第33話 初恋の花火が咲き誇る (冬野視点)
夏祭り、楽しみだった私はこの日、すごくうかれてた。
親に連れてってもらった覚えもなく、花火だって家の窓から少し見える程度でちゃんと見た事なんてない。
何よりみんなで屋台をまわれることを楽しみにしていた。金魚すくいもすごく楽しくて食べたいものもたくさんあった。
そのせいで私は綾香といつの間にかはぐれていた。それに気がついた時、背筋が凍るような感覚になりとにかく焦っていた。
電話をしようにもスマホを忘れていて掛けることができない。どれだけ周りを見ても綾香の姿はない。じっとしていられなかった私はとにかく歩いた。みんなを探し回りながらそうしてたどり着いたのが時計のある円形の広場だった。
ここ集合場所じゃ......。と私は思い出し座って待つことにした。これ以上歩いても逆にもっと迷惑をかけてしまいそうだったから。
私は座りただ時計を眺めた。どんどんと近づく花火までの時間、このままみんなで見れないのかなと思うと不安で今すぐにでもみんなに会いに行きたいという気持ちでいっぱいだった。
花火の始まる五分前を過ぎた時、私はみんなとは見れないと完全に諦めていた。
───そんな時だ。
「ふ.....冬野さん」
息を荒くさせ話す聞き覚えの声が耳に入った。
私は不意にその声の方を振り向く。
「立花....くん?」
私の瞳の先には彼がいた。彼が私を見つけてくれた。
「やっと見つけた」
普段あまり大きく表情を変えない彼には珍しくこの時は心底安心したような表情をしていた。
きっと走っていたのだろう。息切れが酷く額からはぼとぼとと汗を流していた。
そんな彼を見た時、私は申し訳なさと嬉しさが混ざり彼を直視出来なかった。
───ごめんなさい。私は彼に謝った。当然だ迷惑をかけたのだから。
それでも彼は私の頭を優しく撫でて許してくれた。
でも私の中の罪悪感は消えない。
すると彼はクスッと笑い。私にスマホの画面を見せてくれた。
そこにあったのは綾香からの大量のメールだった。
そこには私を責めるような言葉はなかった。
その時ちゃんと彼の顔を見た。ただ優しく微笑む彼の顔を見てやっと私はちゃんと感謝ができたと思う。
そうして報告のためか立花くんは私と写真を撮ろう、とカメラを向けた。
シャッターを押す瞬間に大きな音を立て花火が上がった。
初めてちゃんと見る花火に私は目を奪われた。
赤や青、たくさんの色の花火が夜空を照らす。
そんな時、立花くんが口を開いた。
「ふ、冬野さん.....き、きれいだね」
何故か震えた声を出す立花くん。
花火のことだと思った私は「そうだね。初めてこんな近くで見たよ」と返した。
すると少し間を空け立花くんがこう言った。
「花火もだけど───」
そう言い顔を少し赤らめる立花くん。
「んっ?」
どういう意味かわからず私は首を傾げた。
「冬野さんもきれい....」
立花くんはそう言った。
「えっ!?」
───なっ!?急にどうしたの!
「ゆ、浴衣似合ってる.....」
どうやら立花くんは私の浴衣姿を褒めてくれたらしい。
鼓動が早くなるのを感じる。頬が熱くなりきっと真っ赤になっているだろう。
いきなり過ぎるよぉ〜....!でも嬉しい....。
私はこの時、立花くんを見つめていた。
頬を赤くしてあからさまに恥ずかしがる彼がかわいいと思った。
出会ってからずっと彼には助けられてきた。どんなに困っていても彼は私を置いては行かない。
彼が私を見つけてくれた時、ほんとに嬉しかった。
「あ、ありがとう立花くん....」
私は褒めてくれた感謝をした。
「う、うん」
そう言い照れくさそうに私を見る立花くん。
彼と目が合うだけでさっきより鼓動が早くなっていく。でもなぜかそれが少し心地良いと感じる。
そっか....。やっと気がついた。
彼を目で追ってしまうのもドキドキと鼓動がうるさくなるのもきっと私は───。
私は立花くんの事が好きなんだ。
そう気がついた時、私は確かめたくなった。この気持ちが本当なのか。だって仕方ない私のとってのこれは初恋なのかもしれないのだから。
立花くんに触れたらわかるかな.....?
そんな事を思っていた私はいつの間にか左手で立花くんの袖に手をかけていた。多分無意識で恥ずかしいと思ったのだろう、これが私の限界だったのだ。
でも立花くんを振り向かせるには十分だった。
「冬野さん....?」と目を見開き驚く立花くん。
その顔が視界に入った時私は初めて自分が彼の袖を握っていることを知った。
───っ!?
「───あっ!ご、ごめん。何でもない!!」
私は咄嗟に手を離した。
何やってんの私!!
顔がさらに熱くなる。恥ずかしすぎて手が震え出した。
行き場を失った左手を自分の方へと戻そうとしていた。
───その時だ。
えっ.....?
私の左手に何か温もりを感じた。
それは少し固くぶるぶると震えていた。
そう、立花くんの手だ。
「立花くん!?」
私は急な出来事に大きい声を上げてしまった。
「.......」
顔を赤くさせ花火に目を向けながら私の手を優しく握る。
ど、どうしちゃったの立花くん───!?
手、手を繋っ───。うぅっ.....恥ずかしい....。
自分から誘ったはずなのにものすごく恥ずかしかった。でもそれ以上に嬉しかった。
私は立花くんの手を握り返す。
すると体を少しビクッとさせ驚いた様子の立花くん。でも私はそれを直視出来なかった。彼に目を向けようとすると心臓が破れてしまいそうなぐらいに鼓動が早くなる。
私は彼を意識しないよう花火をじっと見つめる。
や、やっぱり....もう花火に集中できないよぉ....。
花火が終わるまでの時間が長いように思えたが終わると呆気なかった。
その時にはお互い大分落ち着き話せるくらいには戻っていた。
「それじゃあ戻ろっか....」
「うん、そうだね....」
彼に連れられ綾香達がいる場所へと向かう。この時にはもう手を繋いでることを忘れていた。それ以上にうるさい鼓動を抑えるのに必死だったのだ。
夏祭りの会場の出口に綾香と国賀くんが待っていた。
「待たせた」
「お待たせ....」
私もそう言ったのだが綾香と国賀くんは顔をポカンとさせたまま固まっていた。
すると綾香がその状態のまま「な、何で手繋いでるの?」と言った。
手?私は下を向く。
───っ!?
ここでやっと手を繋いでたことを思い出し私は瞬間的に手を離した。
立花くんもそれは同じだったらしい。
み、見られた───。顔が熱くなるのを感じる。
何か....何か言わないと....!と焦っていると立花くんが先に口を開いた。
「ち、違うんだ。その、あれだ。またはぐれたら大変だから手を繋ごうって....」とあからさまに動揺していた。
「そ、そうだよ!また迷惑かけちゃうのは嫌だからさ!」
それでも私は立花くんの発言に乗った。
すると綾香はニヤつくき「へぇ〜優しいね和樹ぃ」と言う。
「......」今回ばかりは言い返せず顔を赤くさせ苦虫を噛んだような顔をする立花くん。
「なんだなんだ、やるじゃねぇか和樹」とニヤついた顔で立花くんに近づき首に腕を掛ける国賀くん。
「やめろ....」と少し不機嫌そうな顔をする立花くん。
「おいおい照れるなよ和樹」と追い打ちをかける国賀くん。
そうやって二人が言い合いをしている時、私は綾香の方に近づく。
言うのは恥ずかしいでもこれからどうしたらいいのか私は分からなかった。
「ね、ねぇ綾香....」
「どうしたの千里?」
「今日家帰ったら電話しても良いかな....?」
すると綾香は目を輝かせ「もちろん良いよ!」と言った。
「ありがとう....」
少し落ち着いた今でも私の気持ちは全く変わっていない。立花くんと握っていた手にはまだ彼の温もりを感じていた。
やっぱり私は立花くんの事が好きなんだ。
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