第23話 魔闘学
「ではこれから魔闘学の授業を始める! 吾輩はギャルバン騎士団第7隊元隊長、シャーク。上司の命により、いささか不満だがこの学校の教員として配属される事になった。二年間の間のみだがよろしく。」
今日最後の授業は魔闘学だった。
朝にナルキと話した、例の教科だ。
先生は、イケメンとは言わないがかっこいい男らしい男性だった。
顔にはバッテンになるように包帯が巻かれており、腰には刀を常備している。
手にも包帯を巻いており、最近大怪我でも覆ったのかと疑問に思うほど、奇抜な格好をしていた。
ちなみに俺達は今、武道館にて、列に並んで座らされている状態である。
皆黙って先生の方へと視線を向けている。
シャーク先生は続けて説明を始めた。
「まずは魔闘学について話していこうと思う。前提条件として、魔闘学とは名前の通り、魔力を使った戦闘を学ぶ学問である。」
彼がそう言うと、多くの人がよくわからなそうな表情を見せる。
それもそのはずで、俺達に魔力を使った戦闘と言われても、魔法の撃ち合いくらいしか思いつかない。
しかしだとすると、魔闘学は、魔法学と一体何が違うのだろうか。
そんな思考に至るクラスメイト達の様子を察したのか、シャーク先生は補足した。
「いいかお前ら、よく聞け。 元来、魔力とは魔法を使う為のみの力ではない。中等学校では様々な事情から魔力の詳しい使い方は教えないが、こいつはもっと奥の深い力だ。これからの二年間、吾輩がお前らにこいつの使い方を教える! 手始めに例を見せてやろう。」
そう言って彼は足元にある、予め用意していた手のひらサイズの石を手に取り、片手で持つ。
一体何を始めるのだろうか。
「見たらわかるがこいつはなんの変哲もない石だ。思いっきり握りつぶそうとしても、例え下に落としたとしても、ひびの一つもはいらない。」
彼は石をわざと地面に落とした。
言った通り、石には全く傷が入っていない。
当たり前だ、石がそんな簡単に割れるわけがない。
先生は地面に落とした石を拾い、説明を続けた。
「しかしだ。もしも魔力を使えば話が変わってくる。俺の手のひらをよ~く見てろ。」
そう言われて、俺は手元の石に対して注意を向ける。
最初は特に何もなかったのだが、しばらくすると異変が表れ始めた。
うっすらと紫色のオーラのようなものが見えてきたのだ。
次の瞬間、シャーク先生は手のひらに思いっきり力を入れて握りしめた。
ゴリゴリッと石が大胆に砕け散る。
その光景を目にした瞬間、俺は物凄い既視感を覚えた。
半年前のガールが使っていたものと同じなのだ。
周囲ではどよめきがおこった。
たった片手で石を割るというのがそれ程新鮮な光景だったのだろう。
俺は父さんがたまにやっているのを見ていたのでそこまでの衝撃はなかった。
先生は、驚いている生徒達を見て、少し口角を上げながら言う。
「とまあ、今のが魔力の使い方の一例だ。ちなみに、今俺が使ったのは≪魔装≫という技術で、魔闘学で一番初めに学ぶ技術だ。巷では、魔殻だとか、肉体強化魔法だの色んな呼ばれ方をしている。お前たちも、半年後にはこれくらい難なくできるようになっているだろう。」
シャーク先生は説明を終えると、足元に置いてある箱の中からたくさんの棒を取り出して生徒達に配った。
授業に合わせて用意していたものだろう。
俺も一つ受け取る。
長さは大体ボールペン一本位のサイズで、少し太めだ。色は赤色で、何のデザインも施されていない。
全て配り終えると、先生は話し始めた。
「ではまず魔法を使う時と同じ要領で、ここに魔力を込めてみろ。」
言われた通りに魔力を込めてみる。
出来なかった。
魔力なんて今まで魔法にしか込めたことがない。そもそも物に込めることなんて出来るのか?
そう思って周囲を見渡すと、案の定誰一人うまくいっていなかった。
ナルキも必死に力を込めるがまるで駄目だ。
どうやってやれというんだよ。
先生は、こうなることをわかっていたのか淡々と講義を続ける。
「今まで通りやっても、決してうまくいかないぞ? 魔法ではなく物質に魔力を込めているんだ。裁縫で糸を針に通すように、より小さな抜け道に魔力を通せ。」
言われても全くピンとこない。
より小さな穴に魔力を通せと言われても、俺からすれば穴なんかちっとも空いていない。
なんなら硬い壁に無理やり魔力をぶつけている感覚だ。
こんなの出来る気がしない。
しかし今のアドバイスを受けて、クラス内成績1位の男が、成功していた。
「ッしゃあ!」
彼はそう叫び、喜んだ。
なんで出来るんだ?
男の手元を見ると、そこには青色のオーラが纏われている棒があった。
体からはオーラは発しておらず、棒のみに魔力が覆われていた。
そんな彼を見て、シャーク先生は感心した様子を見せる。
「ほう、まさかこんな短時間で習得できる奴がいるとは驚いた。確か名前はグレルだったか。今、どんな感覚だ?」
「…なんつうか、すっげえ気持ち悪りぃ。撃った魔法が体に引っ付いて離れねぇみてぇだ。」
「ならばそれは正しい感覚だ。その棒は特殊な素材で出来ていて、魔力は込められるが外に漏れる事がない。その感覚を覚えておけ、次は自身の体で同じ状態を再現するんだ。」
「ッウス。」
「他の奴らも、グレルに負けないように頑張れッ!」
俺はこの時間、周りに負けないように必死に魔力を通そうとした。
だが、結局50分で身につける事はできなかった。
☆★☆★☆★
「どうやったらできるんだろ。」
昼休みに学食へ歩いている途中、俺はずっと棒に魔力を通そうと試行錯誤していた。
隣にはナルキがいる。
2人で昼ごはんを食べに行こうとしている最中だ。
「授業終わったのに、まだ続けてるんだ。」
ナルキがそう言うので俺は返す。
「早く、魔装を身につけたいんだ。」
「そんな焦る必要無いんじゃない? 結局1人しかできてないじゃん。」
「俺はその1人になりたいんだよ。」
「もう1人じゃないじゃん。」
「だから悔しくてやってんだろ。」
彼に視線を向けると、ナルキはジト目でこっちを見ていた。
こいつ、わかってて俺をおちょくってやがる。
とりあえず、持っている棒に集中を戻してみる。
足りないのは何か。
繊細な魔力操作? でも魔力なんか練ることはあっても操作したことないし。
魔力を込めすぎなのか? でも、弱くしたところで変わらない。
お手上げだった。
色々考えていると、急に後ろから誰かが抱き着いてくる。
「エ~スタ! 一緒に食堂行こ?♡」
後ろを振り向くと、シアだった。
完全密着。
何だか、丸くてやわらかい感触が背中に伝わる。
これは…胸!?
女子特有の甘い香りがしてくる。
女子に抱き着かれたことなど一度も無かったので、俺は一瞬体が固まった。
「ちょッ、ちょっと、急に抱き着くなッ!」
俺は彼女を振りほどいた。
「ええ~いいじゃん別に~」
「よくねえ。心臓に悪いわ。」
彼女が拗ねるように口を尖らせるので俺は反論する。
「なんで心臓に悪いの? こんな美少女に抱き着かれるなんて、ご褒美でしょ!」
「え~… 自分で美少女とかいうか? 普通。」
あながち噓じゃないので反論しずらい。
隣を見ると、じゃれ合う俺達を見てクスクスと笑うナルキとエリーゼの姿があった。
ナルキは元々一緒にいて、エリーゼはシアといたのだろう。
なんだか、安全圏でニコニコ笑っている2人が恨めしくなった。
「おい、そこ。なに笑ってんだ。」
「いや~? 仲睦まじい、いい夫婦だなと思って。」
「別に夫婦じゃねえしッ!」
エリーゼがニヤニヤしながら言うので俺はつっ込んだ。
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