第39話 近づく文化祭

10月になり少し肌寒い季節になった。この季節にあることと言えば文化祭だ。


今、僕たちのクラスでは文化祭でする模擬店を決めている最中だ。


「それじゃあ案がある人は手を挙げて」と司会をしている委員長が言った。


すると一人の男子が「お化け屋敷」と言った。


「お化け屋敷....。他には?」


「はい!」と綾香が手を挙げる。


「はい、姫島さん」と委員長が当てる。


「メイドカフェ」


すごいとこ攻めるなぁ....。と僕は後ろの席で眺めていた。

当然案を出すなんてしない。


その後も焼きそばやたこ焼きの店など色々案が出たので投票する事になった。


「冬野さんはどれにする?」と僕は聞いた。


「うーん、どれにしよう」と悩んだ顔をする冬野さん。


「和樹くんは?」


「僕は....お化け屋敷かな....」


「そっか」


「じゃあ私もそれにしよっかな....」と誰のも聞こえない声でつぶやく冬野さん。


そうして投票の結果本当にお化け屋敷が選ばれた。


「それじゃあ模擬店はお化け屋敷に....」


「───ちょっと待ったぁー!」と綾香が席をたちそう言う。


「ど、どうしたの姫島さん....?」と困った顔をする委員長。


「ほんとにお化け屋敷で良いの!」


「みんなは見たくないの!千里の....千里のメイド姿が!」といきなりそんなことを言い出す綾香。


冬野さんのメイド姿....。正直揺らいだ。


「───えっ!?な、何言って....」と驚く冬野さん。


教室がざわざわし出す。


その中には「確かにみたいな」とか「うわぁー盲点だった」と欲望丸出しの会話が聞こえる。


冬野さんは高二になりあの素っ気なさがだいぶマシになり仲良くなれば普通に話せしてくれることをみんなに理解されていた。みんな一度も見た事のなかった冬野さんの笑顔を見ることも増えそのかわいらしい笑顔に見惚れてしまうものまでも現れ始めた。


そんな感じで少し取っ付きやすくなった彼女は今ではクラスのアイドルだ。そんな冬野さんのメイド姿を見たくないと思うやつなんていないはずだ。


「千里のメイド姿が見たいものは手を挙げよ!」と綾香。


『はーい!』と冬野さんを除きクラス全員が手を挙げる。そうクラス全員だ、つまり僕も手を挙げていた。


「えっ、ちょ....ちょっと待って」とあたふたする冬野さん。


「和樹くんも手挙げてないで何か言ってよ!」と顔を赤くし助けを求めてくる冬野さん。


「───はっ」と僕はこの時自分が手を挙げていたことに気がついた。


冬野さんが困っている....でも、でもやっぱり見たい。どうすれば....。


「千里お願いできないかな?」と手を合わせ全力でお願いをする綾香。


「でも嫌なら嫌って良いなよ」とフォローする北条さん。


「確かにちょっと恥ずかしいけど良いよ....」という冬野さん。


(メイドカフェちょっと興味あったし良いかな)と冬野さんは心の中で呟いた。


するとクラスで喜びの声が上がる。


冬野さんは照れていたがなんだか嬉しそうでもあった。多分クラスの人達に頼られたのが嬉しかったのだろう。


「冬野さん良かったね。みんなに頼られて」と僕は話しかける。


すると冬野さんはわざと僕から視線を外し嘘っぽく怒った声で「和樹くん、少しは助けてよ」と言った。


「ご、ごめん....」


するとフフっ、と笑った後まるで悪い魔女のような笑みを浮かべ「そんなに見たかったんだ私のメイド姿」と意地悪っぽく言った。


───うっ....。何も言い返せない。僕はさっきまでの自分を思い出し少し照れくさくなった。


そんな僕を見て面白くなったのか冬野さんが追い打ちをかけてくる。


「どうなの?見たかったの?」とニヤつく冬野さん。


どうしたんだ冬野さん。綾香が移ったのか....。と少し心配してしまった。


「.....確かに気になった」と僕は返した。


するとホントに答えてくれると思っていなかったとか驚いた顔をし「そっか....」と前を向き落ち着く冬野さん。少し頬を赤くしていた。


それから文化祭の準備が始まった。


店構えやメニュー、とたくさん決めることがあったり装飾などの材料の購入と忙しくなる。


これも文化祭の醍醐味だ。


冬野さんも楽しそうに準備をしている姿をよく見た。


彼女にとって学校行事を楽しむのは初めてのことなんだろう。


今僕は綾香とダンボールを取りに行くため物置として使っている教室にいた。


二人きりだったこともありこんな事を言い出した。


「ねぇ、和樹ってさ千里のこと好きでしょ」


「───はっ、そんなわけないだろ....」


気づかれているとは思わず分かりやすく嘘をついてしまう。


「嘘つかなくていいよ」と笑顔のまま言う綾香。


いつもならこういう時ニヤついて煽ってくるのにな。と少々拍子抜けだった。


「はぁー、何で分かった」と僕は正直に言った。


「あっ、やっぱり好きなんだ」とニヤつく綾香。


「その顔やめろ....」


「ははっ、ごめんごめん」と笑いながら謝る綾香。


「分かったのは最近だよ。あの誕生日パーティーの時、何となくそうなんじゃないかなぁーって」


「そうか....」


「和樹は告白とかしないの?」


「しないよ....」


「ははっ、まぁ和樹だしね」


今馬鹿にされたのか。


「まぁ単純に告白する勇気もないし、僕に冬野さんはもったいないよ....」


彼女にはもっと良い人と出会えるはずだしな。


「そんなことないと思うよ。千里が一番信頼してるのは和樹なんだから」


「別にそんな事は....」


「あるよ」と言い少し真剣な顔をする綾香。


「あるんだよ。千里は和樹といる時が一番幸せそうにしてる。ほんと嫉妬しちゃうよ」と苦笑する綾香。


「だからさもう少しちゃんと考えなよ。千里のこと....」


「....それじゃあ先戻ってるよ!」と言いダンボールを抱え走って教室に戻って行った


考えろか....。そんなこと言われても冬野さんが僕を好きなのかも分からないのに....。


多分綾香なりの優しさなのだろう。中学の時からあいつが僕のことを心配してくれているのはわかっていた。


確かに僕は冬野さんのおかげで変われた、それに初めて好きになった人でもある。だからこそ後悔はするな、そう言いたいのだろう。


少し考えてみるか....。


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