エピソード15
「(…絶対、好きなのに)」
舞は、かがりたちが博物館に入っていく様子を、近くの木の影から見守っていた。
かがりは終わりにしたいと言っていたが、本心ではないはず。
今までのかがりを見ていたら一目瞭然だ。
あんなに可愛いかがりを見たことがない(ちょっと失礼)。
だから、舞はこの関係をここで終わらせたくなかった。
今日、かがりは本人に告げて終わりにしようとしている。
止めるなら今日しかない。
すると、向こう岸の木に、同じように2人の様子を覗き見ている人影があった。
しかし、サングラスをしていて、誰なのかハッキリわからない。
「……?」
いや、勘違いだろう。舞以外に、あの2人を見守る必要がある人がいるわけが無い。
彼女はそんな怪しげな影は無視して、気づかれないようにそっと2人の後を追った。
***
今日、本当のことを打ち明けよう。そう決めた志貴が気になって、透はサングラスの変装をしながら後をついて行った。
が、その舞台としてはなんとも渋い博物館を選んでいた。
「(…しぶすぎだろ…)」
舞はあくまでも医者の一人娘。
こんな渋い場所が気に入るか分からない。
と思っていたが、目の前を歩く2人は楽しそうだった。
マンモスに驚いたり、実寸大の人形を背を比べあったり。
一番驚いたのは志貴の顔だ。
あんなに穏やかな顔をして笑っているのはいつぶりだろうか。
それを見た透は、少し寂しいような、ほっとしたような気分だった。
志貴は今まで本気で誰かと一緒にいたいと思ったことはなさそうだった。
透が呼べば、いつでも優先的に相手をしてくれていたし、家に呼ぶような関係性になる女性もいなかったから、気兼ねなく遊びに行けた。
「(…でも、わかる)」
志貴はきっと、あの子を大事にする。
優先的に考える。
それは嬉しいような、透にとっては寂しいような、複雑な気持ちだったが、親友として彼の大切な恋は応援したい。
しかし、一方で不思議な違和感を抱えていた。
西園寺舞。
あんな雰囲気の子だっただろうか。
渡されたお見合い写真はほとんど見ていないが、もう少し活発な印象の女性だった気がする。
目の前にいる女性のように、落ち着いているタイプだったのか。
「(…彼女も、どこかで見たことあるような)」
そんな違和感が拭えないまま、透はもう少し近づいてみようと、歩を進めた。
その時、同時に動き出した通りすがりの人とぶつかった。
「…きゃ…」
暗い館内で、サングラスをつけていたせいだ。
透は慌ててサングラスを外して、ぶつかった相手を見た。
「…すみません!僕の不注意で…」
「い、いえ…、こちらこそ、よそ見をしていて…」
透を見上げた女性は、彼の顔をまじまじと見ると、訝しげに目を細めた。
透も、どこか見た事のある顔に、じっと見つめ合うことになる。
「…あの、どこかでお会いしたこと、あります?」
最初に尋ねたのは、彼女の方だった。
「…ですよね?なんだか僕も、そんな気がして…」
色素の薄い茶髪に、緩く巻かれたロングヘア。
まつ毛はバッチリ上を向いていて、まばたきのたびに風が吹きそうなくらいだ。
ぽってりとした唇は、どこかのお嬢様を彷彿とさせる風貌。
「(ん…?お嬢様…?もしかして)」
慌てて彼女の顔を見ると、彼女も透の顔を見て目を見開いていた。
「「……っ!?」」
お互いに何かに思い至って、2人で息を飲んだ。
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