第3話

 思えば、この魔導書との付き合いも長くなったものだ。

 15歳の誕生日に、先祖から受け継いだ一冊の魔導書。

 書庫に収められている大量の魔導書の中から、たった一冊だけ選ばれる運命の器。

 持ち主によって内容が変化し、そのどれもが持ち主に絶大な魔力と魔法を与える神秘の代物だ。

 同じように魔導書を受け継いだ兄は、紅蓮の炎を自在に操る術を手に入れた。

 俺よりも後に魔導書を受け継いだ妹は、白き雷を操り全てを薙ぎ払う力を手に入れた。

 そんな兄弟の中で、俺だけは何も手に入れることができなかった。

 魔導書はいつまで経っても白紙のままで、魔法はおろか魔力増幅の加護すら手に入れることができなかった。

 そのうち役立たずとののしられ始めた俺は忌み子として家族から疎まれ、ついには僅かばかりの金とともに追放同然で家から追い出されてしまった。

 そこからは大変な日々だった。

 生きるために必死になって、時には泥をすすりながらたどり着いたのが、辺境の街「グリーディス」だった。

 そこで俺は、まだ駆け出し冒険者だったジェイクと出会った。

 なにも分からない俺に親切にいろいろ教えてくれたジェイクに誘われて冒険者になり、同じパーティーの一員になった時は人生で一番嬉しかった。

 それがたった5年で消えてしまう幸せだなんて、その時は思ってもいなかった。

「いつかはこうなるかもって思ってたけど、けっこう辛いなぁ」

 結局俺は、誰からも必要とされていなかったというわけだ。

 魔導書に見放され、家族に捨てられて、そして仲間にも切り捨てられた。

 それはきっと、俺の努力が足りなかったからだろう。

 もっと努力をしていれば、もしかしたら違う未来があったかもしれない。

「そんなことありません!  ロイドさんは頑張ってましたし、それにあなたのやっていたことは、誰にでもできるようなことじゃなかったんですから!」

「慰めてくれてありがとう。でも、俺が無能なことは俺が一番分かってるから」

「慰めなんかじゃありません。私は事実を言っているだけです」

 さも当然だと言わんばかりに唇を尖らせながら、リースさんはさらに続ける。

「いいですか。ロイドさんがやっていたのは、本来パーティーメンバー全員が分担してやらないといけないことです。それを一人でやっていたロイドさんが役立たずなんて、そんなはずないんです」

「だけど、だったら俺が居なくても残りのメンバーが分担すればいいだけじゃないか。俺一人が居なくなっても、結局なにも変わらないだろう」

 俺が持っていた荷物はみんなで分担して持てばいいだけだし、夜の見張りだって三人で交代しながらやればそれほど負担はないはずだ。

 エリサが斥候をやっているところを見たことはないけど、あれだけ大口を叩いたんだから彼女なら俺よりもうまくやれるだろう。

 

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