第26話 立花家 (冬野視点)

ショッピングモールを出て駅へと向かう。


駅に着いた時、国賀くんと高橋くんは方面が逆らしくここで別れ残った私たちはたわいもない話をしながら家の近くの駅まで戻ってきた。


そこからもしばらくは綾香も一緒だったけど途中の曲がり道で別れた。


こうして私と立花くん、二人だけになった。


この時にはもう日が沈みはじめていた。


「立花くん、ぬいぐるみありがとね」


私は再度お礼をした。


「喜んでくれたなら良かったよ」と微笑む立花くん。


「うん!すっごく嬉しい」


私はとびきりの笑顔を彼に見せた。


すると立花くんは恥ずかしさと嬉しさが混ざったような顔した。


少し歩いているとマンションが見え始めてきた。


マンションの目の前まで来た時どこからか「あれ?和樹じゃん」と女の人の声がした。


その声を聞いた時、立花くんはハッとし苦虫を噛んだような顔をした。


私は気になりその声の方を向いた。


そこには茶色の長い髪を纏めぱっちりとした瞳をした綺麗な女性がいた。


心なしか立花くんと顔の雰囲気が同じように見えた....。


「立花くん、知ってる人?」


私は小声でそう言った。


「ああ、姉さんだよ....」と立花くん。


やっぱりそうだったんだ。


するとお姉さんは私を見るなり目を輝かせ一気に目の前まで近づいてきた。


「ねぇもしかして和樹の彼女?」とお姉さんが言った。


───っ!!か、かの.....!?


私は唐突の質問に驚き声が出せなくなってしまった。


すると「姉さん、やめろ」と少し怒った声を出す立花くん。


するとお姉さんは顔をニヤつかせ立花くんの方へと近づく。


「じゃあ和樹が教えてよ。あの可愛い子は誰?」


「友達の冬野さんだよ....」


「へぇー友達ねぇ....」と言い私の方を見てくるお姉さん。


やっぱり挨拶はしたほうがいいよね。なんだか緊張するなぁ。


「は、はじめまして冬野 千里です....」


私は緊張で声が出ず小さい声でそう言った。


「千里ちゃん....。うん、可愛い名前だね」と笑顔を見せるお姉さん。


「私、かえでって言うのよろしくね千里ちゃん」とお姉さん。


「よろしくお願いします。えっと....」


あれ?なんて呼べばいいんだろ。お姉さんはおかしいし、立花さんってのも違うような....。


するとお姉さんはそのことを察したのか「楓で良いよ」と言ってくれた。


「それじゃあ楓さん....」


「ごめん冬野さん、姉さんこうなると止まらないんだ」と申し訳なさそうな顔をする立花くん。


「そんなことないよ。楓さんは良い人だから....」


「千里ちゃんすっごく良い子だね。和樹にはもったいないわ」と私に抱きついてくる楓さん。


「そんな....大したことは....。立花くんにはいつも助けてもらってますし」


「へぇー和樹が助けるねぇ」とニヤリ顔で立花くんの方を見る楓さん。


「何?」


「別にぃ〜」とニヤつく楓さん。


どことなく綾香と似ている気がするなぁ。


すると楓さんは抱きつくのをやめ私の方を向いて口を開いた。


「ねぇ千里ちゃんこの後時間ある?」


どうしたんだろ.....。


「ありますけど....」


すると楓さんは嬉しそうな顔をし「じゃあ家来なよ。色々話したいしさ」と言い出した。


「───えっ!?」


私は思ってもいなかったことに驚き声を上げた。


「───はっ!?」と立花くんも驚いていた。


ということは立花くんの家に....。


何故かは分からないが全身に緊張が走った。


「姉さん勝手なこと言うなよ」


「良いじゃん私、千里ちゃんと話したいんだもん」


「今日はもう遅いしだめだろ....」


「い、良いよ私は。家も同じマンションだし」


「千里ちゃんはそう言ってくれてるけど....」とニヤつく楓さん。


すると立花くんはため息を着き口を開いた。


「ごめん冬野さん、姉さんに付き合ってやってくれ'....」と申し訳なさそうに言った。


「よし!じゃあ早速帰るよ」


「はい!」


立花くんの家かぁ.....。何だか少し楽しみだった。


いざ立花くんの家の前に着くと先程よりも緊張が全面に出て、体がガチガチになっていた。


楓さんがドアを開けどうぞと迎え入れてくれた。


「お、おじゃまします...」


するとフフっと楓さんが笑い「そんなに緊張しなくていいよ」と言った。


そうして私は楓さんについて行きリビングへと行った。


「お母さん和樹の彼女連れてきたよぉ」とニヤつく楓さん。


「───えっ!和樹に彼女できたの」とまるで信じられないと言わんばかりの声が聞こえた。


ちょ....楓さん何言ってるんですか───!?


顔が少し熱くなるのを感じた。


「姉さん要らんこと言うな。母さんも信じないでよ....」とため息を着く立花くん。


すると台所から立花くんのお母さんが顔を出した。


「あら、美人さん....」と目を見開き驚いた様子だった。


「は、はじめまして冬野 千里です。いつも立花くんにお世話になってます。困った時は助けてくれたりとかも......」


「千里ちゃんね。はじめまして」と笑顔を見せるお母さん。


「和樹が助けるだなんてほんとなの?」と続けた。


立花くん何でこんなに家族からはこんなに信用されてないんだろ....。


「ほんとですよ。立花くんはすっごく優しいんです」


「へぇー優しいんだぁ」と楓さんがニヤついた顔で立花くんを見る。


「何?」


「いやぁ、和樹もそんな顔するんだ、と思って」と楓さんが気になることを言った。


そんな顔....?私は振り向き立花くんの顔を見た。


少し頬を赤らめて恥ずかしそうにしていた。


私はそれを見て微笑ましく思った。


「そうだ千里ちゃん、ご飯食べてく?」


でも何か悪いような...。


「えっと....」と返答に迷っていると楓さんが私の顔を覗き込み「遠慮しなくていいよ。今日カレーだから」と言った。


「.....それじゃあお願いします....」と私はお願いした。


「よし、じゃあ少し待ってて」と


そう言ってお母さんは言い台所へと戻った。


その間、楓さんが学校での立花くんの様子を本人がいる前で聞いてきた。


最初は立花くん話しを辞めさせようとしたがそれもすぐに諦めてしまった。


「へぇー絡まれてたところを和樹が助けたんだ」と驚いた顔をする楓さん。


するとニヤリとし立花くんに向かって「やるじゃん」と言った。


立花くんは少しむず痒そうな顔をしていた。


「立花くんはいつも私を助けてくれるんです」


「へぇー」と嬉しそうな顔をする楓さん。


それからも色々話しをしていると楓さんが急にお母さんの方に目で何かを伝えたような素振りをした。


するとお母さんが「和樹、ちょっと来て手伝って」と言った。


立花くんはため息を着きめんどくさそうに「わかったよ....」と言い台所へと向かった。


そうして楓さんと二人きりになった。


すると楓さんが真剣な顔になった。


「千里ちゃんは和樹に助けてもらってばかりって思ってる?」


「はい、立花くんには返せないほどの恩があると思ってます」


彼は私を前向きにしてくれた。あの時の怯えた自分を変えてくれた。まさに命の恩人と言っても良いほどに私を救ってくれた。


「そっか。でも恩を返せてない何なんてそんな事ないよ」


「えっ、どうしてですか?」


私にはその言葉の意味がわからなかった。


「高二になった和樹に久々に会った時さなんか雰囲気が変わってたんだよね。何というか少し心に余裕ができたみたいな感じかな」


「余裕ができた.....ですか?」


「うん、それでさ何で和樹が急にあんなに変わったのかずっと気になってたんだ。で、今日千里ちゃんに会って確信したよ、和樹を変えたのは君なんだってね」と


そう言って楓さんは優しく微笑んだ。


私が.....立花くんを変えた?


「そ、そんな私は何も....むしろ迷惑ばかり.....」


「そんな事ないよ。間違いなく和樹は変わった。中学の時はあんなに感情を出すことなんてなかったんだ。話もしないし笑いもしなかったんだよ」


「そうなんですか.....」


確かに立花くんの中学の話しは聞いたけど家族とも距離を置いてたなんて.....。


「だから私は千里ちゃんに感謝してるよ。ほんとにありがとう」


「こちらこそありがとうございます」


「これからも和樹のことよろしくね」


「もちろんです。どちらかと言うとこっちからお願いしたいくらいですよ」


「そう言ってもらえてお姉さんは嬉しいよ。もう和樹貰っちゃってよ」と冗談ぽく言う楓さん。


「そ、そんなもらうだなんて」


私はその言葉が何故かむず痒かった。


「ご飯の用意できたぞ」


そう言う立花くんの合図と共に「はーい」と楓さんは立ち上がった。


「ほら千里ちゃん食べよ」と続けた。


「はい、頂きます」


私と楓さんは揃ってテーブルへと向かった。


「「「いただきます」」」


皆揃ってそう言いカレーを食べ始める。


「どう千里ちゃん、お口に合うかしら?」


「はい、とってもおいしいです」


「そっか、良かった」と


そう言い嬉しそうな顔をするお母さん。


「和樹、千里ちゃんきて嬉しそうじゃん」


またしても楓さんは意地悪な笑みを浮かべて立花くんをからかった。


「そんなわけ.....」と言葉に詰まる立花くん。


それを見て笑う楓さんとお母さん。


立花くんが恥ずかしそうに顔を赤くし不機嫌そうな顔をする。


家族とご飯を食べるってこんなに楽しくて温かいものなんだ。


羨ましいなぁ〜。


そうしてカレーを食べ終わり帰る時間となった。


立花くんの家はとても居心地が良くて帰るのが寂しく思えた。


玄関まで全員が見送りに来てくれた。


「千里ちゃんまたね」


「またいつでもおいで」


「じゃあ冬野さん送ってくるよ」


「お邪魔しました」


私はそう言い外へ出た。


辺りはすでに真っ暗になっていた。


「ごめんね冬野さん、無理言わせちゃって」


申し訳なさそうな表情を浮かべる立花くん。


「全然そうなことないよ。どちらかというと帰るのが少し寂しいくらい」


「そっか」


「楓さんもお母さんもすっごく良い人で暖かくて....立花くんが羨ましく思っちゃったよ」


「それならまた来てよ。きっと二人も喜ぶし.....それに───」と何か言い渋る立花くん。


「それに....?」


「僕もちょっと楽しかったからさ」


少し恥ずかしそうに言う立花くん。


「そ、そっか....」


私は嬉しさと恥ずかしさで彼を見れなくなった。


チンッ。


エレベーターがこの階に着いた音がした。


「ねぇ立花くんまた来てもいいかな?」


「うん、いつでも来てよ」


「ありがと....。それじゃあまたね」


私はエレベーターに乗り込む。


「バイバイ」と手を振る立花くん。


私も手を振り返す。


エレベーターが閉まり私一人になった時さっきの言葉を思い出した。


僕も楽しかった、私はその言葉がものすごく嬉しく思った。


私は一人静かにはしゃいだ。







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