エピソード14
いつものように、舞の家に洋服を借りに来たかがりだったが、その様子はいつもと違っていた。
顔色は悪いし、少しやつれた気がする。
舞は、一瞬狼狽えながらも、変わらずかがりを家に招き入れた。
かがりは昔から色んなものをひとりで背負って、抱え込むくせがある。
そんな時は聞き出しても絶対話そうとはしない。
迷惑をかけたくない、と思っているのだろうが、舞としては、親友なんだから全然迷惑かけてくれていいし、こんなお見合いの代わりに付き合ってくれているのだから、迷惑のひとつやふたつなんて全く気にしない。
しかし、どうやって聞き出すべきか。
悩みながら、部屋に案内し、いつものようにかがりが好きなブラックコーヒーを出した。
体調が悪そうな彼女に、ブラックコーヒーは少々良くないような気がしたが、気にしている風を装うと彼女は警戒して何も話さなくなってしまうだろう。
「次のデートはいつなの?」
何事もなかったように、自然な会話をする。
クローゼットを開けながら、初夏らしい洋服を取り出す。
すると、か細い声でかがりの声が聞こえた。
「…ごめん」
「……え?」
舞は、慌てて振り返った。
そしてソファーに座るかがりの元へ駆け寄った。
「…かがり?」
もう一度、言葉を促そうと名前を呼ぶと、彼女は顔を伏せて、小さく震え出した。
「……かがり」
「……ごめん、舞。私、もう……」
その先の言葉はなかった。
けれど、かがりが何を言いたいのか、ちゃんと分かっていた。
かがりが初めて一條透と会った日。
どうだったかと聞くまでもなく、かがりの表情は明るかった。
あまり新しい出会いを求めるタイプではなかったから、代わりを頼んだ後に、申し訳ないことをした、と不安になっていたが、かがりの表情を見たら、いい出会いだったのだと安心していた。
会話の端々に出てくる彼の話も、マイナスなことはひとつもなく、もしかしたら彼女の方が一條透に合っているのかも、と思ったくらいだ。
しかし、父親のことは、知り合いの病院の知人繋がりで聞いていた。
病院の御曹司。かたやアルコール中毒の療養中の父親をもつ一般人。
真面目なかがりが思い至る結論は、直ぐにわかった。
「……」
それでも、舞はかがりを応援したかった。
舞は彼女の隣に座って、そっと手を握った。
「ごめん、は私の方だよ?こんなにかがりを悩ませて、ごめんね」
するとかがりは首を振る。
乱れた髪の毛が、彼女の顔を隠す。
舞はゆっくり垂れ落ちた髪の毛を、かがりの耳にかけると、顔を覗き込んだ。
赤らんだ目に、頬に光る涙。
たくさん悩んで、今日ここに来てくれた。
舞はそのまま彼女を抱きしめた。
「……っ」
嗚咽を我慢する声が聞こえる。
そして、かがりはゆっくり応えた。
「…もう、…終わりにしたい」
かがりにとって、この出会いは不幸でしかなかったんだろうか。
舞は何も言えずに、ただかがりを抱きしめた。
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