エピソード13
「……博物館?」
かがりが連れてこられたのは、地域の歴史博物館だった。
存在は知っていたが、実際に来るのは初めてだ。
こんな建物だったのか、としみじみ見あげるかがりを見て、志貴は不安そうに彼女を見た。
「……はい。静かなところがいいかと思って」
すると遠くの木の影から「しぶすぎ…!」と聞き馴染みのある声が聞こえたが、聞こえない振りをした。
今日は本当のことを正直に話そうと、透も一緒についてきている。
タイミングを見計らって、透に出てきてもらって、真実を伝えるつもりだ。
そして、これからも一緒にいたいという気持ちも。
「…素敵ですね。初めて来ました」
かがりは志貴を見上げてにっこり笑った。
「5教科の中で、歴史が一番好きでした」
「……俺もです」
小学校のころの得意教科も覚えていないが、これから好きな教科は歴史だと答えることにしよう。
「…じゃあ、行きましょうか」
志貴が手を差し出すと、かがりは一瞬驚いて、しかしゆっくり微笑んで、そっと手を乗せた。
順路に沿って進むと、最初は縄文時代のコーナーだった。
大きなマンモスの剥製が2人を迎える。
リアルに作られた蝋人形の縄文時代の人たちの、当時の暮らしを再現した様子が展示されている。
「この時代の平均身長は157cmだそうですよ?私より小さいですね」
かがりは手のひらを添えて、飾られた等身大の人形と身長を照らし合わせて見せる。
「舞さんは何センチなんですか?」
「えっと、確かこの前の健康診断の時に測ったら158cmでした」
「あんまり変わらないじゃないですか」
そう言って笑うと、彼女は少しだけ不服そうに唇を結んだ。
「…1cm勝ってます」
小さな攻防をする彼女は可愛くて、無意識に頬が緩む。
「…透さんは何センチなんですか?」
「俺は、確か184cmだったかな」
すると、かがりはじっと志貴を見上げて、納得したような顔をしながら、やはり少し不服そうに唇を尖らせた。
「……ずるいです」
「え?」
「身長があって羨ましいです」
かがりは言いながら次のコーナーへと歩き出した。
決して小さい身長では無いが、すらっとした彼の隣を歩くには不釣り合いな気がする。
そう思うと、なんだか身長がある人が羨ましく思った。
「…舞さんくらいの身長が、一番いいと思いますよ?」
先に歩き出したかがりにすぐに長い足で追いつく志貴。
きっと歩幅だって普段はもっと広いのだろう。
けれど、こうやって一緒に歩いた時に、歩調が合わないと感じたことは無かった。
ふとした時に見える優しさに、胸がきゅっとなる。
「…牛乳飲んで、あと2センチ伸ばします」
頬を膨らませながら言うと、志貴はぶっと吹き出した。
「あはは」と声を上げて笑う。
急に笑われて、ぽかんとするかがりを見て、志貴はさらに笑いだす。
大人になっても意地になって身長を伸ばそうとするところも、笑われてわけが分からなくてぽかんとするところも、全てが愛おしく感じてしまう。
ようやく笑われた意味がわかったのか、恥ずかしそうに頬を赤らめる。
そんな仕草も可愛くて、抱きしめたい衝動を何とか押さえ込んだ。
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