第41話 文化祭①

そうしてついに文化祭当日となった。


メイド姿の冬野さんがあまりにもかわいかった事で女子たちが盛り上がり良く着せ替え人形のようになっていたのをよく覚えている。


「千里のメイド姿やっぱりいつ見てもかわいいなぁ」と綾香。


「ほんとにこんなので良いのかな?」と少し心配そうな冬野さん。


着せ替え人形になった結果、冬野さんは猫耳のカチューシャをつけることで落ち着いた。


「ねぇ和樹、千里かわいいでしょ」とニヤつきながら近づいてくる綾香。


「ああ、そうだな....」


───めちゃくちゃ可愛い。何なんだあの猫耳との相性は!こんなメイドに接待されたらリピートは確実だぞ。


正直メイドカフェにして正解だったと思える程に冬野さんのメイド姿には満足していた。


メイドカフェなのでお客の接待は全て女子がこなす男子は会計や食器の回収などの裏方メインだ。


メイド服やらに予算をかけすぎた結果メニューはオムライスしか出来なくなっていた。一応コーヒーも飲める。


『間もなく文化祭がスタートします』と放送がかかる。


「それじゃあみんな売上一位目指して頑張るよ!」と綾香。


『おー!!』とクラス全員が反応する。


こうして文化祭がスタートした。



それから一時間程度経過したのだが....。


や、やべー....忙しすぎる。予想以上の反響を呼びか休む暇もないくらいに人が押し寄せて来ていた。


「和樹くん!あそこのテーブル空いたから食器お願い!」


「ああ、わかった!」


こうなった主な原因は冬野さんだ。


「い、いら....いらっしゃいませ」と恥ずかしさを紛らわすためなのか少し棘のある声になる冬野さん。


人見知りの彼女は恐らく自然と相手のことを警戒してしまっており久々に氷の女王が垣間見えていた。


冬野さんも冬野さんでそんな態度をとってはいけないとちゃんと頑張っているのだが結局素っ気なさが少し出てしまっている。


そんな様子がお客さんには可愛く見えたのか逆に彼女の人気は高くなっていた。


おまけに店を出る時はこれがあるのだ。


「綾香やっぱりこれ恥ずかしいよぉ〜」


「でもお客さんみんな喜んでるしさ千里の可愛さが詰まってて私は好きだよ」


そんな会話をしていた時会計を済ませたお客さんが出口へと向かっていた。


「さっ、行くよ千里」と小さく呟く綾香。


「また来てくださいね!」とあざとくウインクをする綾香。


あいつはこういうのめちゃくちゃ向いている気がする。


すると冬野さんは照れくさそうに腕を上げ猫のポーズをとったあと「ま....また来て....にゃん」と言った。


そこにいたお客さんは照れくさそうに顔を赤くし「は、はい....」と言って店を出た後まさかの列の最後尾に並んだのだ。


店出てすぐもう一回並ぶ客なんて聞いたことないぞ....。リピートの速さが異常すぎて僕はすごく驚いていた。


確かにあんなん言われたら並びたくなるのも分から無くはない。


照れやすい冬野さんは意外とその感じが可愛かったりする。


そんな時クラスメイトではない誰かが僕の名前を呼んだ。


「和樹来ぞぉー」


「───えっ....ね、姉さん」と僕はあからさまに嫌な顔をする。


「何だその顔はせっかく来てやったのに」と嘘っぽく怒った顔をする姉さん。


大学とかないのか....。


「姉さん暇なの?」


「暇じゃないよ。これでも文化祭に行けるようにお姉ちゃん頑張ったんだよ」


「ふーん」


「それで千里ちゃんは?」


やっぱりそれ目的か....。


「あそこにいるよ」と僕は出口の方を指さす。


「ほんとだ!あれ?綾香もいるじゃん!」と目を輝かせる姉さん。


「ていうかなにあの二人!かっわいい〜!」


「ああ、そうだな....」


すると姉さんは「綾香ぁ!千里ちゃーん!」と言いながら二人の方へと向かった。


「あぁー!楓姉ちゃん!」と綾香。


「か、楓さん....!?」と恥ずかしそうな冬野さん。


「久しぶりだね綾香」


「楓姉ちゃんも!」と言いハイタッチする二人。


綾香と姉さんは性格も似ているのですごく仲が良い。


「ねぇねぇ楓姉ちゃん。見てよ千里可愛くない?」


「うん、すっごくかわいい。今すぐ抱きしめたくなっちゃうくらいに」


「あ、ありがとうございます....」と冬野さん。


「それでこのお店のメニューは何かな?」と姉さん。


「オムライスだよ」と綾香。


「食べてくでしょ」と続けた。


「もちろん」


「了解」とグットポーズをする綾香。


すると綾香が冬野さんの耳元で何かを言った。


その後冬野さんは直ぐにキッチンへと入っていった。


綾香が姉さんを席へと案内した後少しして冬野さんがオムライスを運んできた。


「オムライスです」


「あぁー美味しそう」と姉さん。


オムライスにはケチャップでハートが書かれている。


姉さんは早速オムライスを口へと運ぶ。


「何これ、すっごく美味しい!」と満足そうな姉さん。


「ありがとうございます」と嬉しそうな冬野さん。


実はこのオムライス冬野さんが作ったものだ。

綾香に作ってあげなよ、と言われたらしい。冬野も賛成に作ることにしたという。


すると「そこのメイドさん注文いいかな?」と冬野さんに向かって誰かが言った。


「ただいま」


「それじゃあ楓さん行きますね」


「うん、頑張ってね」


そうして冬野さんは注文を受けに行った後キッチンへと向かおうとしていた。そんな時近くのテーブルの上にあった水がこぼれてしまったのだ。


客が多く店を早く回すためみな少し早歩きで移動していた。それは冬野さんも同じだ。


僕は水を拭き取ろうとタオルを持ち近寄る。


すると


「───きゃっ!」


足元を余り見ていなかった冬野さんは足を滑らしてしまった。


───危ないっ!


冬野さんが転ぶギリギリのところで僕は彼女をキャッチした。


「ごめんなさい!」と水をこぼした客が謝る。


「いえいえ」と僕は返した。


「───か、和樹くん....!」と驚いた様子の冬野さん。


「大丈夫怪我は無い?」と僕は聞いた。


「うん、大丈夫....ありがとう」と少し恥ずかしそうにしていた。


そんな時クラスメイトから「ヒューヒュー」や「立花カッコイィー!」と冷やかす声が上がる。


姉さんもそれを見ていたのでニヤついた顔で「やるじゃん和樹ぃ」と言った。


「やめてくれ....」


僕は何だかむず痒かった。


この日、僕達の店は大繁盛した事もあり後半から自由時間となっていた人達も抜けるタイミングがないままいつの間にか一日が終わっていた。


「終わったぁー!」とクラスメイト全員が席に座りだらりとする。


相当おつかれのようだ。


まさかこんなに来るとわな。と僕は背伸びする。


「今日模擬店回れなかった人は明日の午後か午前は回れるようにシフト組み直すよ」と委員長。


「これは売上一位確定じゃない?」


「こうなったのも全部冬野さんのおかげだね」


「わ、私は別に....みんなが頑張ったからだよ」と冬野さん。


「謙虚だねぇ〜」とみんなが微笑む。


「冬野さん今日はどうだった?」と僕も話しかける。


「すっごく疲れたけど楽しかった」と微笑む。


「ね、ねぇ和樹くん....」と何か言いたげな顔をする冬野さん。


「どうしたの?」


「あ、明日の自由時間....一緒に回ってくれないかな....?」


「良いよ」


「ほんと!ありがとう」と満面の笑みを浮かべる冬野さん。


その笑顔を見ると自然と鼓動が早くなる。


「明日も楽しみだね!」


「ああ、そうだな」


本当に楽しみだ。

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