第9話 癖強同級生

俺が初代の試練を乗り越えてから45分後、ようやくナルキも試練を超えた。


「ぐはあ!」


終わったあと、大きく息を吐いた彼は即座に地面に倒れこんだ。


試練を乗り切ったナルキはとても辛そうで、顔色がかなり悪かったのでとりあえず少し休ませてやることにする。


「ナルキ、大丈夫か?」


俺がそう問いかけると、彼は無理やり作ったような笑顔で返事した。


「うん、大丈夫。それよりエスタ早いね、どれくらい前についたの?」


「45分前だ。」


「うへー、凄いね。10分で突破じゃん。」


「まあ、俺に関しては殺気に慣れてたってのもあるんだろうがな。」


そう言い残すと、彼は不思議そうな表情でこちらを見つめた。


だが流石にデリカシーとかは持ち合わせているようで、深くは聞いてこなかった。


まあ、別に聞かれたら普通に応えられるような内容だが、自分から好き好んで話すこともないので、この話は一旦スルーする。


「で、ナルキ。もう少し休んでいくか?疲れているなら付き合うぞ?」


「いや、さすがに悪いからいいよ。肉体的な疲れというよりは精神的な疲れだし。さっさと寮に行って寝ちゃいたい。」


「そうか。」


俺がナルキに肩を貸してやると、彼は申し訳なさそうに乗っかかった。


相当試練が応えたのだろう。


それもそうか。


あんなの常人にさせるような試練じゃない。


戦闘経験もなく、かつメンタルの弱い人が受けたら即死レベルだ。


少し同情した。


しばらく歩くと、箱型の校舎が8つ見えてくる。


地図を確認すると、どうやらあれが学生寮だそうだ。


だんだんと近づいてきて全体像が見えてくると、違和感が生まれてくる。


あれ、なんか寮の建物ごとに格差生まれてね?


8つの寮は横並びに建てられているのだが、構造が全然違った。


地図上に第一寮と書かれている建物は1番右にあり、金などの高価な素材がふんだんに使われた豪邸という感じだった。


そこから左に向かって第二寮、第三寮と続いていくのだが、左に行くにつれて建物の格が下がっているのがわかる。


第八寮などぼろぼろの木造建築だ。


まるで、ど田舎のまともに整備されていない宿のよう。


絶対ここに住みたく無いと思ったが、寮の数からなんとなく察して案内の紙を見る。


Hクラスの寮は第八寮と書いてあった。


「僕達はあのボロ屋敷なんだね。」


彼が不満そうにそう溢すと、俺もため息をついた。


どうやらそうらしい。


実力が1番下だからという事だろうか?


「こんなん詐欺だろ。聞いてないぞ。」


「言わなかったんだろうね〜。」


俺達は、とりあえず案内に従って第八寮へと向かった。








寮のロビーへ入ると、突如大量のクラッカーが鳴り響いた。


「「「一年生の雑魚ども、地獄へようこそ!」」」


大量の爆音と共にそんな声がたくさん聞こえてきた。


見ると俺達とはひと回り大きい人達が意地悪そうな笑顔で笑い合っている。


雰囲気からして先輩達だろう。


なんだか貫禄があり、年齢と比べて一人一人かなり実力者なのがわかった。


流石オルエイ高等学校。


俺達は急な歓迎にポカーンと口を開ける。


予想外の出来事で、なんと返せば分からず固まっていると、1人のイカついグレてそうな見た目の先輩が話始める。


「結構遅かったな、初代の試練に結構手こずったか? お前らで12人目だ。俺の名はディーン、3年Hクラス、そしてここの寮長だ。何かわからねぇ事があったらすぐにでも聞いてくれ。」


先輩は自己紹介を始めた。


見た目とは裏腹に優しそうだ。


「「はい」」


俺達2人は緊張しながら返事する。


なんだか和やかな雰囲気を感じる。


中等学校とは違って先輩後輩の格差はあまり無いのだろうか?


先輩とすれ違ったら大声で挨拶ッ!だとか、そういうのはあまり好きじゃ無いので俺には合ってるかも。


「あの、とりあえず荷物を置きに自分の部屋へ行きたいんですけど、どこを使えばいいんですか?」


俺は先輩に質問する。


使う寮の指定などは合格発表の時に伝えられるが、どこの部屋なのかは特に知らされていない。


割り振りは自分達でするのだろうか。


いまいちそこら辺のシステムがよくわからない。


ディーン先輩は大きく、くどいくらい頷きながら質問に答えた。


「ふむふむ、自分の部屋か、残念ながらそんなもんは無いッ!」


突然叫び出すので、俺は耳を塞ぎたくなった。


びっくりするくらい大きな声。


この寮どころか、隣の隣くらいまで聞こえているだろう。


なんか言動で分かってきた。この人、体育会系か?


ナルキはボソッと相手に聞こえない声で呟く。


「うるさい…」


とりあえず俺は聞き返した。


「無いってどういう…」


「俺達は雑魚だからな。最低クラスのくせに、一人一部屋なんてあるわけないッ!俺たちは四人一部屋だッ!」


相変わらずうるさい。


ま隣りで爆発音を聞いたかのような気分になった。


あまりのうるささに鼓膜が破れそうだ。


周囲を見渡すと、皆耳を塞いでいた。


いや皆もうるさいと思ってんなら止めろや。


「ならその四人部屋を案内して欲しいです。」


「おう、それならお前らは二階の一番奥の右だ。鍵は一人一つ分部屋の中に置いてある。合格発表や初代の試練で疲れたろ。しっかり休んでこい。」


「「はい。」」


いや普通に喋れるんかい。


とりあえず、俺たち二人は先輩に言われた部屋へと向かった。


歩くたびに床がギシギシという音をならし、なんだか心もとない。


これ、落ちないよな? 大丈夫だよな?


少し疑心暗鬼になる。


部屋の中に入ると、ここもやはりボロボロだった。


二段ベッドが二つ用意されていて、狭い。


トイレや風呂が一つ一つの部屋についているのは意外だったが、正直に言うと清潔感がかけらもない。


一応掃除はされているようで、埃や蜘蛛の巣といったものはないが、ただ単純に素材が汚そう。


Aクラスの生徒達はあの豪邸で過ごせるんだもんなぁ、流石に格差を感じる。ここまでやるか?普通。


「オルエイの寮は待遇がいいって聞いてたんだけどな。」


「僕もそれ言おうと思った。事前に全くない情報だよねこれ。」


俺たちがこれから住む部屋について軽い愚直をこぼしていると、思わぬところから声が聞こえてきた。


「youたちも、Hクラスの生徒かい?」


声の聞こえたほうを見ると、一人の男がベッドの上に座っていた。


半分青髪で半分白髪で、黄色の目を輝かせた男。


座高だけでもわかる高身長とスタイルに、整った容姿。


何よりその瞳が俺の目に吸い付く。


一目で確信した。こいつはモテる。


俺は質問を問いかける。


「君もここにいるってことはそうだよね? 名前は?」


そう言うと、彼は何故か急に鼻の穴を開き始めた。


「ふっ、僕の名前を聞きたいのかい?」


そして何故か質問を聞き返してきた。


いや、普通に名前答えればよくね? なんで聞き返した?


何か言葉にできない違和感を感じる。が、それが何かわからないのでとりあえず問いを続行した。


「いや、そうなんだが?」


そう返すと、彼は目を見開きながら顔を火照らし始める。


息は次第に激しくなっていき、なんだか興奮しているように感じた。


一目で確信した。こいつはモテない。


「youはあ、はあ、僕の名前をお、はあ、聞きたいのかいッ⁉」


「はやく答えろよ!」


彼がそう言うと、しびれを切らしたナルキが彼を蹴っ飛ばした。


とはいえ室内なので冗談半分のキックなのだが、ノリがいいのか彼は大げさなリアクションで後ろの壁にぶつかった。


一度倒れて苦しそうなふりをしながら立ち上がる。


「ふう、いい蹴りだ。youたちなかなかやるね、気に入ったよ。それで…」


彼は一度黙り込んだ。


数秒間の間を開けて。


大きく深呼吸して。


そしてもう一度、


「youはア!僕の名前をオ!知りたいのかいイイイイ!」


「「もういいよ!」」


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