第24話 まずい飯
昼休み、食堂へ来ると、多くの人でにぎわっていた。
今年入ってきた一年生に加えて、二年生、三年生もいるので、凄い数の人がいる。
しかし、食事を受け取る場所以外はあまり混雑していなかった。
広いのだ。
この学校は大体一学年百六十人いて、それが三学年なのだから、全体の人数は四百八十人という計算になる。
そこに先生も加えれば、五百以上もいる計算になるが、それでも余裕で入りきりそうなくらいの座席数と広さだった。
やっぱオルエイは設備が半端じゃない。
「滅茶苦茶広いな。」
俺がそう感想をこぼすと、他の3人も頷いた。
「同じ時間に全校の人が集まるからだろうね。狩り受付所よりも広い。」
「とりあえず、どっか座っちゃおうよ。」
シアがそう提案したので、俺達はさっさと空いている席に剣などの荷物を置いて、昼ご飯を取りに行った。
食堂には、色々な屋台があり、お金を払えば好きな食事を選べる。
俺は並ぶ屋台をみて、感心していた。
ただ、一つ気になる部分がある。
どこの屋台にも、看板に○クラス以上と書いてあるのだ。
例えば、高級なメニューを出している店にはAクラス以上と書いてあるし、逆に質素な安っぽいメニューにはHクラス以上と書いてあるのだ。
それを見て、俺は言葉を失った。
いやここにもクラス差別あんのかよ。
とりあえず、俺はHクラスが使えるただ一つ屋台から塩パン一つだけ注文した。
ご飯を食べ終えた俺達は、愚痴を言い合いながら午後の訓練をする会場へと向かった。
愚痴の内容はおおよそ昼ご飯についてだ。
「なんなんだよ全く。一番安い店しか使えないのかよ。」
一番怒っているのはナルキだった。
「そうだな~。具材なしの塩スパゲッティとか、バターすらつけてくれない塩パンとか、具材なしの塩ラーメンとか。」
「別にまずいわけじゃないんだけどね。」
エリーゼが若干苦笑した。
そりゃ、飯を食えるだけいいだろ、というやつもいるだろうが、昨日あんなに狩りを頑張ってこれなのだ。
しかもお金は400デルキッチリ持っていかれるという…
少しくらい文句を言わせてくれてもいいだろ。
「せめて肉だの野菜だの、何でもいいから具材が欲しいな。」
「ほんとそれだよ~。一応これでも僕たちまだ成長期だよ。いっぱい食べさせろって話だよ。」
ナルキが頬を膨らませる。
ただ、個人的に一番絶望しているのはノエルだと思っている。
オルエイに入学してきた目的がご飯が食べ放題だからと言っていたのに、それはBクラス以上の話だったのだ。
Hクラスでは、食べ放題どころか満足に食べるためにもかなり出費がいるということが分かった。
彼女がこの事実を知ったときどんな表情をしたのだろうか。
それは少し気になる。
「例えHクラスだとしても、オルエイに入学できた事に喜んでいたが、なんだか、先行きが怪しくなってきたな。」
俺がそう言うと、ナルキが同調する。
「そうだね。ここまでクラスごとに扱いの差を作っているなんて知らなかった。ただ生活に差があるだけだったらいいけど、もし授業内容や、その他の所にもこういったことがあるなら、少し怖いよね。」
彼の言葉を聞いて少し怖くなってきた。
担任のナートル先生が言っていたことを思い出す。
Hクラスは、入試の合格点で選ばれているわけじゃなく、また周りからは落ちこぼれや問題児と呼ばれる。
どうしてオルエイは、そんなクラスを作ったのか。
変わった才能がある人を発掘する為? それだけならばいい。
でももし、他にも目的があるのだとしたら。
例えば、見せしめ。あえて最下位に落ちこぼれという枠を作ることによって、生徒達にああはなりたくないという闘争心を煽る目的。
そんなことがあるならば。
そうでないことを祈っているが、万が一の事が頭によぎり、俺は今後の事が不安になった。
★☆★☆★
「午後は戦闘訓練の時間です。いいですか? オルエイの戦闘訓練は過酷であるとの定評があるので皆様、力尽きないよう頑張ってください。」
午後1時、第24訓練場にて。
武道館の時と同じように、皆で列を作って座っていた。
戦闘訓練は、担任の先生が見るらしい。
ナートル先生が、動きやすそうなラフな服装で前に立っていた。
戦闘訓練は午後の1時から4時までの三時間あるらしい。
決して短い時間ではないが、下校に時間がかからないため、四時に終わるのは結構良心的に思える。
しかし、よく考えてみれば放課後に魔獣狩りをしてお金を稼がなければいけなかったり、部活動などもあるので、実は結構時間に余裕のない日程である。
一体3時間もかけてどんな内容の訓練をするのだろうか?
「ではまず手始めに、この訓練場の周りを20周走ってもらいます。」
「「「「「「!?」」」」」」
先生がそう言うと、クラスメイト達は驚愕の表情を見せた。
戦闘訓練と聞かされていたのに、いきなり走らされる事に驚いたのだ。
それだけではない。距離も問題だ。
この訓練場を20周? そんなのきついってレベルじゃない。
「あの、先生。」
エリーゼが手を挙げる。
「なんですか?」
「念の為に聞いておきたいんですけど、この訓練場って一周どのくらいの距離なんですか?」
「そうですね、大体600メートルくらいです。」
一周600メートルで、20かけるとすると、12000メートルになる。
十二キロだ。
俺達は、ただの放課後の戦闘訓練で、十二キロメートルも走らされることになる。
しかも、先生は手始めにと言ったので、この後にちゃんとした訓練があるはずだ。
こんなの最初の走りでばててしまう。
周囲からはちらほらと不満の声が聞こえる。
「無理だろこんなの。」「スパルタかよ。」「え~走りたくない~。」
そんなクラスメイト達を見て、ナートル先生の人格が変わりだす。
「うるせぇッ! テメエら!」
その怒鳴り声は、訓練場を囲む壁で跳ね返って響くくらい大きかった。
耳を塞ぎたくなる程うるさい。
皆静かになった。
先生は続ける。
「テメエらみてぇなザコ共に、選択権なんかねぇんだよ! まぐれで受かっただけのカス共がッ! いいか、12キロなんか序の口だ! 先輩は毎日20、30キロ毎日走ってんだ! わかったらとっとと走りやがれッ! ついてこい!」
そう言うと、先生は後ろを振り向き、訓練場の入り口へと歩いて行った。
クラスメイト達は、そんな彼の後ろについていく。
皆面倒くさそうにしながらも、だれも反論はしなかった。
外へ出ると、先生は袖を少しめくって腕時計を見ながら俺達に向かって話す。
「いいですか皆様。1キロ5分ペースで、1時間がタイムリミットとします。ルートは壁に沿って走るだけなので、わかりますね? ではよーい、始め!」
先生がスタートの合図を出すと、全員で、一斉に飛び出すように走り出した。
俺も勿論走り出す。
1キロ、5分ペース。
1周2分40秒くらいで走ればいい。
1キロ5分だと案外楽だと思いがちだが、それが12キロだとすると、話が変わってくる。
しかも、同じところを20周というのは、全く知らない道を12キロ走るのと違ってかなり精神的に来る。
前を見ると、早い人と遅い人の差がかなり顕著だった。
俺はちょうど真ん中くらい。
後ろを見ると、ヨロ、ナルキが一番遅かった。
逆に、シアやクラス一位の男はとても早く、最前列で皆を引っ張っている。
シアは、一緒に狩りへ行った時にも思ったが、やはり体力があるらしい。
半周走る。
時間を図るものが何も無いが、多分ペース的にはちょうどいいはずだ。
早すぎもせず、遅すぎもせず。
ヨロは、もう見えなくなりそうだ。
いくら訓練場が円形だからと言って、流石に早すぎる。
あいつ、頭は良くても、運動出来ないタイプなのだろうか?
前は、速かった。
そんなペースで走って最後までバテないのか、疑問に思うほど速かった。
俺も負けてられない。
一周走る。
通過したところで先生が現在のタイムを教えてくれた。
俺は2分37秒らしい。
まだ全然疲れてない。
いいペースだ。
俺はこのまま最後まで走り切ろうと、気を引き締めた。
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