第36話 忙しない二人
二学期に入った初日、冬野さんの様子がおかしかった。あいさつをするだけで顔を赤くしたり学校では横目でちらちらと見てきたりと少しおかしいのだ。正直あそこまで見られると気になるし少し照れくさくもある。
だがそんな事も可愛く見えてしまうほどの出来事が今起きてたのだ。
「またね和樹くん....か」
エレベーターの中でさっき起きた情景を思い出しそう呟く。
鼓動が早くなる。あれはさすがに不意打ちすぎる。
確かに今日ちょっと様子がおかしかったから何かあるとは思ったけどまさかこんな事だとは....。
今思えば朝、あいさつしてた時も何か言いかけてたしなぁ。
名前呼びするためにあんなに顔赤くして言ってたのか....。
かわいいな。と僕の頭の中には冬野さんしか出てこなくなっていた。
というかこうなると僕も名前呼びした方がいいのか?でもさすがにハードルが高すぎるな.....。
※
次の日、僕はどうすべきか少し悩みながらエレベーターを降りる。マンションの外には既に冬野さんがいた。
「あっ、お、おはよう和樹くん....」と少し照れくさそうに言う冬野さん。
───っ!!僕の胸がそれに反応した。
嬉しいけど急に呼び方変わるとむず痒いような....。
すると冬野さんが少し期待の籠った目で僕を見てきていた。
なるほど名前で呼んで欲しいということか....。
「え、えっと....」と口にするのが恥ずかしくどうすれば誤魔化せるかを考えてしまう。
だめだ....何も思い浮かばない。それに言ってやらないのも悪いしな....。
「お、おはよう....」
もうどうにでもなれ!
「千里....」と僕は視線を逸らし言った。
あっぱり急に名前呼びにするってのは結構照れるな....。
「.......」
あれ....?なんだこの間は....。
冬野さんは何故か黙り込んでしまった。
頼む何か言ってくれじゃないと恥ずかしくて死んでしまう。
綾香以外の女子を名前で呼んだことなんてない僕にとって今のは相当勇気を出したのだ。
さすがに反応が無さすぎるので冬野さんを怒らせてしまったんじゃないかという考えが頭をよぎってしまい横目でちらっと彼女を見る。
するとそこには手で顔を覆う冬野さんの姿があった。
───えっ....どうしたんだろ。とまさかの行動に僕はガッツリ彼女に視線を送る。
手の隙間から見える彼女の頬が赤くなっているのが見えた。
まさか....照れてるのか?
「....ち、千里どうしたの....?」
さすがに我慢の出来なくなった僕は冬野さんに話しかける。
「───えっ!?えっと何でも無いよ....」と驚いた様子の冬野さん。
すると顔を覆う手をどかしたと思えば僕から視線を外し「行こっか」と歩き始める冬野さん。
「えっと千里....ほんとに大丈夫?」
僕は体調が悪くなったんじゃないかと心配した。
そう言うと冬野さんが「うぅ〜」と唸った後
「ね、ねぇ和樹くんやっぱり名前呼びやめて....恥ずかしい」と真っ赤になった顔を見せそう言う冬野さん。
そ、そんなに───。と少し驚いてしまった。
確かに人とあまり関わって来なかった冬野さんにとって異性から名前呼びされるのは結構違和感があるのかもな。それでもこの反応は少しオーバーなきもしなくはないがかわいいからいっか。
「わかった....」
僕も冬野さん呼びの方が落ち着くのでそれに了承した....。
(ちょっと期待してたけどほんとに呼んでくれると思ってなかった。はぁーびっくりした)と冬野さんは心の中でそう呟いた。
学校に着きしばらくして授業が始まった。
なんだか日常に戻った感じで少し心が落ち着く。
まぁ夏休みに色々ありすぎたしな....。と僕はあくびをした。
ある休み時間冬野さんが綾香や北条さん達と話していた。
結構近くで話しているので聞くつもりがなくても話している内容が自然と耳に入ってきた。
「そういや、千里って誕生日いつ?」と北条さん。
へぇー名前呼びするようになったんだ。と気づいた。
「私の誕生日は12月25日だよ」
「クリスマスじゃん!」と驚く綾香。
「へぇー珍しぃ」と北条さん。
12月25日....よし覚えた。これはいい事を知ったな。と少しニヤついていた。
まだ時間あるしトイレ行くか....。
僕は教室から出てトイレへと向かう。
それを冬野さんは横目で追っており僕が完全に見えなくなったのを確かめたあと綾香に小声でこんなことを聞いた。
「綾香、かず....立花くんの誕生日っていつなの?」
「千里知らなかったの!?」と驚く綾香。
「うん、聞いたこと無かったから....」
「和樹の誕生日あと三日しか無いよ!」
三日後9月5日が僕の誕生日だ。
「───えっ....!?」と驚き落ち着かない様子の冬野さん。
「ど、どうしよう何かプレゼントしたいけど立花くんの欲しい物わかんないよぉ....!綾香知らない?」
「和樹の欲しいものか.....」
綾香は少し悩んだ後「わかんない....」と言った。
それを聞いた冬野さんは一段と落ち着かなくなる。
すると綾香が顔をハッとさせ「そうだ!悠真ならわかるかも!」と言った。
すると冬野さんの目に少し輝きが戻る。
「千里早速聞きに行くよ!」
「うん!」
二人は教室を飛び出し悠真のいるクラスへと向かう。
僕は二人が聞きに行っている間に教室に戻っていた。
「悠真来て!」と綾香が声を荒らげて言う。
「どうしたんだ?」と二人の焦った様子に首傾げながら近づく悠真。
「悠真、和樹の欲しいものとか知ってる?」と綾香が聞く。
「知らねぇ」と即答する悠真。
「う、嘘でしょ....」と絶望する冬野さん。
「もうちょっと考えてよ!」と綾香が言った。
「だってあいつ物欲全くないしずっとスマホでゲームしてっからなぁ」
『確かに....』と二人とも納得してしまう。
「そうか、何でそんな焦ってんのかと思ったら今週末あいつ誕生日じゃねぇか」
「そうだから立花くんの欲しいものを知りたいの」
「あいつなら何でも喜ぶと思うぜ。あげたいって気持ちがあんならそれでいいんじゃねぇの」
「あげたい気持ち....」
「悠真、珍しくいい事言うじゃん」と綾香はニヤつき悠真をつつく。
「そうだろう」とドヤ顔をする悠真。
「そっか、そうだよね。気持ちが大事だよね。綾香今日時間ある?」と少し自信がでてきた冬野さん。
「うん、もちろんあるよ」
「じゃあプレゼント選び付き合ってくれないかな?」
「良いよ」と微笑む綾香。
すると授業始まりのチャイムが鳴った。
「まずい───!千里戻るよ」
「うん、あっ、国賀くんありがとう」
そうして急ぎ足で二人は教室に戻る。
チャイム鳴ってるのに二人とも返ってこないなぁ。
何も知らず教室にいた僕はそうおもっていた。
「あぁー間に合ったぁ」と安心した様子の二人。
冬野さんが席へと座る。
「何してたの?」
僕は気になって聞いてみることにした。
「───えっ....!?えっと....」と驚いた後目を泳がす冬野さん。
「秘密」とはぐらかされてしまった。
言いたくないなら良いけど....。
※
授業が終わり放課後となった。
「ごめん和樹くん、今日綾香と帰るね」
「うん、わかった」
「千里、早く行くよ!」
「うん、今行く」
「それじゃあまたね和樹くん」と微笑み急ぎ足で綾香と教室を飛び出していった。
何だか忙しないな。授業中も二人揃ってなんかソワソワしてたしほんとどうしたのやら....。
僕は久しぶりに一人で家に帰ることとなった。高二になってからずっと冬野さんと帰っていたので何だか少し寂しさがあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます