2.よろしクソエルフ
冒険者とは
「うわっ、臭い!」
ステラとジロが建物に入った途端に、中にいる人たちは顔をしかめて鼻をつまんだ。
「えっと、お排泄物の臭いがしますわね!?」
受付嬢も思う存分に顔をしかめ、二人にそう言ってきた。まさしく鼻つまみ者ということである。
「失礼なヤツですねぇ! あんた方が下水道の掃除をしないから私達がやる羽目になっているんでしょうが!」
「まあ、不人気な依頼ですので……報酬をご用意いたしますわ、少々お待ちくださいな」
彼女はそう言ってカウンターの引き出しから銀貨を3枚ほど取り出した。
「たったのこれっぽっちですか!? あのクソでかい蛇も退治したんですよ私が!」
ジロは、お前ではないという言葉を飲み込む。
ちなみに銀貨1枚は銅貨24枚分であり、銅貨は1枚で一人分のパンを1つ買うことができる。パンの値段は、我々の世界の日本円で言うところの500円程度であり、銀貨3枚は36,000円ほどになるので、下水道掃除だけならともかく命を懸けるには少々安い報酬であった。でも冒険者ってそんなものなのである。
「下水道の大蛇ならきっとスカベンジャーサーペントでしょう、討伐証明である舌はお持ちですか?」
「全部下水道に沈んじゃいましたけど」
受付嬢は呆れたようにため息を吐く。
「でしたら、この報酬しか出せません……」
「あぁぁん!?」
「凄んでもダメですわ。決まりですので」
「ジロさんもなんとか言ってやってください!」
「こいつがうるさくてすまないと思っている」
「ジロさぁん!」
結局、二人は銀貨3枚だけ受け取った後、ギルドを後にしたのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
二人は近くの川で身体や衣服、荷物を洗うと、早速散財すべく酒場へと足を運んだ。酒場は昼間だというのに賑やかだった。
「全く、昼間っから酒を飲むとは、他にやることはないのでしょうか?」
ステラは自分のことを棚に上げるのが大の得意である。エールと食事を注文すると、すぐに運ばれてきた。角の生えたうさぎの丸焼きと豆を煮たものが木の器に盛られ、かってぇ黒パン、陶器製の歪な形をしたジョッキに注がれたぬるいエールが出てきた。
「早速乾杯です! 私達の門出を祝って!」
「……乾杯」
二人はジョッキを軽くぶつけると、一気に呷った。
「くぅぅ~! 仕事終わりの一杯は最高ですね!」
ジロは、お前は何もしてないだろうという言葉を飲み込んだ。
「うんとお金が欲しいですねぇ!」
「どうしてだ?」
「え? だってお金がいっぱいあったら……嬉しいじゃないですか!」
「そうか。それよりも聞きたいことはいくつかあるんだが……」
彼は正直なところ、このエルフの小娘48歳と出会ってからずっと困惑していた。なぜこいつはさも当然のように自身に付きまとうのだろうか、という疑問があったからだ。
「まあまあいいじゃないですかそんな細かいことは! 飲んでください!」
そう言って彼女はジロの手からジョッキを奪い取り、中身を自身の口の中に流し込んだ。
「うまいっ!」
「……」
ジロはため息をつくと、荷物から箸を取り出し豆を口に運び始めた。
「ジロさんは何か旅の目的はありますか?」
「……俺は、俺なんかには何もない。俺は」
「あ、じゃあお金稼ぎに付き合ってもらっても大丈夫ですね!」
何やら過去の吐露を始めそうだったジロであったが、ステラに遮られてしまった。
「まぁ……別にいいけど」
「それじゃ一攫千金の前祝いとしましょう!」
ステラは上機嫌になると、またエールを注文し、うさぎの丸焼きを鷲掴みにすると、豪快に齧り付く。
「んまっ! 全部一人で食べちゃいますね!」
「……」
その日は、酒場での食事の後に部屋を借りて一晩を過ごした。大抵の酒場は宿もやっている。時々、女主人や看板娘が仕事のためにベッドに潜り込んでくるが、今回はその心配は要らないようであった。
「なんで一部屋しか借りなかったんですか!」
「誰かが飲み食いで金を殆ど使い切ったからな」
「ジロさん!! 食べすぎです!」
「……」
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