12.んんwww真打ち登場ですぞwwww


 ログレス王国南部のドーンシャー伯爵領に位置する港町、メルマスに一行は上陸していた。

 

「それにしても驚いたのが、この世界よ」

「へぇ、そうなんですね」

「だって、この世界の地図、地球の世界地図と殆ど変わらないんだもん。まあ、こっちにはアトランティスみたいなのは無いけど……」

 

 そのようなことを話しながら、街を歩く。一行は大変お腹が空いていた。緊急事態である。

 

「もう! お腹空きすぎて死にそうです!」

「じゃあ早くご飯を食べましょう?」

「ドーンシャーといえばあれだな。ドーンシャーラーメン」

「ドーンシャーラーメン!?」

 

 ジロの言葉にアカネが目を見開いて驚愕する。

 

「ちょっと待って、こっちにもラーメンってあるの!? いや、そうか、東西の交流が地球より活発っぽいし、あり得なくはないのかも……」

「だってそこに書いてある」

 

 彼が指差した店には、大きな看板がついており、『ドーンシャーラーメンDornsher Ramen』とデカデカと書かれている。

 

「えぇ……」

「美味しそうな匂いがしますね!」

「よし、行くぞ」

 

 一行は店内に入る。中は現代日本のラーメン屋そのものであった。

 

「ラッシャーセェー」

「ふむふむ、『ドーンシャーラーメン、召し上がり方の鉄の掟』ですか」

 

 そういう感じのラーメン屋に置いてある例のやつもテーブルに置かれていた。アカネは辺りを見回し、そして店主を見た途端に声を上げた。

 

「イケボ! イケボじゃん!」

「あ、アカネさん!」

 

 イケボと呼ばれた店主は、幼げな見た目からは想像できないほど渋い声を出す青年であった。

 

「こんなところでラーメン屋やってたんだ!?」

「嫁さんも貰ったから、仕事頑張らないとと思ってね。うちラーメン屋だったし、親の手伝いをしてたからある程度勝手はわかるからね。それにここは港町だから色々と仕入れることも出来る」

「そうなんだ……頑張ってるんだね」

「アカネさんは今何を?」

「それは……」

 

 アカネは彼に経緯を話す。彼はその話を聞きながらラーメンの準備を進めていた。


 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 

「はいお待ち、ドーンシャーラーメンだよ」

「いい匂いだ」

「しかし、こんな熱々な汁に入った麺をどうやって食べるんです? 私ジロさんの持ってる棒っ切れは使えません!」

「じゃあこのフォークを使って」

 

 イケボはテーブルに用意されていたフォークを取り、ステラに手渡した。

 

「ありがとうございます!」

 

 彼女はフォークを受け取り、ドンブリの中をかき混ぜ始める。結局それも使い方がわかっていないようであった。

 

「しかしイケボ、随分とあっさりというか、薄味じゃない?」

「濃い味も試してみたけど、まあみんな僕たちほど味が肥えてるわけじゃないから」

「そんなもんかなぁ」

「そうだよ。台湾料理食べたことある? 八角の独特な匂いは慣れない人も多い。同時代の隣の国ですらそうなんだから、現代の日本料理がそのままこの世界の人の口に合うはずがない」

「確かにそうね……って料理談義はいいのよ。トウヤのこと」

 

 アカネは話題を戻した。

 

「うーん……僕にはどうしようもないかな。戦闘能力は無いし、そもそもあまり好きじゃなかったし」

「そんな、いつもつるんでたじゃない」

「オタザワと仲が良かったからだよ。僕は友達の友達」

「そうなのね……でも、何とかならないかしら」

「……店のことも妻のこともあるし、命の危険があるんなら、 悪いけど協力出来ない」

「そうよね……」

 

 ガックシ、といった調子でアカネは肩を落とす。

 

「ごめんね。でもオタザワならこの街にいる。訪ねてみるといい、住所書くから」

 

 イケボはそう言って紙に何かを書き、彼女に手渡した。

 

「ありがとう、行ってみるわ」

「ああ、お代はいいから」

「え、悪いわよ」

「いいんだ、久しぶりに会えて嬉しかったからさ」

「本当にいいの?」

「うん、その代わりまた来てね。今度は嫁さんを紹介するよ」

「わかった、必ず来るわ」

 

 そう言ってアカネは席を立ち、店を後にした。

 

「ふーっ! ふーっ! あちゅい……」

「ゆっくりお食べ」

 

 ジロとステラを置いて。

 

「君たち同行者じゃなかったの?」


 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 

 しばらくして二人を置き去りにしたのを思い出し戻ってきたアカネ、合流するとオタザワなる人物の家へと向かった。彼は街のはずれにある少し大きな一軒家に住んでいた。扉を叩くと、侍女が一人顔を出した。

 

「どちら様ですか?」

「私、アカネって言いまして、オタザワのクラスメイトっていうか、友達なんですけど……」

「まあ……ご主人様に女性の友達がいらっしゃるのですか? ……怪しいですね」

「いや、本当なんですよ!」

「ご主人様に異性の友達など出来ようはずがありません」

 

 侍女にすら酷い言われようのオタザワとは一体どのような人物なのであろうか。

 

「では、ご用件をお伺いしてもよろしいですか?」

「ええっと、トウヤって人についてなんですけど……一言じゃ説明しづらくて」

「ふむ、少々お待ちくださいませ」

 

 そう言うと侍女は扉を閉め、家の中へと戻っていった。しばらくすると、再び扉が開き、中から先ほどの侍女が出てきた。

 

「どうぞ中へお入りください」

「ありがとうございます」

 

 そして私たちは侍女に連れられ、応接間のような場所へ通された。

 

「お気をつけください、ご主人様はいかにもお尻とか触ってきそうな見た目をしています」

「めちゃくちゃ言うわねこの子……」

 

 一行がソファに座ると、すぐにお茶が運ばれてきた。それを飲みながら待っていると、やがて奥の扉が開いた。そこから現れたのは、小太りでメガネをかけた男だった。

 

「アカネ殿! イケボ以外のクラスメイトと会うのは久しいですな!」

「久しぶりねオタザワ、元気そうで何よりだわ。相変わらずそのコテコテな喋り方!」

「デュフフ、これは拙者のアイデンティティーですぞ! して、そちらの二人は?」

「私の旅の仲間。そっちの小さいエルフがステラ。大きいワンちゃんがジロよ」

 

 ジロとステラは軽く会釈をした。

 

「どうも」

「よろしくお願いします! お金ください!」

 

 突如金銭をねだるステラに、オタザワは快く銅貨を1枚与える。

 

「この人、いい人ですね!」

「チョロすぎる」


 ジロはそんな彼女を呆れた様子で見る。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 

 そうしてしばらく雑談が続いた後、アカネは本題に入った。間にあるテーブルにはぶどうやりんごなど果物が用意されており、ステラは夢中になって食べている。

 

「トウヤの事、耳に入ってる?」

「左様、大きな問題でござるな……トウヤ殿とは、確かに友人と言える存在ではござった。しかしその心中まではわからぬままでござった」

 

 地球世界で暮らしている頃、オタザワとトウヤは友人関係にあった。しかしながらオタザワは彼に、何か一線を引いて距離を置くような薄い壁を感じていた。しかし、踏み込むことはしなかった。

 

「……拙者たちといたこと、楽しくなかったのでござろうか。イケボと共にキャメロットを出ようと提案したときも、結局ついて来てはくれなかった」

「そうだったんだ……」

「しかし、悪を為しているというのであれば、拙者止めに行くのもやぶさかではござらん」

「本当!? ありがとう!」

 

 感極まったのか、アカネは彼に抱きつこうとした。だがそれは避けられてしまう。

 

「おっと、そういうのは男子にはしない方がいいですぞ」

「……なにそれ、ムカつく!」

 

 彼女は意地でも抱きつこうとする。しかしまた避けられてしまった。

 

「ちょっと、避けるんじゃないわよ!」

「ふひひっ、クラスの女子からの抱擁など御免被りますぞ!」

 

 その後もしばらく攻防が続き、結局疲れたオタザワは捕まってしまう。

 

「よし! 捕まえた!」

「デュホっ! あ、アカネ殿! たわわなモノが当たっておりますぞ〜〜〜!」

 

 オタザワは顔を真っ赤に染めた。それを見た彼女は得意げな表情になった。

 

「二人ともいちゃつくのは結構だが、今後の事を決めておきたい」

 

 そこでようやくジロが口を開いた。

 

「そうだね……って、ジロさんぶどう食べるの下手くそね!?」

 

 彼の口の周りと手は果汁にまみれ、毛が濡れそぼってベットリとしていた。服やズボンにも染みがついている。

 

「ジロさんはぶどうのみならず果物を食べるのが下手くそなんです。そっとしておいてやってください」

「ああ……そうなの……なんかかわいいわね……」

 

 その後一行は作戦会議を開き、翌日の早朝には屋敷を出発することになった。

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