第43話 待ってるよ (冬野視点)

これは文化祭一日目が終わり家に帰った時のこと。


一日中動きっぱなし、それもメイド服を着たまま。


さすがに疲れちゃったなぁ。と私はベットに仰向けで寝転ぶ。


でも....この疲れが不快とは思わない。むしろ心地の良い達成感が私を包み込んでいた。文化祭はこんなにも楽しいんだと初めて気付かされた。


メイド服恥ずかしかったけどみんなにかわいいって言って貰えたしあんまり悪い気はしないかった。


それに....。思い出しただけで少し鼓動が早くなる。


転びそうになった時和樹くんに助けてもらえて良かった。転けてたら多分恥ずかしくて立てなかっただろう。


だけど!何なのほとんどハグみたいなもんだったのね!とそんな事を考えていると突然電話がかかってきた。


「───わっ!?」と思わず声を上げてしまった。


そうして私は急ぎスマホを手に取る。


綾香....?どうしたんだろ。


私は電話に出た。


「もしもし綾香」


『千里、今大丈夫?』


「うん大丈夫だけど....。何か用事?」


『えっと、明日のシフトを伝えようと思って』


「そっか」


『千里は明日午前が店番で午後からは自由時間だよ』


「わかった。ありがとう綾香」


『....でもね和樹、午前が自由時間になっちゃってるんだ』と少し声のトーンを下げそう言う綾香。


「───えっ....」


それだと一緒に回れないじゃん!約束してたのに....。


『多分だけど千里、一緒に回るつもりだよね』


「そ、そうだけど....」


『だったらさ私とシフト交代しようよ!』と思ってもいなかった提案をしてくれた。


「良いの....?」


『もちろん。それで電話したんだ』


綾香はほんとに優しい。


「ありがとう綾香」


『変わりにとは言わないんだけど一つ教えて欲しいことがあるんだぁ』とよからぬ事を考えていそうな声で言う綾香。


「ど、どんな事?」と私はすこし警戒した。


『美香から聞いたんだけど千里ペアショットに興味があるらしいね』


「───うぅっ....」


やっぱりその事だったんだ....。


『和樹誘うの?』と興味津々な様子の綾香。


「さ、誘わないよ!」


『どうして?』


「だ、だって....恥ずかしい....」


絶対和樹くんペアショットのこと知ってるし誘ったらもうほとんど告白だし....。


『そっかぁ〜。でも千里って去年文化祭休んでたんだよね。それって和樹知ってるの?』


「うん、今日の帰りにその話ししたよ」


すると何かを思いついたのかフッフッフゥッ、と不気味な笑い声をあげた後こんなことを言った。


『写真部の近くまで行って撮ってみよ、って誘えば良いんだよ!』


「そんなのバレちゃうよ....」


『わかんないよ。千里が照れなければね』と意地悪っぽく言う綾香。


「からかわないでよ!」


照れないなんて無理だよ....。


『ごめんごめん』と笑いながら言う綾香。


『でも千里もし気持ちを伝えたいならこれが一番のチャンスだと思うよ』と少し真剣な声になる綾香。


「......」


確かに綾香の言うことは正しい。私は何も言い返すことが出来なかった。


『確かに告白が簡単じゃ無いなんてわかってるよ。私もした事ないから強く言える立場じゃないしね』


『でもこのままだとずるずる行ってそのまま別れるなんて事もありそうだからさ』


綾香は私たちのことを心配してくれている。それが痛いほどに伝わってくる。


『ほら、ヘタレの和樹じゃ千里に告白なんて出来ないだろうし』と苦笑いをする綾香。


確かに和樹くんから言ってくれるかなんて分からない。まず私のことを好きなのかも知らないのだから。


私は生きを整えこう言った。


「綾香....写真部に近づいたらいいんだよね?」


確かにこのままずるずるいくのは私だって嫌だ。和樹くんの隣にずっと居るならこの気持ちを伝えることは絶対に必要な事だと思う。


『う、うん....そうだけど....』と少し驚く綾香。


「私頑張ってみようかな....」


『ほんと!』と嬉しそうな綾香。


「うん、綾香のおかげでそう思えた。ありがと」


『ううん、そんな事ないよ。私はいつだって千里を応援してるからね』


「フフっ」と嬉しくて笑ってしまった。


『何か手伝えることがあったら頼ってよ』と優しい声で言う綾香。


「うん、わかった」


こうして私は和樹くんに思いを伝えようと決めた。



そのはずだったのに....。いざ和樹くんを目の前にすると何をすればいいのか分からない!


それより写真部ってどこにあるんだっけ?綾香に聞くの忘れてた....!


と、とりあえずどこかに行かないと何も始まらないよね。


そんな感じで少々ハプニングもありながらも和樹くんと文化祭を回っていた。


───何これ....。楽しい!好きな人と回る文化祭、なんかデートしてるみたい。と私は完全に満喫していた。


そんな時まるで用意されていたかのような嬉しい偶然が起きた。


「そこの二人写真部のペアショットとかいかがかな?」と写真部の人が誘いに来たのだ。


こんなチャンス利用しないわけが無い。頑張れ私知らないふりをするんだ。


「和樹くん一緒に撮らない?」と私は緩みそうな口角を必死に抑えそう言った。


やはり和樹くんは知っていたらしく少し恥ずかしそうに「....わかった」と言った。


私変な顔してなかったよね。自然に誘えてたよね。と並んでいる間そんな事で頭がいっぱいになっており和樹くんを直視出来なかった。


順番になり教室に入った私たちは驚きと恥ずかしさで固まってしまった。


───ハッ、ハート....!


ほとんどカップルで取るよえなセットを目の前にし私は和樹くんを誘ってしまったことが申し訳なく思った。


覚悟を決め私たちはハートの間に入った。


───ち、近い....。写真部の人がハートの間に収まるように立って、と言ったのでしたかないけど....。


和樹くんとの距離が指一本あるか無いかくらいしかないのだ。今にもくっついてしまいそうな距離感にある私達はお互いを見れずにいた。


頬が熱くなるのを感じる。きっと顔が赤くなってるのだろう。


今から写真を撮るのに真っ赤な顔のままでいるのは避けたいところだ。でも私にそれを抑える何てことは出来なかった。


そうして撮った写真は見事に赤くなっておりすごく恥ずかしかった。でもそれは和樹くんも同じだったのだ。


和樹くんも顔真っ赤だ。と私は小さく笑った。少なからず私を意識してくれてるのがわかって嬉しかった。


───よし!と私は気合いを入れ直し机の横にあるペンを手に取り写真を裏返す。


和樹くんは何か書いてくれるのかな....。何て考えながら私はペンを進める。


時間かかっちゃった───。と書き終えた私は急ぎ教室を出る。


和樹くんは既に外で待っていた。


その時一つ気がついたことがある。


今写真のことに触れられるのはまずいと。まだ渡す勇気のない私はこの状況をどう回避すべきかを全力で考える。


教室の時計を確認した時、運良く12時に近づいていた。


「もう交代の時間だから、そろそろ戻ろっか」と私は和樹くんの返事を聞かず歩き出す。


多分不審に思っただろう。でも今はまだ渡せない。激しく動くこの鼓動を落ち着かせるまでは....。


和樹くんもなぜか写真の事には全く触れなかった。もしかしたら気づかれてるんじゃないか、と考えたりもした。



午後4時、文化祭が終わった。


今日もすごい人だったなぁ。と私は深呼吸をし落ち着く。


服を着替えるため更衣室へと向かった。


周りには綾香と数人の女子しかおらず頼むなら今だと思い私は綾香に話しかける。


「あ、綾香....」


「どうしたの?顔赤くして」と少し驚いた様子の綾香。


「これ....」と私は写真の入った封筒を綾香に渡した。


「これって....!」と顔をハッとさせる綾香。


「片付けが終わったあと、和樹くんに渡して欲しくて....」


「良いよ!」と快く了承してくれた。


「ありがと綾香....」


服を着替え終えた私達は教室へと戻る。


人がたくさん来たこともあり洗い物や汚れが溜まっていたりと片付けに相当時間がかかってしまった。


終わったころには辺りは暗くなり始めていた。


これは最初から決まっていたのことなのだけど余った飲み物や持ってきていたお菓子で少し打ち上げをする事になっておりみんな教室の中で盛り上がっていた。


そんな中私は一人教室を出てある場所へと向かう。


全部あの写真で伝えよう、最初はそう思っていた。でもやっぱり口でも伝えた方がいいじゃないかとも思った。


綾香に渡すのを頼んだのはその覚悟を決めるための時間を作りたかったから。


私たちのクラスしか人が居ないからか廊下の電気は消えており月明かりだけが足元を照らしていた。


まるで私しかいないと思ってしまうほどに静かな廊下を歩いていく。でも今はこの方が落ち着く。私はドクドクと鳴り止まない鼓動を抑えようと胸に手を当てる。


「和樹くん待ってるよ....」と私は小さく呟いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る