第38話 誕生日パーティー

この数日、冬野さんと綾香が何やら忙しそうにしていた。その理由が昨日ようやくわかった。


今日は僕の誕生日なのだがみんなでパーティーをしようと言っているのだ。


正直にいうと普通に嬉しいことだ。それに綾香から聞いたのだが発案者は冬野さんだという。それを聞いて口角が上がらない男子などいないだろう。


冬野さんほんと優しいなぁ。


いつもなら家でケーキを食べて終わるはずの誕生日が楽しみだと思えたのはいつぶりだろうか....。



夜の8時、冬野さんの家に行く時間となった。


僕は家を出て冬野さんの家へと向かう。


インターホンを押すとドアが開き冬野さんが笑顔で迎えてくれた。


「お邪魔します」


部屋に入った僕は冬野さんに連れられリビングへと向かう。


パン!という音と共に七色の紙が宙を舞う。


どうやらクラッカーの音らしい。


『誕生日おめでとう!』とみんなが声を合わせそう言った。


僕は驚きで目を見開き少し固まってしまった。


「ありがとう....」 と驚きが邪魔をし上手く声が出なかった。


「もしかしてびっくりした?」とニヤつく綾香。


「ああ、驚いたよ....」


「ほい、プレゼントだ」と笑顔で何かを包んだ袋を悠真が渡してきた。


「俺も」と健吾が続ける。


「ありがとう、開けてみても良いか?」


「おう、もちろんだ」


「その前にみんな席に座ろ」と綾香が言った。


僕含めみんなそのことを忘れており顔をハッとさせ机に向かっていった。


「これ、私からの」と綾香も渡してきた。


「ありがとう」


全員座ったので改めて僕はもらったプレゼントを開けていく。


「イヤホンだ」


悠真からはイヤホンをもらった。


「和樹、だいぶ前に壊れたって言ってたからよ。それにしたんだ」


「ありがとう、ちょうど買おうか悩んでたんだ」


続いて健吾。


「モバイルバッテリー.....?」


「悪い和樹、悩んだんだが何も出てこなくてよ。みんながよくスマホゲームしてるっていうからそれにしたんだ」


「ありがとう、外でもできるのは嬉しいよ」


そうして綾香だ。


「あっ、ちょ、ちょっと待って」と急に止めようとしてきた。


(や、やばいみんな結構ちゃんとしたのあげてるじゃん!)


だが綾香の静止は間に合わず僕は中身を取り出していた。


「───はっ!」と少し頬を赤らめる綾香。


「ハンカチか....?」と悠真が言った。


「だって仕方ないじゃん!これでも一生懸命悩んだんだよ、でも全然良いの見つからないし....それで和樹ハンカチ持ってなさそうだから」 


いや、どう言う偏見.....。とツッコミたくなったがやめた。


「良いよ、綾香。僕は貰えただけで嬉しいからさ」と微笑む。


綾香のくれたハンカチはそこらで売っているのよりも生地が良く藍色の大人っぽいデザインをしていた。


みんな確かに大変だったろうなぁ。僕あんまり物欲ないし....っと自分のことだがみんなに同情した。


そういえば冬野さんはどこいったんだろ......。


するとみんなキッチンの方に視線を向け来た来た、と言った。


何だろうと疑問に思っていると「お待たせ」と冬野さんがケーキをテーブルに置いた。


いちごが乗ったホールのケーキ、そこにはちょうど十七歳になる様に蝋燭が立てられており真ん中には少し不恰好に『和樹くん誕生日おめでとう』とホワイトチョコの板に黒のチョコで書かれていた。


すると綾香が誇らしげに「これ千里の手作りなんだよ!」と言った。


───えっ.....!?手作り。僕は正直驚いた。ケーキ自体の出来栄えを言えば店に売っていても違和感のないほどに綺麗なホールになっているのだから。


「これ冬野さんが作ったの?」と驚きのままにそう聞いた。


すると少し照れ臭そうに「うん....」と答えた。


「あっ、でも綾香にも手伝ってもらったの」


だから綾香誇らしげだったのか....。


「ごめんね、ケーキまでは良かったんだけど....チョコペンで字書くの難しくて....その.....」


「そんなの気にしなくて良いよ。むしろこれが手作りって驚いたくらいだし、それにさちょっと不恰好の方が手作り感があって良い」


「ありがとう....」


「じゃあロウソクに火つけるぞ」と悠真が着火マンを片手にそう言った。


ロウソクに火をが灯った後綾香が電気を消しにいった。


真っ暗な部屋の中でケーキに刺さるロウソクだけがキラキラと輝いて見える。久しくその光景を見ていなかったのですごく綺麗に見えた。


それでもロウソクの火だけでは周りはほとんど見えずみんなの手元を優しく照らすくらいだ。


そんな中「わぁ〜」とケーキに身を乗り出し目を輝かせながら眺める冬野さんの姿が目に入った。暗闇の中彼女の顔だけがロウソクの火に照らされくっきりと映し出される。


僕はそんな冬野さんについ見惚れてしまっていた。


「それじゃあ歌うよ!」と綾香が言った。


『......ハッピーバースデーディア和樹ぃー。ハッピーバースデーテゥーユー』


歌い終わっても火を消裾ぶりのなかった僕の方に首を傾げながら冬野さんが振り向いた。


「立花くん....?」 


目があった僕はようやく冬野さんの方を見つめていたのに気がついた。


「───あっ、いやその.....」と必死に誤魔化そうとする。


「和樹!一息でやっちまえよ!」と悠真。


僕はその言葉に乗りロウソクに向かって思いっきり息を吹いた。


はず....。


頬が熱い。自分でも気がつかないほどに冬野さんに見惚れていたのがとにかく恥ずかしかった。


電気がつき早速食べることになった。


冬野さんが全員切り分けお皿に乗せる。


いただきます、と全員揃ってケーキを食べ始める。


冬野さんの手作りケーキということで僕はすごく楽しみだった。一口サイズに切り口へ運ぶ。


「うまっ....」口に入れた瞬間思わず声が漏れてしまった。


お店のケーキにも負けない、いやお店以上に美味しく感じた。


「うまいな!このケーキ」


「さすが冬野さん!」


「千里、昨日よりおいしくなってない!」


と他三人も驚いた様子だった。


「ありがと」と嬉しそうな笑みを浮かべる冬野さん。


そうしてケーキはあっという間に完食し、みんなで談笑をし盛り上がっていた。


「うわっもうこんな時間かよ」と時計を見た悠真が驚いた顔をする。


いつの間にか時計は22時をとっくに過ぎていた。


「もうそんな時間かぁ....」と寂しそうな顔をする綾香。


これ以上いるのも冬野さんに迷惑だろうしそろそろ帰った方がいいよな。名残惜しい気もするが仕方ない。


「それじゃあそろそろ帰るか.....」と僕は立ち上がった。


すると「あっ....」と呟き何か言いたそうな顔をする冬野さん。


「和樹は近いんだからもうちょっといてやりないよ」と綾香が耳元で呟く。


「それじゃあ後は若いお二人で」とニヤついた顔で綾香が言い家を出た。


あいつほんと誰目線なんだ....?


三人を見送った僕たちは二人冬野さんの家に残っていた。


「コーヒーでも飲む?」と少し照れた様子の冬野さん。


「お願い....」と僕も断りにくかった。


さっきまでとは違い少し物静かな雰囲気になったこの空間は僕の鼓動を早めるには十分だった。


何かすごい久々に二人になった気がする....。


冬野さんがコーヒーを入れ机に並べる。

その後近くの棚を探り始め何かを見つけると僕の方に視線を向けた。


「か、和樹くん....これ」と何かを包んだ袋を渡してくれた。


「これって....」


「プレゼント....。ケーキの準備してたらあげるタイミング無くしちゃって」とあたふたする冬野さん。


「開けてもいい!」


「う、うん良いよ....。」


僕は綺麗に袋を剥がし中を確認する。


「メガネ....?」


「そ、それブルーライトカットの....。ゲームばっかりしてたら目疲れちゃうと思って」


確かに最近良く目が疲れる。


「ありがとう、大事に使うよ」 


「そ、そっか」と少し照れながらも嬉しそうに微笑む冬野さん。


「今日はありがとう。誕生日パーティーするって言ったの冬野さん何だよね。すっごく楽しかったよ」


「それなら良かった」


「僕さいつも誕生日はケーキだけ食べて終わるそんないつもとあんまり変わらない日って思ってたんだ。欲しいものも思い浮かばないからそんなに意識したことなかった」


「ふふっ、確かにプレゼント選びは苦戦したよ。でもその....和樹くんを喜ばせたかったから....」と言い顔を赤くする冬野さん。


───うっ....きた、反則技だ。その言葉は僕の鼓動を加速させ嬉しさが込み上げてくるものだった。


「そっか、ありがとう。冬野さんのお陰で今年の誕生日はとっても良い日になったよ」


これは冬野さんの誕生日のハードルが上がったな。一回の誕生日じゃ返せないくらいだ。


「和樹くん、こんな日だからさ言うね。いつもありがとう」と満面の笑みを浮かべる冬野さん。


「こちらこそ、ありがとう」と自然と笑みが溢れる。


「何だか照れくさいね」と笑う冬野さん。


「同感だ」


そんな会話をししばらく笑い合ってこの日は終わった。


やっぱりこうやって冬野さんといる時間はすごく心地良くて良いな。控えめに言って最高だ。

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