第34話 恋の相談と決意 (冬野視点)

花火も終わりその帰り道、私は浴衣を返しに行くために綾香のおばあちゃん家に向かうことにした。


「それじゃあ立花くんバイバイ」


私は手を振る。


別れるのは少し寂しい気もするが仕方ない。


「ああ、またな....」と立花くんは少し照れくさそうに手を振り返し私たちとは逆の方に歩みを進める。


すると綾香が「ちょいちょい別に先帰らなくても良いじゃん!」と立花くんを止めニヤつく。


「でも僕着いていく意味ないだろ....」と立花くん。


「そうだよ綾香。立花くんを待たせるのは悪いよ....」


すると綾香は何か悩んでいるような顔をする。どうやっても立花くんを帰らせたくないのだろう。


少しして綾香は顔をハッとさせた後ニヤリとさせ立花くんに近き、耳元で何かを口にした。


それを聞いた立花くんは顔をハッとさせた。


するとため息を着き「わかった、着いて行くよ....」と言った。


綾香何言ったんだろう.....。と少し気になった。


しばらく歩き綾香のおばあちゃん家に着いた。


「じゃあ着替えてくるから和樹は外で待っててね」


「ああ...」


「あっ、ドアの鍵開けとくけど覗いちゃだめだよ」


「覗くか!てか閉めろよ!」


「はいはーい」と笑いながらドアを閉め鍵をかける綾香。


するとニヤつく顔で私の方を見て「開けてた方がよかった?」と言った。


「そんなわけないでしょ!」


「まっ、そうだよね。冗談だよ」


そう言って笑う綾香。


たまに綾香は何するかわからないからほんと心臓に悪い....。


着替えている途中綾香がこんな事を言った。


「さっき電話しても良いって言ってたけど今私しか居ないし話してもいいよ」


そ、それは....。


「直接話す勇気がなくて....」


着替えてる時、話せるのはわかっていた。でも面と向かって好きな人が出来た、何て恥ずかしくてとても言えたものでは無い。


「そっか。じゃあ電話楽しみにしてるよ」


多分、綾香は感ずいているんだろう、ニヤニヤと笑みを浮かべていた。


着替えが終わり家を出る。


「じゃあまたねおばあちゃん」と笑顔で手を振る綾香。


「お邪魔しました」


「また来てね。二人とも」


私たちはドアを開け外へ出た。


「お待たせ立花くん」


「ああ....」


三人揃い家へと向かう。


すぐの別れ道で綾香とは別れた。


私と立花くんの二人きりになった時、何故か緊張してしまう。まるで初対面の時のような感覚、だけど少し違う。


何を話そう───。


いつもなら何か思いつくのに今日は何も出てこない。でも話しをしないのもそれはそれで落ち着かない。


隣で歩いているだけで鼓動が早くなる。何か話してないとそればかりに意識がいってしまう。


すると立花くんが口を開いた。


「花火どうだった?」


「えっ、えっと綺麗だったよ」


正直花火どんなだったか覚えてないよぉ〜。


「そっか....」


再び静寂が私たちを包む。


会話が終わっちゃった....。


この間が私にはとてもむず痒く感じた。それでも立花くんが隣にいると嬉しくもあった。


そんな感じでたまに会話を挟みながら私たちはマンションへと帰ってきた。


エレベーターが私の部屋の階に止まる。


「それじゃあまたね....」


「うん、バイバイ」


私は立花くんと別れた。


この帰り道、お互いちゃんと顔を見れていなかったのを覚えている。


私は早足で部屋に入り「はぁー.....」とため息をつき落ち着いた。


心臓がドキドキと強く鼓動を打っている。


何で二人きりになるだけであんなに緊張しちゃうんだろ.....。


初めて立花くんに話しかけた時と同じくらいに私は彼と話すのに何故か緊張してしまう。


それでもなぜか彼から離れたくないと思っている自分がいる。これが好きになる、って事なのか私にはわからない。


家に帰り少し落ち着いたので綾香に電話をかけることにした。 


電話はワンコールもせずに綾香と繋がった。


───早っ。と少し驚いたが私は「もしもし綾香....」と話しかける。


『よっ千里、それじゃあ電話で話したいと言っていたことを聞こうか』


単刀直入に聞いてくる綾香。


すごく目輝かせて興味ありげな様子だったので覚悟はしていた。


私は息を整え口を開ける。


「私.....私ね....す───」


「す?」と疑問そうな声を出す綾香。


は、恥ずかしくて言えないよぉ〜。電話越しだったら大丈夫だと思ってたのに全然恥ずかしい。


ただ好きな人ができたと言うだけなのに言葉が詰まってしまう。顔が急激に熱くなり落ち着いたはずの鼓動がまた早くなる。


でも言わなきゃ始まらない!


私はもう一度息を整え覚悟を決める。


変に意識するから言えないんだ。意識しちゃう前に言い切っちゃえばいいんだ!


「私....私好きな人ができたの───!」と私は目を瞑り力一杯そう言った。


言えた!とそこには恥ずかしさより謎の達成感があった。


『これはこれは千里も年頃だねぇ〜』


少し大人びたような口調の綾香。


綾香、絶対今ニヤついてるよ....。


「それでそれで誰が好きなの!」と興味津々な様子。


「え、えっと.....た、立花くん.....」とだんだん声が萎んでいく。


鼓動が一層早くなる。


『いや〜和樹も隅に置けないねぇこんなかわいい子に好かれるなんて羨ましい限りだ』


「もぉーからかわないで!」


『ごめんごめん、千里から恋の相談を受けるのが嬉しくてつい.....』


そう言い笑う綾香。


相談に乗ってくれるのはありがたいけど......。


『それで千里はどうしたいの?』


少し真面目な声になる綾香。


「どうしたいって....?」


『んっ〜....例えば付き合いたいとか.....?』


「付き合うっ!?」


そんなこと考えてなかった私は思わず大きな声を出してしまった。


立花くんと付き合う.....付き合う.....。


『あれ、千里もしかして付き合いたいとかの相談じゃなかった?』


「別にそういうのはじゃなくて.....」


そう言っている時に気がついた。私何の相談したんだっけ.....?


好きなのはわかった?じゃあこれからの事?

それなら付き合うのもそのうちなんじゃ.....。


「うぅ〜」と恥ずかしくて思わず唸ってしまう。


恋とは本当に難しい。


「やっぱり綾香、私付き合いたいのかも....」


立花くんの隣にずっといたい。多分それが叶うのは恋人だけなんだと思う。それなら私は───。


「綾香、立花くんと付き合うならどうしたら良い?」


これを知らきゃだめだ。


『よくぞ聞いてくれた!』


自信満々な声で言う綾香。


これは期待できる!と私は耳を澄ませる。


『和樹と付き合うには!』


「付き合うには?」


『付き合うには』


「付き合うには.....?」


『えっと....ごめん.....やっぱわかんない....』


申し訳なさそうな声で言う綾香。


「───えっ!?今わかるみたいな言い方だったじゃん!」と思わずツッコミを入れてしまった。


『わかると思ったんだけど.....。今思えば私、和樹のタイプとか知らなかった....』


そう言いわはは、と嘘っぽく笑う綾香。


『でも何も無いわけじゃないよ!』


「ほんと!」


『やっぱり付き合うなら少しずつお互い距離を縮めなきゃだよね』


「うん....」


でも立花くんとは結構仲良くなった気がするんだけどなぁ。


『高二が始まってもう二学期になるって言うのに千里も和樹もまだ苗字にくんさん付け、そろそろ名前呼びしても良いと思うんだよねぇ』


名前呼び.....。


「でもそんな事でいいの?」


『名前呼びを舐めちゃいけないよ。これは大きな一歩だと思って良いんだよ』


「うん、わかった!」


『もう夏休みも終わりだし二学期から始めるよ!私応援してるから!』


「うん、私頑張る!」


電話越しに私はガッツポーズをしやる気を出す。


『それじゃあ和樹惚れさせ作戦開始だぁー!』と楽しそうな綾香。


「おぉー!」と私も返す。


それが面白くてお互いに笑ってしまった。


綾香との電話が終わった時立花くんから写真が送られているのに気がついた。


それを見て私は「ふふっ」と嬉しくて笑った。


花火が打ち上がった瞬間に撮った立花くんとのツーショット写真。


私はすぐに保存し眺めた。


待ち受けにしよっかなぁ。なんて思ったほどにその写真は気に入った。


やっぱり私は立花くんといる時が一番幸せだと感じる。


二学期はもっと仲が縮まると良いなぁ。




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読んで頂きありがとうございます。


これにて2章完結です。

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