15.お祭りの屋台とかにあるタイプの聖剣
ジロたち一行は、王城が剣呑な雰囲気になっているとはつゆ知らず、結構呑気しながらキャメロットへと向かっていた。
「ところでステラ殿。ジロ殿のことが好きなのでござるか?」
「オッホッホー、違いますねぇ、ジロさんが私のこと大好きなんですよ」
オタザワの問いかけにステラは鼻で笑うかのように答えた。しかしながら、オタザワは首を傾げる。
「しかし、ステラ殿。ジロ殿とアカネ殿が結構いい雰囲気になってるでござるよ」
そうして彼は前を歩く二人を指差す。
「ねぇあなた、子供の名前なんだけど」
「男の子ならブリジット、女の子ならブレグジットというのはどうだ」
「思ってたよりかなり進んでます!? しかも変な名前つけようとしてる!」
ステラは驚愕の表情を浮かべてツッコミを入れた。
「ちょっと、少しぐらい家事を手伝ってくれてもいいじゃない!」
「仕事で疲れているんだ、あとにしてくれ」
「もう、離婚よ……! あなたとは一緒にいられないわ! 国に帰らせてもらうから!」
「な、待ってくれ、アカネっ」
「破局した……」
「とんだ茶番でござるな」
そういったやり取りをしながら、目的地へと向かう。どういったやり取りだよ。とはいえ向かう先は敵地、こういった雰囲気は長くは続かず、城に近づくにつれて口数は減っていった。そして遂にキャメロットへと到着したのである。
「あれがキャメロットか」
「キャメロットですね!」
「キャメロットでござる!」
「何度も叫ばなくてもいいよ」
門の前にたどり着いた彼らはその大きさに圧倒されていた。大きな石造りの壁に囲まれたそれはまさに要塞である。入り口には門番がおり、入場者をチェックしているようだった。
「おそらくトウヤは警戒してるはず、ここは慎重に……」
「入れてくれるそうですよー」
「そうなの!?」
アカネが作戦を立てる前に、ステラが既に門番に話しかけていた。快く入れてくれるようである。
「怪しいやつは引っ捕まえろと命令が出ている! 君たちは別に怪しくない」
門番は槍を構えたままそう言った。
「左様、我々は怪しい者ではござらん。ちょっと暗殺をしに来ただけでござる」
「さあとっとと入ってトウヤって人をぶちのめしましょう!」
「こんなこと言ってるけど入れちゃっていいの!?」
「暗殺者は怪しくはないだろ、暗殺って目的を隠してないんだから」
「えぇ……」
釈然としない感じで門の中に入る。アカネがふと後ろを振り返ると聖職者の一団が門を通ろうとしていたのが見えた。
「聖職者だと!? 怪しい……怪しいぞ……!」
「お待ちください、我々はしがない巡礼者……」
しかし門番が槍を構え拒絶する。
「……あの門番変えたほうがいいでしょ」
「ござるなぁ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
城に入ると、執事が出迎えてくれた。
「よくぞ、お戻りになりましたアカネ様」
「ただいま。協力者を連れてきたから」
「では、こちらへ」
そうして地下へと案内される。どうやら隠し部屋があるようで、トウヤに察知されないためにそこを使うようだ。日光が入らず、照明も篝火しかないため足元も見えにくい。
「階段を下りますので、足元にご注」
「ぐわああああああ!!」
ステラが階段を尻で弾みながら下っていく。階段の下まで転げ落ちた彼女はそのまま顔から床に激突した。
「だ、大丈夫!?」
「ステラ殿ぉー!」
アカネとオタザワが慌てて駆け寄る。幸いにも大怪我はなく、意識もあるようだ。だが彼女の目は虚ろだった。
「お尻が……」
「平気か、ステラ」
ジロも駆け寄り声を掛けると、虚ろな目のままステラは答えた。
「はい、私は大丈夫です。ですが、私の大切な何かが奪われました」
「何かとは」
「お尻です。見つけてください私のお尻を。どうか、探してください、私のお尻」
「さすってやろうか」
「お願いしまふ」
ジロがステラの尻をさすると、彼女は気持ち良さそうな表情を浮かべた。
「……二人はどういう関係なの?」
「さあ……しかしステラ殿が言っていたこともあながち間違いでもないのでは……」
アカネとオタザワ、それから執事は困惑した様子でそれを見守っていた。ステラのお尻をさすり続けるジロを横目に、アカネたちは話を続ける。
「執事さん、他のクラスメイトは?」
「トウヤ様に、各地へと出向させられました。残っているのはサヤカ様だけでしたが、それも行方不明に……」
「な、なんですって……サヤカが……」
アカネの顔が青ざめていく。彼女にとっては親友と呼べる存在であり、まさしくこの旅の目的と言える人物であった。それが行方知れずになったというのだから当然の反応であった。
「この城にはいないということね? どこにいるのかしら」
「申し訳ありません、存じ上げません」
「そう……トウヤに聞くしかないか」
「それともう一つ、トウヤ様は直属の騎士、円卓の騎士と呼ばれる四人組をどこかから連れてまいりました」
「円卓の騎士……?」
「なんでも強力な力を持っているとか」
それを聞いてアカネは眉を顰めた。
「金で雇った用心棒ってところだろう」
ステラのお尻を優しく撫でながらジロが言う。ちなみに彼はずっとさすっている。
「実力はいかほどでござるか?」
「それは、不明です。申し訳ありません……しかし、準備は進めております。こちらへどうぞ」
執事に案内されて地下道を更に進むこと数分、ある部屋にたどり着いた。扉を開くとそこは宝物庫のようで様々な装飾品が並んでいる。その中に一つ、無骨な剣が立てかけてあった。その剣をジロが手に取る。
「これは……」
ジロはその剣をまじまじと見つめる。刃こぼれが激しく使い物にならないと思われたのだが、彼が触れるとその刃はまるで新品のように輝きだした。それを見たアカネたちが驚きの表情を見せる。
「こ、これは……!」
「なんと……!」
「まさか!」
しかし、誰も知らない剣であった。何のリアクションだったの?
「……なんですかこの剣は?」
「これは聖剣エクスカリバーでございます。我が主、ペンドラゴン家の始祖アーサーが振るったとされている伝説の剣です」
「……なるほど、すごい魔力を感じますね」
ステラが知ったふうな口を利くが、彼女はエルフっぽいことを言いたいだけである。
「オタザワ、使うか」
「いえ、拙者は己の拳があるので」
「じゃあ置いておくか」
「置いてっちゃうの!? 伝説っぽいアイテムなのに!」
「だって使わないしなぁ」
「じゃあ僕が使うよ」
扉の方から唐突に声がした。振り向くとそこには少年が立っていた。年齢は十二歳くらいだろうか、中性的な顔立ちをしている。服装も貴族風のもので、いかにも高貴そうな雰囲気を醸し出している。
「ジョン坊ちゃま! どうしてこちらに……」
執事が驚いた表情で問いかける。彼の名はジョン、リチャードの弟であり、彼もまた軟禁状態にあった。しかしどういうわけか抜け出せたようである。
「トウヤは僕を侮っているから、あまり警戒されてないみたい。その剣、僕に使わせてくれ」
そう言ってジョンはジロから強引に剣を奪い取った。そして鞘から抜き放つと、刀身から光が溢れ出す。
「わわ、光ったわよ」
「何でござるかこれは!」
「わ、わかりません……」
しかし誰もわかる人がいないため、答えようがないのである。そんな彼らをよそにジョンは目を輝かせていた。
「カッケェ……!」
「そうでござるな!」
「ですね!」
彼の呟きにオタザワとステラは同調する。確かにカッコイイとは思うが、今重要なのはそこではないのではないか……?
「よし、これで僕も戦えるぞ! お父様の仇を討ってやるんだ!」
剣を掲げ大いに意気込み、意気揚々と部屋を出ようとするジョンであったが、執事によって止められた。
「ジョン坊ちゃま、あなたはお控えください。何かあってはあなたの亡きお父上、ヘンリー王に合わせる顔がありませぬ」
「いいさ、僕が死んでもリチャード兄がいるだろ」
「いけません!」
「執事さん」
言い争いをしている二人に口を挟んだのは意外にもジロであった。ちなみにまだステラの尻をさすっている。
「男の覚悟を無駄にするのはよしなよ。戦場じゃ同じぐらいかまだ幼い子でも命懸けで戦うこともある」
「ですが……いや、そうですね……申し訳ございませんでした」
「それに、俺やオタザワもいる。死なせはしない」
その言葉を受けて執事はしばらく悩んでいたが、やがて納得したのか深々とお辞儀をした。
「……どうか、よろしくお願いします」
一行は準備を整え、階段を登り玉座の間を目指す。途中、何人もの衛兵に出くわす。
「玉座の間はどっちですか?」
「ええ、へい。こっちでございやす」
などと寒いギャグをかましてくるが彼らはスルーした。
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