第14話 体育祭が始まる

中間テストも終わりやっと普通の日常に戻れると思ったが学校というのはそうもいかないらしい。


「千里、和樹、一緒にリレー出よ」と笑顔でそう言う綾香。


「いや」

「嫌よ」


僕と冬野さんは同時にその誘いを断った。


「えぇー何でぇ」と不服そうな綾香。


今、体育祭出でる種目を決めているのだ。綾香が僕達を男女混合リレーに誘ってきているのだ。


体育祭とかめんどくさい。走るなんてのもごめんだ。


「めんどくさいから」と僕はそう言った。


(走るのだけはだめ、私運動だけは無理なんだよなぁ)と冬野さんは心の中でそう思った。


「私もそうよ」と冬野さん。


「お願いそこをなんとか」と手を合わせお願いする綾香。


「───っ....今回だけは嫌よ」と少し揺らぐ冬野さん。


「ほんと、ほんとにお願い」とその後も何度もお願いを繰り返す綾香。


こいつわかってんなぁ冬野さんが押しに弱いの。


そうして何度かお願いを繰り返した後


「もぉーわかったわよ出て上げる」と冬野さんは渋々承諾した。


「ありがと千里」と笑顔を見せる綾香。


「立花くんも出るわよね」と僕の方を睨みつける冬野さん。


「───えっ....僕はやめとくよ....」


「おっけー和樹も出てくれるってことで」と言いどこかへ行く綾香。


「おい、ちょっと待て」


僕は慌ててそれを止めようとしたが聞いていなかったようだ。


マジか....。


隣で冬野さんが手を合わせごめんのポーズをしていた。


冬野さん一人だと心細いか....。


しばらくして綾香がこっちに戻ってきた。


「ごめん体育委員の子に言いに行ってた」


やっぱりそうか....。でも待てよ混合リレーは男女二人ずつだじゃあもう一人は誰だ?


「なぁ綾香一人足りない気がするだが....」


僕がそう言うと綾香の後ろから「俺が出るんだ」と青髪の男が言った。


「立花、冬野さんよろしくぅ」と言う青髪の男。


「誰よあなた」とその男を睨みつける冬野さん。


「健吾、高橋 健吾だよ....。始業式の日に話したじゃん」と訴えるように言う高橋。


高橋 健吾(たかはし けんご)始業式の日冬野さんに話しかけていた男だ。あの時も「誰よあなた」とか言われてたような....。


「覚えてないわよ」と吐き捨てる冬野さん。


そう言われ肩を落とす高橋。


懲りないなぁ。と僕は思った。


にしても気が乗らない。どうして学校行事は必ず何かしないといけないのやら。


でも僕は少し不思議だった。冬野さんは誘われたらいつも喜んでやる人だ。なのにここまで拒んだのは何故だろう。


だがその理由はすぐにわかった。


出る種目が決まった次の日から体育が練習になったのだが....。


「千里大丈夫?」と心配する綾香。


はぁはぁと息切れをしている冬野さん。


「だ、大丈夫....」とかすれた声を出す冬野さん。


どうやら彼女は運動が苦手らしい。


混合リレーは女子100m、男200m走る。冬野さんは一度100m走ったのだがすごく足が遅い上に体力も無く走り終えた後すぐに息切れを起こしてしまったのだ。


何となく運動神経が良さそうと思っていたので僕はすごく驚いている。


冬野さんの息が整ったのを見計らい綾香が

「おーい走順決めよぉ」と僕達の方に手を振ってきた。


「おっけー」と言い綾香の方に向かう高橋。


僕も綾香の方に向かった。


「どうやって決める?」


「なぁ立花アンカー行ってくれねぇか?」と言う高橋。


「嫌だ。お前がやってくれ」


僕はすぐにそれを否定した。


「俺、行きたくないから言ったんだが...」と高橋。


混合リレーは女子男子女子男子の順で走ると決まっており必然的にアンカーは男子になるのだ。


「それならジャンケンで決めようよ」と提案をする綾香。


綾香にしては良い考えだったので皆さん賛同した。


そうして決まったのだが....。


「立花、頼りにしてるぜ」とニコニコする高橋。


僕はジャンケンに負けてしまいアンカーとなった。つくづくついていないと思う。


ジャンケンの結果綾香、高橋、冬野さん、僕の順番になった。


すると冬野さんが僕に近づき小さい声で「ちょっと来て」と言った。


僕は言われた通り彼女について行き。綾香と高橋から少し離れたところで立ち止まった。


「どうしたの冬野さん?」


「ねぇあの二人勝ちとか気にしてるのかな」と少し不安そうな声を出す冬野さん。


「気にしてないと思うぞ。特に綾香はただ冬野さんと一緒に出たいってだけだろうし」


何となく冬野さんが言いたいことがわかった。


「そうだと良いなんだけど....」と俯く冬野さん。


おそらく冬野さんは自分のせいで負けるのが申し訳ないと思っているのだろう。綾香も高橋もそこそこ足が早い、ほぼ確実に上位のまま冬野さんにバトンが渡る。足の遅い冬野さんはきっとみんなに抜かされるだろう....。彼女はそれを気にしている。


「綾香と走る順番変えてもらうか?」


一走目ならそこまで差はつかないし....。


「ジャンケンした後にそれは悪いよ」と言う冬野さん。


どうやら綾香に対して完全に心を開けていないみたいだ。


「別に冬野さんが抜かされようと抜かさなかろうと関係ないよ」


「───っえ?」と驚いた顔をする冬野さん。


「だって僕本気で走ろうと思ってないからどっちにしろ抜かされるよ」


もちろん冗談だが.....。


「それはだめでしょ」と真顔で言う冬野さん。

その後「でもありがと」と少し微笑んだ。


「二人ともそこで何してんのぉ。バトンの練習しようよ」と大きい声を出す綾香。


「ああ、今行く」と僕は返した。


「立花くん頑張ろうね」と冬野さんが明るいトーンで小さくそ言った。


「うん」


すると冬野さんは僕に小さく笑みを浮かべ綾香を方へと走って行った。


ま、あの笑顔が見れるなら頑張るのもいいかもな。僕も冬野さんに続き綾香の方へと向かった。






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