16.明後日来やがれ


 玉座の間では、トウヤと円卓の騎士が会議をしていた。騎士たちはチェーンメイルを着込み、剣を腰に下げている。議題はもちろん今後の方針についてである。

 

「戦力も、そして権力も何もかもが足りない」

 

 トウヤが頭を抱えるように言う。ヘンリーを殺し、国王の代理という形で国を動かしてはいるが、所詮は高校生の身ではできることなど限られているのだ。ましてや味方は直接雇用した円卓の騎士四人の他にいない。

 

「じゃ、魔王国に応援を呼べばぁ?」

 

 円卓の騎士の一人、ロビン卿が言う。彼は軽い口調で話すが、その言葉の内容は重い。なぜならそれは、仮想敵国に助けを求めるということだからだ。援助を求めれば、応じてくれる可能性は大きいが、それもこちらが渡す権益目当てのことだろう。だがしかし、現状ではその手段しかないのも事実だった。

 

「……他には、ないか」

「マティルダ王女と結婚してはいかがでしょう」

 

 次に提案を口にしたのはランスロット卿であった。王女の婚約者となれば正統性を得られるし、王族の仲間入りができる。そうすれば、得られる権限や権威も桁違いに増えるだろう。貴族や大臣たちも協力せざるを得なくなる。さらに言えば、国民の支持を集めることも可能だ。確かに悪くはない案ではあったが、問題点もあった。

 

「無理だな……俺は、彼女に嫌われているからな……」

「案外好意的かも」

「先日怪我を負わせたばかりだぞ?」

「……マゾヒストだったりして」

「はぁ、もういい。他はないか」

「いっそ、王国を捨てて逃げるというのはどうでしょう! どうせ旗色悪いんだから」

 

 ガラハッド卿が手を挙げて発言する。彼は口調こそ明るいものの、内容はなかなか過激であった。だが、それは現実的な選択肢の一つではある。逃げて逃げて逃げ続けて、ほとぼりが冷めるまで待つという方法だ。

 

「……できない」

 

 王を殺して、更に最愛の幼馴染まで手に掛けておいて、全てを投げ出して逃げるなどトウヤには出来ないことであった。それに、逃げたところで状況は変わらないであろうことは容易に想像できた。いずれ必ず追っ手を差し向けられることになるのだから。

 

「私はストリップショーを開くのがいいと思いますけどね」

 

 ベディヴィア卿の言葉は全員がスルーした。

 

「他に何かないのか……」

 

 その後も色々と意見が出たが、結局良いものは一つとしてなかった。

 

「トウヤ様、どうやら時間切れのようですなぁ」

 

 ランスロット卿が立ち上がり剣を抜こうとする。するとその時、玉座の間の扉が開かれた。


 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 


「トウヤ! 王国とお兄様を返してもらう!」

 

 ジョンたち一行が玉座の間へと突入する。既に臨戦状態にあり、ジロは刀を、オタザワは拳を構えていた。

 

「命に代えてでも、トウヤ様はお守りする!」

 

 ランスロット卿が剣を抜き凄むが、不服そうな人間が一人いた。ロビン卿であった。

 

「命に代えてでも!? 僕死ぬのはやだなぁ。僕はいつも思ってたんだ、騎士なんて武器を振り回して危ないって。今に誰か怪我するよ」

 

 そう言って武器を投げ捨てるロビン卿。その様子を見た騎士たちは困惑した表情を見せた。

 

「じゃあロビン卿、なんであんたは騎士になったんだ」

 

 ガラハッド卿が尋ねると、ニンマリした笑顔で答えた。

 

「僕はなんか色んなところに旅行できるって聞いたから騎士になったの」

「なんだと、それは……素敵だなぁ」

 

 それを聞いたガラハッド卿は感極まった表情でそう言った。うだうだとやり取りをしているのに痺れを切らしたジョンが叫んだ。

 

「お前たちが円卓の騎士か!」

 

 すると四人は一斉に彼の方を見て口を開いた。

 

「「「「俺あ私私がたがはラしベガンがデラスロィハロビヴッッンィドト卿ア!卿だ卿私だもでは!んす騎悪ね。士い。私なねあ、んなた裸かんしでじだゃオな行ねガくきえンてが、を、かち引木りょくこ上んのりでちがにロょ趣なグん味りレなでたスんしかがざてっ大んねた変す、!なよ昨雄こ、日大と肘もなに打夜自なち遅然っなくのちんま中ゃかで、っし引昼てたいは。りて仕シなた事ャんん、レかで夜だしすはよちがグシゃ、ッャっやスレたっリ!りぱ、しり休て近日!所に迷は惑可で愛すいかブねラ?つけてお出かけよ!」」」」

「え、な、なん、なんて?」

 

 それぞれが一斉に話し始めたため何を言っているのか全く聞き取れない。

 

「ふふふ、それでは始めるとしますか」

 

 ジョンが怯んだ隙にベディヴィア卿が指を鳴らす、すると辺りの風景は一瞬で舞台へと変貌した!

 

「これは、一体何が始まるんだ!?」

「私のストリップショーさ!」

「マジで!?」

 

 ベディヴィア卿は踊りながら、服を脱ぎ始める。中年太りした裸体が露わになっていき、脂が乗り妖艶とした滑らかな肌はじわじわと垂れる汗に…

 

「まずいですよ! おっさんの全裸なんか誰も見たくないのに! こんなのでR-18になるなんて嫌です! 私も脱ぎます!」

「やめなさいステラ!」

 

 このままではおっさんと幼女の裸が露わになってしまい大変よろしくないことになってしまう!誰もがそう思った矢先、ジョンが声を上げた!


「そうだ、光れ! エクスカリバー!」

 

 主の呼びかけに応じ、聖剣はまばゆい光を放った! そしてジョンはそれをベディヴィア卿の方へと投げた。するとどうだろう、異常なまでに眩しい光は彼の裸体を覆い隠したのだ!


「な、なんですって!?」

 

 これでは自慢のストリップショーも形無しである。ベディヴィア卿はションボリして、部屋の隅で体操座りをするとそのまま膝に顔を埋め動かなくなった。しくしくと啜り泣く声が聞こえてくる。いつの間にやら舞台に変わっていた風景も元に戻っている。お見事、エクスカリバー! おそらく、あらゆる創作物に登場するエクスカリバーの中でも最低な部類の活躍であろう。

 

「その変態を止めたぐらいでいい気になるなよ」

 

 安堵のため息もつかの間、交戦態勢に入ったガラハッド卿は剣を構え魔力を込めると、刀身から炎が噴き出し、彼の体を包み込む。炎の中から現れたのは赤い全身鎧に身を包んだ彼だった。

 

「さあ、これからが本番だ」

 

 鎧からも火炎が吹き出し、さらに燃え盛った。その熱気に思わず誰もが顔をそむけてしまうほどである。すると突然、警報音が鳴り出し、天井から水が吹き出した!

 

「ぬわああああ! なんだこれは!!」

 

 トウヤたち以外のクラスメイトがまだ滞在していた時期にその内の一人、DIYマニアのヤカモトが城の一部を現代風にリフォームした際に設置された、魔石を使用して作られた火災報知器とスプリンクラーが作動したのである! DIYの鬼、信頼と実績のヤカモト工務店の渾名は伊達ではなかった! 赤き鎧は水に弱く装備者にもダメージのフィードバックがある、 ガラハッド卿は悶え苦しみついに倒れてしまった。

 

「よくも、ベディヴィア卿とガラハッド卿をやってくれたな!」

「いや勝手に……」

 

 困惑の表情で弁明するジョンであったが、怒り狂ったランスロット卿は剣を手に彼に斬りかかる。しかし、その攻撃はジロの刀によって防がれた。

 

「俺が相手だ」

「ほう、腕に覚えがあるようだな東洋人」

 

 ジロは刀を鞘に収めると抜刀術の構えを取った。対してランスロット卿は剣を正眼に構えている。二人の間に緊張が走る。

 

「言っておくが、私は他の三人の騎士と違い本物の実力者だ」

「そんなもの見ればわかる」

 

 両者同時に動き始めた。互いに剣を振りかざし、激しくぶつかり合う。金属音が響き渡るたびに火花が飛び散り、その度に二人の顔が照らされた。

 

「キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!」

「急にどうしたのステラ!?」

「激しい戦いにテンション上がってつい……」

 

 二人は目にも留まらぬ速さで剣を打ち合わせていく。実力はほぼ互角といったところだろうか。だが、徐々にランスロット卿が押され始めてきた。ジロの剣技が冴え渡ってきたのである。彼は次第に劣勢へと追い込まれていった。

 

「ぐっ!」

 

 ランスロット卿の右腕が宙を舞った。彼の表情に苦痛の色が浮かぶ。それを見たジロは刀を鞘に収める。

 

「勝負あったな」

「いや、まだ左手がある!」

 

 左腕で殴りかかってくるが、それも簡単にいなされてしまう。そして再びジロの一閃により左腕も切断されてしまった。

 

「ぐわっ!」

「もういいだろ」

 

 ジロは彼に背を向けるが、その背に向かって体当たりを仕掛けてくるランスロット卿。ジロはそのまま前に倒れ顔面を強打してしまった。

 

哎呀、流鼻血了鼻血出ちゃった……もうよせ」

 

 鼻血を拭いながら立ち上がり振り返る。するとそこには両腕を失ってなお闘志を漲らせる卿の姿があった。

 

「この程度で勝ったつもりか、この犬め!」

「……往生際が悪いぞホントに」

 

 呆れながらも刀を構えるジロ。対するランスロット卿は既に助走を始めていた。

 

「どりゃあーーっ!!」

 

 勢いよく飛び上がり空中で一回転しながら両足蹴りを繰り出す。しかしジロの一太刀が彼の右足を切断する。そのまま着地に失敗し転倒してしまった。

 

「がはっ! なかなかやるな!」

 

 まだ諦めないランスロット卿は器用に起き上がるとけんけんの要領で頭突きを繰り出そうとする。

 

「まだやんのかよぉ!」

 

 珍しく声を荒らげるジロは最後の四肢である左足を切り落とした。これで完全に身動きが取れなくなったランスロット卿は仰向けに倒れた。

 

「あ〜、引き分けってことにしないか?」

「ダメだ」

「どうしてもダメ? それじゃあ、俺の勝ちってことで手を打たない?」

「しょうがないな」

「やった! 俺の勝ちだぁー!」

 

 勝者、ランスロット卿!

 

「いや今の交渉おかしいでしょう!?」

 

 アカネは思わず叫んでしまい、トウヤはというと頭を抱えていた。実に使えない部下を四人も持ったものである。なんかロビン卿は火災報知器のどさくさで逃げたし。

 

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