるでそれを許さないかのようにして兄さんはやってきた。


私は辛くて涙が溢れてきた。辛くて泣いたのはいつぶりだろう。そんな事を忘れてしまうほどに幸せな日々を過ごせていた。


後二ヶ月....。みんなと別れるまでそんなに時間が無い。


私はいつの間にかスマホを手に取り迷いも無く和樹くんに電話をしていた。


『もしもし』と彼の優しい声が聞こえた。


その声を聞いた瞬間私の目からさっきよりも大きくて大粒つの涙が溢れた。


「和樹くん....助けて....」と霞む声でそう口にしていた。


和樹くんにどうこうできることではないなんてわかっているそれでも無力な私は誰かを頼りたくなってしまった。


『分かった。今家にいるの?』と和樹くん。


「うん....」


『じゃあ今から行くね』


和樹くんはわけも聞かずにそう言った。


兄さんとの事だと理解したからだと思う。


きっと走ってくれたんだろう。少ししてインターホンが鳴った。


私は走って玄関に向かいドアを開ける。


「千里大丈....」と和樹くんが何かを言おうとしていた。


でもそんな事も気にせず私は彼の胸に飛び込んでしまった。


「和樹くん....ごめん....私....」


兄さんに言い返せなかった事を言おうとした。


「千里落ち着いて、僕はずっとここにいるからさ。今は無理に話さなくていいよ」と私を優しく抱きしめ和樹くんはそう言った。


どれくらいの時間泣いてたのだろう。少なくとも目の下が痛くなるほどには泣いていた。


自分の情けなさやみんなと別れることの辛さ何より和樹くんの優しい声やこの温もりを感じれなくなることが嫌だった。


和樹くんは私が泣いている間何も言わずにただただ優しく抱きしめてくれていた。それが私にとってとても心強かった。



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