第42話 文化祭②

文化祭一日目が終わり家に帰ると姉さんがまだ家にいた。


「姉さん帰ってなかったんだ」


「明日の朝帰るの」と姉さん。


「やっぱり暇なんだな」


「暇じゃないよ。明日の昼から講義あるんだから」


じゃあ何でまだ家いるんだ....。とツッコミたくなった。


夕飯を食べ僕は自分の部屋に戻る。


するとなぜか姉さんも着いてきた。


「なんか用か?」


「別にぃ〜」と姉さん。


何か今日の姉さんおかしいな。


「和樹ってさ千里ちゃんのこと好きでしょ」とニヤついた顔で突然そんなことを言い出した姉さん。


「....違うよ」


「嘘つかなくていいよ。お姉ちゃんには全ておみとうしなんだから」


綾香といい姉さんといい何でそんなわかるんだ。もしかして僕、結構わかりやすいのか。


「はぁー、なんで分かったんだ」


「何となく?」と姉さん。


「えぇー....」


「今日千里ちゃんが転けそうになった時和樹助けたじゃん。なんでかわかんないけどそん時の和樹の顔みたら好きなのかなぁ〜って」


「何だそれ....」と思わずツッコミを入れてしまった。


「それで和樹は告白とかしないの?」と冗談ぽく聞いてくる姉さん。


「しないよ」


「えぇーもったいない。和樹ならいけると思うんだけどなぁ....」


「いけるわけないだろ。冬野さんが僕を好きなわけないし....」


「そうかなぁ....」


「そうだよ」


何か今日の姉さんはしつこいな。


「まぁ別に和樹がそれで良いなら良いと思うけど高校生は今だけなんだから後悔はしちゃだめだよ」と少し真剣な口調で言う姉さん。


「わかったよ」


僕がそう言うと姉さんは微笑んで部屋を出ていった。


告白....告白ねぇ。できるならするが当然僕にそんな度胸はないわけだしそれに僕じゃ冬野さんに釣り合わない。



文化祭二日目、この日の前半は自由時間となった。もちろん冬野さんも一緒だ。


「楽しんできてね」と綾香がシフトを交代してくれた。


「和樹くんどこから回る?」とにこにこと楽しそうな冬野さん。


昨日の帰りに来たのだが冬野さんは去年休んでいたらしく今年が文化祭初めてだという。


「そうだなぁ」と周りを見ているとあることを思い出した。


「そういえば悠真のクラス何やってんだろう」


「じゃあとりあえず国賀くんのクラスから行こっか」と冬野さん。


「そうだな」


僕達は悠真のいる五組に向かった。


お化け屋敷か....。ほんとにメイドカフェで良かったな、じゃないと五組と被ってたじゃん。


すると隣で「お化け屋敷....」と少し青ざめた顔をする冬野さんの姿があった。


もしかして....


「冬野さんホラーとか苦手?」


「───えっ....。そ、そんな事ないよ....」と目を泳がせていた。


「苦手なら無理に....」


「ううん、大丈夫だから行くよ!」と冬野さんは僕を引っ張ってきた。


その勢いのまま「二人です」と受け付けの人に言った。


「二名ですね....。どうぞお入りください」と受け付けの人が少し戸惑っていたのを覚えている。


まぁあの冬野さんが急に来たら驚くわな。まだ完全に"氷の女王"が抜けたわけじゃないし。


教室の中は意外と雰囲気があった。黒い布に覆われ一本道になっていた。所々にあるライトや人形が怖さを演出していた。


それよりだ....。


───冬野さん近くない。


多分無意識なのだろう。無理に入った冬野さんは怖いのか僕の手にしがみついている。


こんなの集中出来ないぞ....。と早くなる鼓動を抑えようと必死になっていた。


そんな時隣にあった掃除ロッカーからバァァン!!という音を立て「バァァー!」と中から白服の女の人が出てきた。


「うわぁっ!?」

「───キャァッ!?」と冬野さんがさらに僕の腕にしがみつく。


───なっ....。僕はそっちの方に意識がいってしまいもうお化けなど気にならなくなっていた。


そうしてお化け屋敷ももう終盤となった時またしても隣から「ブアァァァッ!!」とお化けの仮面を被った異様にでかいやつが飛び出してきた。


「うわぁっ!?」


「───キャッ!?」


あれ....このお化け....。


「悠真じゃん」と思わず言ってしまった。


「なんだ和樹じゃねぇか」と悠真。


「どうだ結構怖かったろ」と続けた。


「あっ....ああ、怖かったよ」


やべー....意識が全部冬野さんにいってたせいで何も覚えてない....。


「それよりどうしたんだ。お前ら付き合ってんのか?」と冗談ぽく言う悠真。


何言ってんだ?ってそうだった冬野さんしがみついて....!と僕は腕に視線を向ける。


そこにはやっとそのことに気がついた冬野さんは僕から離れ顔を真っ赤させて固まっていた。


「違うよ悠真。冬野さんが怖がっててさ」


「そうか。怖がってくれたんなら俺たちとしては大成功だぜ」と嬉しそうな悠真。


「そろそろ次来ちまうから隠れるは」


「ああ、じゃあな」と僕は冬野さんを連れ颯爽と教室を出た。


き、気まずい....。


「そ、その和樹くん....」と恥ずかしそうな冬野さん。


「別に気にしてないよ。怖かったんなら仕方ないし....」


正直言うと嬉しかったしな。


「ありがとう....」と俯く冬野さん。


(何してるの私───!気づかないうちに和樹くんに....)と軽くパニックになっていた。


「とりあえずどっか行こっか」


何となくこの場からは離れたかった。


「うん、そうだね」と冬野さん。


しばらくの間お互い恥ずかしく視線を逸らしていた。


「ねぇ和樹くん、私クレープ食べたい」と冬野さん。


「じゃあ買おっか」とクレープを二つ買った。


バナナにクリームとチョコソース。シンプルだが普通に美味しい。


「美味しいね」とクレープを美味しそうに食べる冬野さん。


「だな」


そうしてクレープを食べながら廊下を歩いているとカメラを持った男子が話しかけてきた。


「そこの二人写真部のペアショットとかいかがかな?」


写真部のペアショットだよ....。さすがにそれは....。


すると冬野さんが目を輝かやかせて「楽しそう」と言った。


ちょっと待てまさか冬野さん....。


「和樹くん一緒に撮らない?」と思った通りのことを言った。


ちょっと待てさすがにペアショットは勘違いされ....。そうか去年休んでたから冬野さん知らないのか。でもここで教えるのも違うような。


「....わかった」


この時ものすごい勇気を出していた。


そうして写真部の人に釣れられある教室の前まで来た。


そこには三組の男女が並んでおり僕たちを見るなり目を見開き驚いた様子だった。


ひそひそ声で何かを言っているのがずっと聞こえていたが頑張って無視していた。


冬野さんは並んでいる間なぜか僕から視線を逸らしていた。


そうして回ってきた僕達の番教室の中に入った瞬間、僕は固まった。


さすがの冬野さんも気がついたのか顔を赤くする。


そこには大きなハートの置物がありどう考えてもその間に二人で入るように出来ていた。


「それでもお二人がたあのハートの間でポーズをとってください」と写真部の人が言った。


「行こっか冬野さん....」


「う、うん....」


僕達は覚悟を決めハートの間に入る。


「それじゃあ二人とも笑って」


僕達はお互いを見ずただカメラだけを意識し笑顔を見せた。


多分変な顔になってるだろうと僕は思っていた。


「それじゃあハイポーズ」と写真を撮られた。


「ありがとうございます。それじゃあ写真を現像するので少々お待ちください」


その間僕達は話せずにいた。


「写真できたのでこちらにお入りください」と写真部の人が僕たちを案内する。


そこにはダンボールで作ったボックスにカーテンがかかっておりお互いに見えない状態になっていた。


中に入ると既に写真が用意されておりペンと封筒が置いてあった。


うわぁー照れてんの丸わかりだなぁ。と写真を見て恥ずかしくなった。


冬野さんは何か書くのだろうか?でも知らないなら書かない可能性も....。日頃の感謝ぐらい書いとくか。とペンを手に持つ。


『告白しないの?』と脳裏にそんな言葉が蘇った。


僕はペンを止め考え始める。


正直チャンスだ。偶然だが直接よりは言いやすい。でも冬野さんは嫌がらないだろうか....。


『後悔はしちゃだめだよ』


はぁー、ほんとヘタレだな僕は....。釣り合わないから冬野さんは好きじゃないから、そうやって理由つけて逃げてばっかじゃないか。


中学の時学んだはずだろ。後悔をするのはもううんざりだ。


僕は覚悟を決めあることを書いた。


封筒に写真をしまい教室を出る。


冬野さんまだ居ないな。何か書いてるのかな....。


少しして冬野さんも教室から出てきた。


不意に目が合った時僕は視線を逸らしてしまった。その時何故か冬野さんも恥ずかしそうにしていた。


ちょっと待て、今この写真の中を見られるのはまずい....。と今更ながらそんな事を思っていた。


すると冬野さんはなぜかその話題に触れず「もう交代の時間だから、そろそろ戻ろっか」と言い歩き始める。


交換のこと知らないのか。でも知らないならすぐ出てくるはずだしな....。


少し冬野さんの様子がおかしい気がしたが写真のことを触れられないのは僕にとって都合がいいのでそのままにしておくことにした。


「そうだな」


僕達はお互いに何かを考えながら教室へと戻った。

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