第32話 夏祭り
海に行ってからというもの夏祭りまで何も予定は無く僕は夏休みの宿題を少しづつやりほとんどをゲームして過ごすといういつもの夏休みに戻っていた。
冬野さんと出かけたいとか思ったが誘う勇気のない僕はたまにスマホをちらちらと気にし連絡が来ないかと気にするそんなきもい事をしていたのをよく覚えている。
誰かに見られていたら黒歴史ものだ....。
※
結局誘えないまま夏祭り当日を迎えた。
綾香と冬野さんは先に二人で行ってると言い僕は一人で集合場所へと向かった。
そうして集合場所に着いたのだが悠真がいるだけで二人がいる様子はなかった。
先に来てるわけじゃないのか....?と少し疑問に思った。
それにしても凄い人だな。この夏祭りは花火大会もあり多くの人が来ている。中は本当に足の踏み場もないほどぎゅうぎゅうになっていた。
「よぉ!和樹」と手を上げる悠真。
「ああ、冬野さん達は?」
「まだ来てねぇよ」
「そっか....」
じゃあ何で二人は先に行くなんて言ったんだ?僕はますますどういう事なのか気になって仕方なかった。
数十分待ってようやくその答えがわかった。
「お待たせぇー!」と綾香の声が耳に入った。
僕達はその方に顔を向ける。
───えっ....!?僕はそのまま固まってしまった。
冬野さんと綾香が僕たちの前まで来た時悠真は二人をまじまじとみて「浴衣かぁ良いじゃねぇか」とグッドポーズをした。
「似合ってる」と見せびらかす綾香。
「ああ、なかなか良いじゃねぇか」と珍しく褒める悠真。
その返答が意外だったのか少し驚いた顔で「そ、そっか」と言い恥ずかしそうな顔をする綾香。
「立花くん....?」と僕の方によってくる冬野さん。
僕はようやく我に返り心配そうな顔をする冬野さんをみて急いで口を開いた。
「ひ、久しぶりだね冬野さん」と分かりやすくキョドってしまった。
「そうだね、それで....」と何かを言おうとした冬野さん。
僕はそれを遮り「それじゃあ行こっか」と言い歩き出した。
「和樹どしたの?」と悠真に言う綾香。
「知らねぇ」と少しニヤつく悠真。
見えてはいなかったが冬野さんは少し悲しそうな顔をしていたらしい。
何やってんの僕───。絶対褒めるべきだったよね。何逃げ出してんだこのヘタレが!
僕は褒めれなかった。いや直視出来なかったのだ。
さすがに似合いすぎてないか?初めて見たけど髪結んでもかわいいってほんとに何なんだ....。だめだ帰るまで心臓持つか....?
そう思うほどに心臓がうるさく唸っており少し苦しいとまで思った。そうだ僕は冬野さんの浴衣姿に見惚れて固まっていたのだ。
赤色の浴衣にお花の髪飾りどれも冬野さんにあっており彼女のかわいさが際立っていた。
僕は恥ずかしくて褒めれなかったのだ。
帰るまでには絶対に言わなきゃな。と僕は覚悟を決めた。
「千里、金魚掬いあるよ!」と指をさす綾香。
「行く!」と冬野さんは声を上げた。
「じゃあ勝負だ!」と言い二人でその方へと走り出した。
「おい!お前らはぐれから待て!」と僕は声を上げる。
「向こうに方に時計がある円形の広場があるはずだから後で集合しよ!」と言い先に行ってしまった。
「はぁー何やってんだ綾香は....」とため息をついた。
「まぁあいつも楽しみにしてたんだし許してやれよ」と僕の肩に手を置きそう言う悠真。
そう言う問題じゃないんだ....。こうなると浴衣褒めるタイミングのがしちゃうんだ───!と僕は内心焦っていた。
「なぁ和樹何か食い物探そうぜ。腹減った」と呑気な悠真。
「わかった....」と仕方なく着いていくことにした。
その頃、冬野さんたちは....。
「金魚すくい一回」
「お願いします!」とお金を渡していた。
「ほい、頑張って」と美人が来て嬉しそうな顔をする店のおじさん。
冬野さんは真剣な顔なり水槽にいる金魚をマジマジと見て狙いを定める。
「おりゃっ!」となれた手つきで金魚をすくう綾香がいた。
それを見た冬野さんは負けたくないと焦り冬野さんは目の前の金魚を狙うべくポイを沈める。
ポイのちょうど真ん中あたりに金魚が来た時「えいっ!」と上にあげた。
しかし勢いが強すぎてポイは破れてしまい金魚は逃げてしまった。
「あぁー.....」と破れたことが残念で口を開く冬野さん。
「まだまだだね千里」とすでに三匹ほど捕まえ全く破れていないポイを見せる綾香。
冬野さんは悔しさから頬を膨らまし「もう一回!」と店主にお金を渡した。
冬野さんは慎重にポイを沈めるて金魚の様子を伺う。
(今だ!)
冬野さんはさっきよりも勢いを殺し金魚を優しく掬い上げた。
「やったー!綾香取れたよ!」と嬉しそうに微笑みながら綾香に金魚を見せつける冬野さん。
「すごいじゃん千里」と綾香も微笑み返した。
この時僕たちは別のところで「うまいな」と二人寂しくたこ焼きを食べていたので気がつかなかったが二人の周りに人が集まっていたらしい。
浴衣美人なんてそうそういないから興味が湧いたのだろう。
結局冬野さんはその一匹しか取れなかったがすごくご機嫌な様子だったらしい。
「千里何食べたい?」と綾香は提案する。
「う〜ん」と悩みながら屋台を見渡す。
綾香も同様に周りを見ていた.....。
そんな時だ───。
「───痛っ」と冬野さんの方に誰かがぶつかった。
「ごめんなさい」と謝る冬野さん。その時彼女はやっと周りが見え始めていた。
「───あれ....綾香....?」
いくら周りを見てもそこには綾香の姿はなかった....。
冬野さんは一気に血の気が引くような感覚を感じた。
それは綾香も同じだった。
「千里、焼きそばあるよ!」と隣を見る綾香。
「千里....?」と周りを見渡す綾香。
すぐに逸れた事に気がついた綾香は声を上げ「千里ぉ!!」と叫んだ。
だが返事はなかった....。
※
たこ焼きを食べ終わり次は唐揚げでも買うかと相談していた僕たちのところに急に電話がかかってきた。
僕はスマホを取り誰からか確認する。
「悠真ちょっと待って綾香から」と言い止めた。
道のはじに移動し僕は電話に出る。
たくさんの人の声が一斉に僕の耳に入りその中から焦った声の綾香の声が聞こえた。
『和樹....ごめん、千里と逸れちゃった』
「本当か?」
『うん、屋台見てたらいつの間にかいなくなってて.....』と震えた声で言う綾香。
「冬野さんに電話は?」
『したけど繋がらない....。もしかしたら浴衣に着替えた時に忘れてきちゃったのかも』と言った。
まずいな....。
「綾香は今どこにいる?」
『わかんない....人混みの中。───きゃっ!』と悲鳴のような声が聞こえた。
「大丈夫か?」
『うん、人にぶつかっただけ....』
「とりあえず綾香はそこから離れるな」
綾香を動かすのは危険すぎる。
「なぁ悠真、二人が逸れたらしい」
「本当か.....」と目を見開く悠真。
「ああ、僕は冬野さんを探す。悠真は綾香の方に行ってくれ」
「でもそれだと今度は和樹が逸れちまうぞ」
「大丈夫、僕はスマホもある。そんな事にはならない」
早く冬野さんを探さないと。僕はこの時焦っていた。
「わかった。じゃあ祭りが終わったら出口に集合にしよう。花火までそんな時間ねぇから集まるのは無理かもだしな」と提案する悠真。
「わかった」
悠真との話もひと段落し僕もう一度電話越しの綾香に話しかける。
「綾香、悠真に繋ぎ直してくれ。僕が冬野さんを探しにいく」
『でもそれだと....』と綾香も同じ心配をする。
「大丈夫だ。花火を前には見つけるよ」
『わかった....お願い』と泣きそうな声で言う綾香。
「任せろ」
僕はそう言い電話を切った。
「じゃあまた後でな」と悠真と別れ僕は走り始めた。
黒髪に赤い浴衣に髪飾り。僕は目を凝らしそんな人を探し始めた。
恥ずかしがって直視できていなかった僕はどんな模様だったのか細かくは覚えていなかった。
だからその条件に当てはまる女性に片っ端から話しかけた。
だがすべて外していた。
どこだ?どこにいるんだ冬野さん。
心臓が直接握られているのかと思うほどに苦しく息がしづらかった。
頭が真っ白になり何も思い浮かばず一心不乱に探し回っていた。
花火を時間までもう五分ほどしか残っておらずさらに焦っていた。
よそ見をしていた僕は前にいる人に気がつかず何度もぶつかった。ほとんどは肩を掠めるぐらいで気にしていなかったが一度思いっきり正面からぶつかり僕は反動でこけてしまった。
「───いてっ!」
その時やっと僕は我に返った。何やってんだ僕こんなことしていても絶対見つからない。
もっと綾香から詳しく聞くべきだっただろ。
僕は一度頭を使いどこにいるかを考え直した。
その時ある言葉が脳裏に蘇った。
"時計のある円形の広場"綾香が最初待ち合わせに指定した場所だ。
僕は辺りを見渡し時計を探す。
あった.....!前方に大きな時計が見えた。
いてくれよ───!と心の中で叫び僕は走り出した。
それほど遠くは無くすぐにたどり着いた。
開けた円形の広場には花火を待っ人たちが階段に座り今か今かと待っていた。
僕は辺りを見渡しながらゆっくりと階段を降りる。
その時見えた。一際目立つ綺麗な浴衣を着た黒髪の少女が.....。
いた....。いた!と僕は安心し腰が抜けそうになる。走り続けた疲れが今きて息が荒げ始めた。
冬野さんのそばまでついた僕は
「ふ.....冬野さん」と途切れ途切れの声彼女を呼んだ。
すると冬野さんはうるっとした目を見開き「立花....くん?」と安心した声を出した。
「やっと見つけた」
すると冬野さんは立ち上がり僕の服を掴んだ。
「ごめん、ごめんなさい。私スマホ忘れちゃって....それで」と今にも涙が溢れそうな目をした。
僕はそんな冬野さんの頭を撫でながら「謝らなくていいよ。冬野さんは悪くない」
「でも私はみんなを困らせた.....心配もかけた」
「確かにすっごく心配したよ。でもこうして見つかった。だからもう気にしなくて良い。誰も悪くない」
彼女を落ち着かせる。
そんな時スマホがブルっと震えたのを感じた。
僕はポケットから取り出し何かとみる。
「ぷふっ」それを見た時思わず僕は笑ってしまった。
綾香からの大量の心配のメールが来ていた。
「冬野さん見て」とスマホの画面を見せる。
「これを見てもまだみんなが迷惑だなんて思ってるように見える?」
すると「ふふっ」と冬野さんも笑い溢れそうな涙を拭き取った後顔を横に振った。
そういえば悠真からも来てたな.....。
と僕はメールを開く。
それの内容を見て僕は笑ってしまった。
『綾香捕獲そっちは?』と書かれた後
泣き顔の綾香の腕を掴みニヤついた顔をした悠真とのツーショット写真が送られていた。
それなら僕らも....。とカメラを起動し内カメにした。
「冬野さんこっち向いて」とカメラのレンズを指さす。
「うん....」と僕に寄りカメラに映り微笑む。
そしてシャッターをきろうとした。
───その瞬間。
バァァァァァンッ!!
爆音とともに大きな花火が打ち上がった。そんなタイミングで撮れた写真は僕のお気に入りとなるのは当たり前だった。
「わぁーきれぇー!」と目を輝かせて花火を見る冬野さん。
いろんな色の花火が大量に打ち上がり空を照らす。
僕は思った。今二人きり、花火も上がり冬野さんも元気になった。
言うなら今じゃん。
そう思った瞬間鼓動が急速に早くなり頬が熱を帯び始めた。
「ふ、冬野さん....き、きれいだね」と勇気を振り絞って言った。
「そうだね、初めてこんな近くで見たよ」と弾んだ声を出す冬野さん。
花火のことじゃ無くて....。確かに綺麗だけど....。
僕は再度覚悟を決めもう一度口を開ける。
「ち、違うよ....」
「んっ?」と首を傾げる冬野さん。
僕は息を整えた。
「花火じゃ無くて....冬野さんがきれい....」
「───えっ....!?」と驚きで声をあげる冬野さん。
「ゆ、浴衣にやってる.....」
僕はなんとか言い切ることができた。恥ずかしくて彼女を直視できない。それでも横目に映る彼女はリンゴと同じくらいに顔を真っ赤にさせ明らかに動揺しているのがわかった。
心臓の鼓動が激しすぎてもう花火に集中することなんてできなかった.....。
そんな時も悠真と綾香は二人揃って花火を見ていた。
「何で悠真と二人で見なきゃいけないの」と不機嫌な綾香。
「仕方ねぇだろ始まっちまったんだから」
「そうだけど.....」
「でもさ俺お前らが逸れてよかったと見つかった今は思ってるぜ」と言いニヤつく悠真。
「何で?」
「だってよ思わないか?あいつら二人きりにしたら絶対なんかあるだろ」
すると綾香は顔をハッとした後ニヤつき「それはそうかも」と言った。
「会うのが楽しみだな」と悠真。
「だね!」と綾香。
そう言って二人は花火を見ながら不気味に笑っていた。
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