第22話 初めての授業

入学から二日目の朝のホームルーム。


机の上には、教科書がもろもろ置いてあった。


これからの授業で使うものだろう。


辺りを見渡すと、ほとんどのクラスメイト達は寝坊することなくしっかりと出席していた。


ただ一人だけいるはずなのにいない奴がいたが。


昨日欠席してたのと、同じ人だ。


先生曰く無断欠席らしい。


寮でも一度も顔を出していないので、王都住みの生徒なのだろうか。


せっかくオルエイを受験して入学できたのに、初っ端から無断欠勤とか、なんだか気に入らない。


先生は欠席した生徒の事は気にする様子もなく、やる事を進めた。


まずは挨拶をしてから、出席の確認。その後はHクラス全員に向かって今日の説明を始める。


「さて今日の日程ですが、早速授業が始まります。とは言え、皆様の最初の授業なので、教授も過激な内容は控えるので気楽に受けてください。今から日程表を配ります。」


そう言って、先生は、クラス全体に二種類の紙を配り始めた。


一枚は授業の時間割、もう一枚は4月と5月の予定表だった。


ひとまず全体に目を通す。


五月に体育祭があること以外、特に気になる事はなかった。


授業も案外普通な感じだ。


国一番の教育機関と言われるオルエイだが、あくまでも高等学校なのだと実感した。


「では、拙者はこれで。よい一日を。」


ホームルームで伝えるべき連絡事項は伝え終えたらしき先生は、教卓の上に置いてあった荷物を持って、去ってしまった。


しばらく教室内に静かな空気が立ち込めるが、次第にクラスメイト達はお喋りを始める。


「ねえ、エスタ。」


ナルキは後ろを向いて、俺に話しかけた。


「ん? なんだ?」


「この魔闘学って授業なんだろう?」


彼は時間割を見て、質問した。


「さあ? 聞いた事ないよな。場所が武道館だから、武道系の授業なんじゃないか?」


「ちょっと面白そうだよね。」


「そうだな。更に強くなれるなら、願ったりかなったりだ。」


魔闘学というくらいだから、魔力の関係する闘い方を教える学問という線もある。


一番初めに魔法のぶつけ合いなどを想像したが、魔法学という別の授業があるので恐らく違うだろう。


考えられるのは、魔力を身にオーラのように纏う技術。半年前に戦ったガールが使っていた技術だ。父さんもよく使う。


魔力そのもので体全体を覆いながら強度や身体能力等を向上させる技で、確か父は魔殻と呼んでいた。名称はダサい気がするが。


昔父に教えて欲しいとねだったら、まだ早すぎると言われたので今まで使うことなどできなかったが、もう俺も15歳だ。


もしかしたら、授業で身につける事ができるようになるかもしれない。


そう考えると、俺はわくわくしていた。


「早く、戦闘系の授業を受けたいな。」


俺がそう呟くと、ナルキは嫌そうな目線をこっちに向けた。


「ええ? やだよ。体動かすの。僕インドア派だし。」


「いや、体動かすの嫌っつっても、午後とか丸々戦闘訓練だぞ? この学校。」


「本当、ひどい話だよね。別に僕、強さとかどうでもいいのに。」


「ま、まあ、確かにお前の場合はそうだが、、、」


そもそも人探しでオルエイに来るナルキがおかしい。教育内容が合わないのは当たり前だ。


「だが、理由はなんであれ、オルエイに来たんだろ? なら、やることはやんないとな。」


「そうだね。強くなるのに、損はないからね。」


彼は口を尖らせて、やる気のなさそうに呟いた。







★☆★☆★







オルエイ高等学校では、4時間制を採用している。


というのは、基本授業は午前だけなので、時間割は四時間が限界なのだ。


とはいえ、午後には戦闘訓練あり、授業なんかよりもよっぽど辛い時間が待っているので、スケジュールは一般の高等学校よりもはるかに厳しい。


授業時間は50分。


50×4だったら、案外楽だと思いがちだが、そんなことはない。


逆に言えば、50×4という短い時間の中で、他の高等学校と同じ教育課程をこなさなければならないので、一時間辺りの密度はありえない程濃くなる。


そんなわけで、俺達の一時間目の授業は歴史学だったのだが…


「つまり…これはこれで…があって…で………」


授業スピードが滅茶苦茶速かった。


まず先生が早口過ぎて、しっかり聞き取るのが大変だ。


それどころかその時代の背景知識は後で読めとすっ飛ばすので、全然意味わからん。


なんだこれ?


もう授業になってなくないか?


「ではエリーゼさん。ここを答えて?」


「え、えっと。」


「返事が遅い! これはゼド戦争です。話を聞いていないのなら、出て行きなさい!」


理不尽だ。


この説明でわかるわけがない。


これはスパルタの域を超えてる。


あまりの酷さに、エリーゼが可哀想に見えた。









50分が経ち、歴史学が終わると、皆絶望的な表情を浮かべていた。


ナルキが顔を真っ青にしてこちらを向いてくる。


「エスタ、理解できた?」


「いや…全く。」


「…だよね。」


こんなのを授業と呼んで良いのだろうか?


スピードも内容も、中等学校の比じゃない。


下手したら6倍くらいの差がある。


多分誰1人ついて行けてないだろう。


ナルキは前の席にいるヨロにも同じ質問する。


「ねぇ、ヨロ。理解できた?」


「い、いえ、何も…」


天才のヨロでさえ、ついていないんだったら欠陥だろ。


滅茶苦茶すぎる。


まるで嵐が去ったかのようにクラス全体が静かだった。










2時間目は数学。


こちらは案外楽だった。


問題や、話している事は難しいが、あくまでもまだ中等学校の延長線上だし、しっかり理解できるくらいの速度だった。


明らかにさっきの歴史学がおかしい気がする。


ただ、こちらも簡単な訳ではない。


理解はできるが、しっかり食いついて行かないとおいて行かれそうだ。


「では、この式にこの値を代入して、」


俺はノートを必死にとって、授業内容を頭にたたき込んだ。


意外と授業は体感早く終わった。









三時間目は魔法学。


魔法理論などを探究する学問だ。


中等学校でもあった教科なのでとても馴染み深いのだが、一つ予想だにしていないことがあった。


「では、これから魔法学の授業を始めるとするかのう。わしの名前は、ジャブ。元四天王で、昔は暗狂の大魔導士ともよばれていた、今はもうただの老人じゃ。」


魔法学の先生がとんでもない大物だったのだ。


四天王。それは魔王直属の四人の部下で、この国の最大戦力ともいわれている。


当たり前だが、四天王の選出方法は単純に武力で、国で魔王の次に強い四人が選出され、この地位につく。


数よりも個の力のほうが大きいこの世界で、四天王がどれ程の影響力を持つのかは計り知れない。


国中で彼らの顔を知らない魔族などおらず、多くの人が魔王と一緒に憧れる存在だ。


元とはいえ、そんな大物が目の前にいるのだ。


これがどれ程凄いことか。


自己紹介の時、クラスメイト全員が驚愕の眼差しを向けていた。


「それではさっそくじゃが、魔力行使における空間作用論について話していこうかのう。」


そう言ってジャブ先生は、魔法で実例を出しながら教科書に書いてある内容を説明し始めた。


ちなみにだが、魔法とは何か? それは体内にある生命エネルギー、通称魔力を使って世界に干渉する力の事を言う。


生命の力は、自然のエネルギーであり、同じ自然の中に起こる現象を引き起こす事が出来る。


例えば炎。魔力を熱エネルギーに変換する事で発生させる。


雷。魔力を電気エネルギーに変換する事で発生させる。


風。魔力を運動エネルギーに変換する事で発生させる。


このエネルギーの変換を組み合わせて、より強大な力を生み出すのが魔法の基本である。


実際はもっと奥が深い分野なのだが、何せ中等学校で三年間かけて学ぶ内容だ。


全て話すと、日が暮れてしまう。


ジャブ先生は教科書に沿って、魔法理論をわかりやすく解説してくれた。


話しているのは主に、魔法を使う事によって起こる二次作用だ。


俺はかなり興味のある内容だったので必死にノートにメモして聞いていた。

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