第30話 この気持ちに嘘はない
海で泳ぐみんなを僕は眺めていた。
これはこれで案外気持ちいな。と僕はパラソルの下で寝そべりいつの間にか目を瞑っていた。
しばらくすると急に自分の顔に冷たいものがかかるのが分かり目を開けた。
しょっぱっ!
「何くつろいだ和樹」とニヤつく悠真。
またお前の仕業かよ。
「飯くいに行こぜ」と続けた。
確かにお腹すいたな。
「わかった....」と僕は立ち上がった。
近くにあるレストランのような所に入りご飯を頼む。
「カレーとか良さそうだな」と悠真。
「私焼きそば」と綾香。
「冬野さんはどうする?」
「私はカレーかな」と冬野さん。
「じゃあ僕も...」
「なら俺焼きそば」と健吾。
食べる物はすぐに決まり注文した。
「食べ終わったらたまた泳ぎに行こうよ」と綾香。
良いね、とみな賛同した。
注文した物が届き、食べ始める。
お腹がすいていたからか一瞬にして平らげた。
「よし!じゃあ行くぞ!」と店を飛び出す綾香。
「おう!」と悠真や健吾も続ける。
ほんと元気だなみんな....。
「待ってよみんな」と冬野さんも走り出した。
「ほら千里早く早く!」と足を止め手を振る綾香。
すると....
「───あっ....」
冬野さんが足を滑らし転けてしまった。
「千里大丈夫?」と心配そうな顔で近づく綾香。
「うん、大丈夫だよ」と冬野さんは立ち上がる。
「───痛っ」と言い冬野さんは立ち上がるのを一度やめた。
どうやら転けた時に足を擦りむいたらしい。
「あ〜血出ちゃってるね」と綾香。
これじゃあ海では泳げない。それをわかった冬野さん悲しい顔をした。
「みんな気にしないで泳いできて、私休んでるから....」と少し元気の無い声で言った。
気を使われるのがいやな冬野さんはやはりそう言うと思っていた。
「そんなのだめだよ、千里ほって泳ぐなんて」と綾香が言った。
僕に目を合わせコンタクトを取った。
「ほら綾香行くぞ!」と綾香の腕を絡め取り海の方へと引っ張り出す。
健吾も何となく理解していたのかそれを止めず「ほら行こう行こう」と抵抗する綾香の背中を押し始める。
「ちょ、ちょっと私千里と......」と声を上げる綾香。
悠真は綾香の耳元で「冬野さんが気ぃ使うだろ....」と呟いた。
それを聞き少し納得はいかなそうだったが綾香は抵抗するのをやめ海へと向かった。
「立花くんも行ってきていいよ」と冬野さん。
「僕はお腹いっぱいで苦しいから休むよ」
まぁ嘘だけど....。
さすがに一人でほっておくのは心配だしな。
「冬野さんとりあえず傷口洗いに行こっか」
僕は座り込む彼女に手を伸ばす。
「うん、ありがと」と手を取り立ち上がる。
なんかこんな事前にもあった気がする。あの時は逃げられたような....。
傷口を流水で流し係員の人に絆創膏をもらった。
「これでちょっとマシになったかな?」
「ありがと立花くん」
綾香達はこちらを少し気にしながらも海で泳いでいた。
僕達は揃ってパラソルの下に座りその様子を眺めていた。
すると突然冬野さんが口を開いた。
「私、今日すごく楽しみだったんだ。今まで友達と遊ぶなんてことしてこなかったから」
「そっか」
「だからはしゃぎすぎちゃったみたいだね」と悲しい顔をする冬野さん。
「海、来てよかった?」
「うん、とっても楽しかったよ」と笑顔を見せる冬野さん。
「だから転んだのは少し残念....」
「それならまた来れば良いよ」
すると冬野さんは顔をハッとさせ「───えっ....」と声のトーンを上げて言った。
僕は綾香たちの方を見てこう言った。
「あいつら見たらわかるだろ、また誘えばいつだって来てくれるさ」
「そうかな....?」と冬野さん。
「来てくれるよ。少なくとも僕は行くよ」
実を言うと僕も今日が楽しみだった。人と関わることを面倒だと思っていたはずなのに冬野さんと海に行けると思うと自然と楽しみになっていた。
確かに他の三人と関わるのも楽しいしこのメンバーでいられることが幸せだと思える。でもそうさせてくれたのは間違いなく冬野さんだ。冬野さんがいなければ僕は悠真とすらまたこうやって遊ぶこともなかったと思う。
「急にそんなこと....」と顔を真っ赤にする冬野さん。
僕は恥ずかしがる冬野さんをみて少し笑ってしまった。
「だからさ心配しなくたってみんな着いてきてくれるよ」
僕はそう言い優しく微笑んだ。
「そうだね、みんな良い人だもんね」と冬野さん。
「ありがとう立花くん」と満面の笑みを浮かべ続けた。
僕はその笑顔を直視出来なかった。心臓がバクバクと激しくなったから反射的に目を逸らしてしまった。
なぜか何となくわかる多分この気持ちに嘘はないだろう。
「おらっ!」と突然綾香の声が響いた。
それと同時に僕の顔が誰かにはたかれたようなヒリヒリとした痛みが走った。
「よっし!当たった」とガッツポーズをする綾香。
「何が当たっただ」と僕はツッコミを入れる。
その時視界にあるものが映った。
ビーチボール?
「千里、バレーしようよ」と誘う綾香。
「海に入れないなら陸でなにか出来ないかと思ってよそれでバレーならできるんじゃねって事でさっき買ってきたんだ」とドヤ顔の悠真。
多分自分が提案したんだと言いたいのだろう。
「やっぱ遊ぶなら全員の方がいいだろ」と微笑む健吾。
「みんな....」と友達の暖かさに当てられ目をうるっとさせ喜ぶ冬野さん。
「うん、バレーしよ」と良い満面の笑みを見せた。
僕達はバレーコートに移動した。
「五人だから2対2で審判一人にするか?」と健吾が提案した。
「じゃあ僕、審判するよ」
「和樹、さっきから休んでばっかだが良いのか?」と悠真。
「僕は見ている方が好きなんだ」
「水着もか?」とニヤついた顔で言う悠真。
「そんなわけ.....」
「水着....」と冬野さんが呟いた。
「立花くんのえっち」と手で体を隠し犯罪者を見るような目で僕を見つめた。
「冬野さん....?」
まさか本気にしたのか....?と僕は少し焦った。
「もぉー千里意地悪なんだからぁ」と冬野さんの肩に手をおきそう言う綾香。
「えへへっ〜」とにこにこする冬野さん。
かわいっ....。
どうやら僕はからかわれたらしい。
「じゃあチームはどう決める?」と悠真。
「グッパでいんじゃね?」と健吾。
そうしてグッパをした結果、綾香、冬野さん対悠真、健吾となった。
「力の差がすごい....」と顔を引つる綾香。
「綾香、私下手だから負けちゃったらごめんね」と手を合わせごめんのポーズをする冬野さん。
「そんなの気にしなくていよ」と微笑む綾香。
そして始まったバレーはそこそこ白熱なバトルと思っていたのだが....。
「千里サーブだよ」
「じゃあいくね」と真剣な顔になる冬野さん。
ボールを上にあげ手を振ったのだが....。見事に空振りしボールは下に落ちた。
「千里もう一回!」と応援する綾香。
「はっ!」と声を出しサーブをだそうするがまたしても空振り
それからも何度か挑戦しやっとの思いで当たったボールはネットの下を転がるだけだった....。
「千里、私が打つよ」とサーブを交代した。
「ごめんね綾香....」としょんぼりする冬野さん。
「私に任せて!」とグッとポーズをする綾香。
「それじゃあいくよ!」と綾香は綺麗なサーブを打つ。
「よっしゃぁー!」と悠真がそれを受止め健吾が返す。
「ほっ───!」と綾香がボールを受け止める。
「千里チャンスだよ」
冬野さんは手を挙げアタックを打とうとしたのだがまさかのそれも空振ってしまった。
「ごめん綾香ぁー!」と悔しそうな顔をする冬野さん。
その運動音痴さに綾香は思わず笑っていた。
「もぉー立花くんそんなとこいないで手伝ってよ!」と頬を膨らませ嘘っぽく怒る冬野さん。
完全にとばっちりだ。
「わかったよ」と僕も冬野さんのチームに入った。
結局のところ悠真と健吾の連携に圧倒されコテンパンにやられてしまった。
「負けたぁー!」と地面に寝そべる綾香。
「悔しいぃー....」と冬野さん。
「和樹、運動してないからか衰えてたぞ」と勝ち誇った顔をする悠真。
「当たり前だろ、体育ぐらいしか体動かしてないんだから....」
それにしても思った以上に体力無くなってるな。と僕自身実感していた。
辺りが少しずつ夕暮れへと近づき始めていた。
「そろそろ帰ろっか」と綾香。
「だな」と悠真。
こうして僕達は帰ることになった。なんだか少し寂しい気もしたがそれ以上に遊び疲れてくたくただった。
服を着替えた僕達はバスに乗るためバス停へと移動する。
数分たちバスが到着し僕達は乗り込んだ。
バスの中は僕達しかおらず悠真がまた健吾にちょっかいをかけたりと少し賑わいをみせていた。
駅に着き悠真と健吾と別れ僕達三人になった。
数分たち電車が来たので僕達は乗り込み椅子に座った。
あのおしゃべり好きの綾香が疲れているのか全く話さず冬野さんもウトウトしていた。
僕たちを静寂が包み込む。
眠い....。その静けさが眠気を呼び起こし僕もウトウトしだしていた。
しばらくして耐えきれなくなった僕は完全に目を閉じ寝ようとしていた。
すると肩に何か重みを感じいい匂いが鼻に入ってきた。
何だ....?と僕は目を開け肩を見る。
───っ!?
何と冬野さんが僕の肩にもたれ掛かり眠っていたのだ。
綾香も冬野さんの肩にもたれ掛かり眠っていた。
なんと無防備な....それにめちゃくちゃいい匂いするし。
心臓の鼓動がドキドキとうるさくなり一瞬にしてさっきまでの眠気が吹き飛んだ。
冬野さんの寝顔かわいいな....。
───だめだめ、こういうのは見ちゃだめだ。と僕は必死に我慢をしようと頑張っていたのだがちらちらと横目で見ていたのは内緒にして欲しい。
すると何かを察したかのようにして冬野さんが目を覚ました。
肩にもたれ掛かったままの状態で僕の方に顔を向ける冬野さん。どうやら少し寝ぼけいるらしい。
「お、おはよう冬野さん....」
僕がそう言うと目を少しキョロキョロさせた後少しして急に固まり顔をハッとさせた。
どうやら冬野さんが僕にもたれているのに気がついたらしく顔を真っ赤にしサッと体を起こした。
「ご、ごめん立花くん....」と僕に目をチラチラと向けそう言う冬野さん。
な、なんで急に起きちゃうの....。寝顔みてたのバレたりしてないよな。と僕も不安になっていた。
「つ、疲れてたんだね....」と僕は目を逸らしそう言う。
「うん」と俯いてそう頷く冬野さん。
「もう大丈夫なの?」
「うん、なんだかすごくぐっすり眠れたから。立花くんのおかげかも....」と冬野さん。
何言ってんのこの子....。と鼓動がさらに早くなる。
「そ、それなら良かったよ....」
すると冬野さんは少し黙りまた口を開いた。
「ねぇ立花くん」といつもの調子に戻る冬野さん。
「どうしたの....」僕はまだ落ち着いていなかった。
「またみんなでお出かけしたいね」と満面の笑みを僕に見せてくる冬野さん。
───っ!?
その笑顔をみた僕は手で顔を覆い俯いた。
今それは反則だ....。
そんな僕の奇行に冬野さんは「立花くん?」と疑問そうな声を上げた。
「ああ、そうだな....」
多分この時の声は少し震えていただろう。
やっぱりそうだ。この気持ちは間違いない。
僕は冬野さんのことが好きになっている。
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