21.ならず者ドラゴン
「アカネ、お前は生き残るのが最優先だ」
「わ、わかってる、けど、ジロさんもね! ジロさん死んだら終わりだから!」
「そうだな」
矢を放ち、牽制する。ジロの持つ大型の弓は、ジロの故郷である扶桑の他では見られないものであった。大昔、隣国との争いの際、相手に対し技術が劣っていた扶桑の狼人たちは、弓と矢を大型化することによって高威力を実現させた。時代が進むに伴い複合弓の技術が流入、更なる高威力化のためにそれらの技術も取り入れられた。これらは戦争では射程が心許なかったが、対魔物に際しては非常に有効であった。牽制として放った矢は、鱗を突き破り、肉に食い込んだ。
「いでええええええ!!?」
ドラゴンは思わず悲鳴を上げて後退った。そしてジロを睨みつける。
「てめえ……俺様の体に傷をつけるとは良い度胸じゃねえかぁ……!」
「お前こそ、人様の街を襲うとはいい度胸だモン」
ジロの体はモモンガになりかけている、あまり時間的猶予はない。しかし、ここで引き下がることはできない。ジロは矢筒から矢を取り出し、弦にかけた。
「死ねやオラァ!!」
「"
再び火炎を吹くも、アカネの作り出した魔力の壁によって遮られた。彼女の使う魔法はオクサンフォルダ式の魔術である。魔法とは、イメージの世界である。自らの脳内で想像するものを具現化するのが魔法なのだ。術名とイメージを紐付けし、反復練習によって定着させ、術名を叫ぶことにより魔法を発動するのがオクサンフォルダ式魔術である。応用性が低い点を除けば特に欠点のない優れた方式と言えるだろう。
"
「防御すな〜〜〜〜〜!!!」
器用にも火を吹きながらドラゴンは叫ぶ。その間にジロは場所を移し、民家の屋根に飛び乗った。そしてそこから弓をつがえ、放つ。狙った先は目である。少し狙いが逸れ、目の上に矢が突き刺さった。
「だぁぁぁ!! やめろ! そんなもの刺されたら死んじまう!」
「死んじまったほうが世のためだモンね」
火炎放射を止め、必死に目を擦るドラゴン。その隙にアカネは再び魔力を練り上げる。
「"
空気中の水分を凝固させて生成された氷の槍が空から降り注ぐ。ドラゴンの翼を穿ち、地面に縫い付けた。
「ぎぃやぁあああ!!! いてぇええ!!!」
泣き喚くドラゴンをよそに、ジロは次の矢をつがえる。
「もう許さねえからなぁ〜〜〜!!」
そう叫んで強引に体を動かし尻尾を振り回す。それはジロの乗っていた民家を吹き飛ばすほどのパワーを持っていた。ジロは吹き飛ばされ、地面を転がった。幸いにも致命傷にはならなかったが、衝撃で動けないでいた。
「ぐ……」
「ぎょははは!! 俺と爪の錆いや違うな……ネイルアートになれ!!」
ドラゴンの爪は彼の右腕を引き千切った。血が噴き出し、痛みのあまり声も出ない。
「うひひ、俺弱い者いじめだぁ〜い好きぃ〜〜!」
ジロの腕を踏み躙り、ゲラゲラと笑うドラゴン。その光景を見たアカネは青ざめていた。このままではジロも、自分も殺されてしまう。恐怖で身体が動かない。だが、それでも動かなければならないと思った彼女は杖を構え、呪文を唱えた。
「"
光の雨が降り注ぐ。ジロを踏みつけているために身動きが取れなかったドラゴンはそれをまともに受けることとなった。
「チクチクする! チクチクすな〜〜〜〜!!」
有効なダメージにはなっていないが、気を逸らすには十分であった。ジロは隙を見てその場を離れ、妖術を唱えた。
「"
ドラゴンに踏みつぶされたジロの右腕と血だまりが突如、鋭利で巨大な鉾となって天を突き、彼の肉体を貫いた。
「ぎゃっ」
叫び声を上げることすらできず、その場に串刺しになる。もがくように翼や足をジタバタさせるものの、段々とその動きも鈍くなり、やがて完全に動かなくなった。
「……死んだ?」
恐る恐るアカネが近寄り、確認するも、既に事切れていることがわかった。アカネは思わず尻餅をつき、大きく息を吐いた。どうやら緊張状態から解放されたらしい。
「助かったぁ〜」
「お疲れさんだモンね」
「うん、ありがとね……って腕!!」
ジロの腕からは夥しい量の血が流れており、とてもではないが生きているとは思えないような状態であった。アカネは慌てて治癒魔法を唱える。しかし、傷は塞がらず、むしろ悪化しているように見えた。
「布でキツく縛るモン。治癒魔法で傷を塞げば、再生が難しくなるんだモモンガ」
「モモンガの方もヤバそうね……」
アカネはその辺で拾った木の棒と布を使って腕の付け根を緊縛した。これでひとまず出血は止まったが、傷が深いため、止血できたとは言えない状況である。ジロはかなり息を荒くして苦しんでいる様子だ。
(ジロさんは死んじゃうのかな……?)
そう思うと涙が出てきた。自分の不甲斐なさのせいで友人を殺してしまったという自責の念に駆られているのだろう。そんな様子を見て、ジロは口を開く。
「……心配しすぎだモン。右腕の一つや二つ、安いモンだモン。ああ、でも……」
そこで言葉を切り、空を見上げて呟くように言った。
「しばらくシコれないモン」
「そこかよ!」
思わずツッコんでしまったアカネだった。
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