第19話 変わり始める日常

体育祭は見事僕たちのクラスが優勝した。

二年だけでの順位と全学年での順位どちらでも一位を取る事が出来た。


それから数日が経過しいつもの日常に変化が起き始めている。


「よぉ立花」と朝イチにそう言う高橋 健吾。


「健吾か....」


「何だその残念そうな反応は」と健吾。


「いや別に、それより良いのかお前」


「何が?」と不思議そうな顔をする健吾。


「前まで一緒にいた奴らのとこ行かないで」


「ああ、それは大丈夫だ。俺にはそれより重要な目標が出来たからな」と目に強い意志を浮かべる健吾。


多分しょうもないことだが一応....。


「その目標って....?」


「よくぞ聞いてくれた。その目標とは

―――冬野さんと普通に話せるなかになりたいだ!」とガッツポーズをする健吾。


やっぱりか....。


「うん、そうか。頑張ってくれ....」


僕は棒読みでそう言った。


「絶対思ってないだろ」とツッコミを入れてくる健吾。


健吾は続けた。


「それより冬野さん....あれはどういう心境の変化だ?」と女子の群がる方に顔を向けそう言う。


「綾香が連れてったんだ。冬野さんも行きたいって言ったんだけどな」


この話しは数十分前の事だ。


「ねぇ千里友達欲しい?」と突然綾香がそんな事を言った。


当然冬野さんは首を傾げた。


「もし欲しいなら私の友達共に千里を紹介したげる」と胸を張る綾香。


「良いの....?」と目を見開く冬野さん。


「もちろんだよ」と笑顔を見せる綾香。


「でも私が居たら空気悪くしちゃうと思うけど....」と少し眉を落としそう言う冬野さん。


体育祭が終わってから冬野さんは心を許せる相手には教室でも素を見せるようになり、他の人に話しかけられた時も優しく接しようと頑張るようになった。だが今のところ綾香と僕以外には素っ気ない態度になってしまっている。


きっと彼女も変わりたいともっと人と話したいそう思っているのだろう。


「そんな事ないよ。私の友達を舐めるなよぉ」とドヤ顔をする綾香。


ま、話したがりの綾香と友達なんだきっと相手も話し好きだから問題ないだろう。


「それならお願いしてもいいかな?」と冬野さん。


「おっけー。それじゃあ早速行こっか」と言い冬野さんの手を引く綾香。


「───えっ!今から、ってちょっと待ってよ綾香!」と焦る冬野さん。


綾香はそんな事を無視し四人で固まっている女子達の方へと向かう。


心の準備をする暇など綾香は与えないのだ。


大丈夫か.....。僕は冬野さんを少し心配した。


「みんなちゅうもーく」と声を上げる綾香。


「どうした綾香」と金髪ロングに少し細い目の女子が言った。あれは確か北条 美香(ほうじょう みか)と言った。


北条は綾香の方に視点を動かした時驚いた顔をしこう言った。


「冬野さん....?」


その周りにいる女子たちも驚いた様子だった。


「千里もこのグループに入れてあげてよ」と綾香。


『───えっ?』と状況が読めず固まる女子たち。


「ほら千里とりあえずあいさつしてみよっか」と全員を置いてけぼりにして話を進める綾香。


「───えぇっ!いきなり!」と冬野さんも驚いた様子だ。


そんな反応をする冬野さんを見てますます首を傾げる女子たち。


「ほら、千里やってみなよ」と引くことを知らない綾香。


「───待て綾香、一旦この状況を説明してくれ...」と静止する北条。


ま、そうなるよな.....。僕は一人納得していた。


「何を?」と何故か首を傾げている綾香。


「───全部だ!」と声を大にして言う北条。


その後綾香は色々と説明し何とか納得してもらった。


それが今に至るのだ。


僕と健吾は耳を澄ませ話しを聞いていた。


「なるほどね....つまり冬野さんは人嫌いってわけじゃないのか」と北条。


冬野さんは首を縦に振った。


「でも人と関わらないようにしてたわけは話せないんだね」と北条。


「ええ、ごめんなさい」とワントーン低い声でそう言う冬野さん。


「ま、言えないことはみんなあるし、そんなに気にすんな」と言い優しく微笑む北条。


めちゃくちゃ良い人だ。と僕は思った。


「ありがとう....」と冬野さん。


まだ話したばかりなのでまだ表情が固い冬野さん。


「ま、少しずつ慣れてくれたら良いよ。これからよろしく冬野さん」と北条言った。


「うん、よろしくね」と相当嬉しかったのだろう冬野さんがにこりと笑った。


それを見た北条含めそのほかの女子達は驚き一瞬固まった。


『か、かわいい〜!!』と声を合わせ冬野さんに近づく女子達。


冬野さんは驚いた顔をし一歩後ろに下がる。


「ねぇねぇもっかい今の笑顔見せて!」

「冬野さんかわいいんだからもっと自信持って良いんだよ!」

「もう何でいっつも怖い顔してるの勿体無いよ!」


女子達は冬野さんに詰め始める。


限界を迎えた冬野さんは逃げたし


「あ、綾香助けて!」と言い綾香にしがみついた。


「───うわぁっ!」と言い嬉しそうな顔をする綾香。


『あー!綾香ずるい』と悔しがる女子たち。


「千里は私のものだよ」と冬野さんを抱きしめドヤ顔する綾香。


「ちょ、ちょっと綾香何言って....」と頬を少し赤くする冬野さん。


男子たちが冬野さんに注目し口角が緩み始める。


「なぁ立花、冬野さんってたまにめちゃくちゃかわいいよな」と変にニヤつく健吾。


「ほんとそうなんだよなぁ」


僕はこれに賛同した。僕も今の冬野さんをみて気づかないうちに口角が緩んでいた。





4時間目が終わり昼ごはんの時間となった。


すると健吾が僕達の方を見て


「一緒に飯食おうぜぇ」と言った。


教室の外から「まだかぁ」と悠真がのぞいていた。


「行こう行こう!」と綾香も近づいてきた。


僕も席を立ち「行こっか冬野さん」と言った。


「うん!」と言い席を立つ冬野さん。


僕達は揃って教室を出た。


その様子を見ていた北条たちがこんなことを話していたらしい。


「な、冬野さんってさ立花に一番気許してる感じしない?」と北条。


「それ思った」と共感する一人女子。


「付き合ってんじゃない」とニヤついた顔で言う別の女子。


「後で聞いてみようよ」と北条が言った。


この後本当に聞かれたのでもちろん違うと否定した。信じてもらえたかはわからないけど。


教室を出てあるところへと向かう僕達。


「ねぇどこで食べるの?」と首を傾げる冬野さん。


「それは....」


と僕が言おうとしたところを綾香は遮り


「屋上だよ!」と言った。


「屋上っていけないんじゃないの?」と冬野さん。


「屋上に行くドアの鍵壊れてんだ」と悠真が言った。


冬野さんはへぇーと首を縦に振る。


そうして僕達は屋上のドアの前につき周りに先生がいないか確認した後ドアを開けた。


そこには数人の先客がいた。


この屋上は大人数で食べる時には最適だからな。バレないよう皆工夫している。


僕達は一箇所に集まりお弁当を食べ始めた。


「千里のお弁当おいしそぉー。手作り?」と目を輝かせる綾香。


「うん、そうだよ」と嬉しそうな冬野さん。


「料理できるんだ。すごいね」と綾香。


「ありがと」と言い笑顔を見せる冬野さん。


「なぁ和樹、お前はいつも通りパンなんだな」と何か企んでるような顔をする悠真。


「仕方ないだろ。親忙しいんだから」


「ふーん」とニヤつく悠真。


健吾も僕の方を見てニヤつく。


「何が言いたい....」


すると悠真がその言葉を待っていたと言わんばかりにこう口にした。


「冬野さんに弁当頼めば良いじゃねぇか」と冬野さんにも聞こえる声で言った。


「───は?」と僕は言った。

「───えっ!」と驚く冬野さん。


「悠真何言ってんだそんなの冬野さんに悪いだろ」


悠真は知らん顔をし誤魔化そうとする。


こいつ....!


「聞いてんのか悠....」


すると突然冬野さんが口を開きこう言った。


「立花くん....別に作っても良いよ」


「───え....!?」


思ってもいなかった発言にので僕は驚いた。


「ただ作る量が多くなるだけだから迷惑じゃないし....パンよりは栄養あると思うし....」と少し恥ずかしそうな冬野さん。


「だとよ」と僕の肩に手を置きにっと笑う悠真。


「ほんとに良いの....?」


「うん、もちろんだよ」と冬野さん。


「じゃあ、お願いしてもいいかな?」


冬野さんの手作り弁当食べたいしな。僕は自分の欲に従った。


「うん、じゃあ明日作ってくるよ」と嬉しそうな声で言う冬野さん。


「えぇー和樹いいなぁ。ねぇ千里私にも作ってくれない?」と綾香が頼み込む。


「良いよ」と心良く了承する冬野さん。


「なら俺も」と健吾。

「じゃあ俺も」と悠真。


もしかしてこいつらこれを狙ってたんじゃ....。僕はそう思った。


すると「嫌よ」と冬野さんは冷たくあしらう。


『───えっ!?』と悠真と健吾は驚きの声をあげる。


「何で俺たちだけ....」と健吾が言い二人は肩を落とす。


冬野さんも案外残酷だなぁ。


すると冬野さんは顔をニヤッとさせ


「嘘よ」と言った。


───するとすごい勢いで顔を上げ

「作ってくれるのか!」と健吾が目を輝かせる。


「ええ、良いわよ」と低いトーンで言う冬野さん。


「やったぞ悠真」と言い健吾は悠真の方を向く。


「おぉ!そうだ....な...」と悠真は徐々に声量を落とし言った。なぜなら悠真は冬野さんの今の表情を見たからだ


「なぁ健吾....」と悠真が少し震えた声でそう言いあるところを指さす。


「何だよ」と呑気な様子でそう言いながら悠真が指さす方に顔を向ける健吾。


「───え....」その表情を見て笑顔が消える健吾。


冬野さんは口をにまりとさせ不気味な笑みを浮かべていたのだ。その姿はさながら魔女のようだ。まるで弁当に毒でも仕込もうかと考えてるように思えた。


健吾もそう感じたのかその表情が単純に怖すぎるのか顔が一瞬引きつった。


するとそんな健吾の顔を見て「プフッ───高橋何その顔」と綾香が声をあげ爆笑する。


「おいお前!」と綾香に襲いかかろうとする健吾。


「───おっと」


綾香はそれを交わしニヤリと腹立つ笑みを浮かべる。


「姫島ぁゆるさねぇぞ」と苛立ちをあらわにする健吾。


「悔しかったら追いかけてみたら」と煽る綾香。


「ああ、そうさせてもらうよ!」と言い健吾は綾香を追いかけ始めた。


その様子が面白かったのか冬野さんが笑い出す。


僕も悠真も釣られて笑顔が溢れた。


僕は人と関わるのを面倒だと今でも思う。でもここにいるメンバーとは仲良くしていたいそう思い始めていた。





授業が終わり放課後となった。


健吾や綾香と別れ僕たち二人となった。


「ねぇ立花くん」と冬野さんが話しかけてきた。


「どうしたの?」


「あのね明日みんなのお弁当作るのに食材が足りないから買いに行きたいんだけど....私みんなの好みとか分からないから....その....」と目を泳がせ何か言いたげな冬野さん。


なるほどそういう事か....。僕は彼女が何を言いたいのかすぐにわかった。


「良いよ。一緒に買いに行こっか」


すると嬉しそうな顔で「うん!」と言った。


「それと....味見もして欲しいんだけど....」ともう一つのお願いをする冬野さん。


心配性の冬野さんは失敗するのが嫌だから仕方ないのだが....でも味見をするってことはつまり冬野さんの家に行くことにならないか.....?


そんな事を考えていたので僕は返事が遅れてしまい。冬野さんが口を開いた。


「みんなに食べてもらうから美味しく作りたいと思って....だからお願い?」と手を合わせる冬野さん。


僕は少し緊張したが断る理由もないので「わかった」と答えた。



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