第10話 入学前夜

「まあ冗談はさておき僕の名前を教えてやろう。」


「早く言えよ。」


イケメンな彼は、ついに諦めて名前をいう事にしたらしい。


頭の上には無数のたんこぶが出来ている。


あの後結局十分くらい同じやり取りを繰り返したので、俺とナルキが殴りまくった結果だ。


逆によくここまでされてもこのスタンスを崩さないものだ。そこだけは感心する。


彼は、観念したようすで名乗りだした。


「人は僕を美の神と呼び称えた。人は僕を伝説とい」


「あ、そういう前置きいらないから。」


ナルキは冷めた視線を彼に向けた。


男はしゅんとする。


もう十分もじらされたのだ。流石にこれ以上はいい。


というか、なんでこいつの名前を聞き出すためだけに俺達はこんなに時間を使わされているのだろう。


考えたらなんか馬鹿らしくなってきた。


ナルキの冷たい態度が刺さったのか、彼は一瞬黙り込んだ後、ついに名を名乗った。


「君たち、冷たいね。だがいいだろう教えてやろう、そう僕の名前は、、、ミナクゥゥゥゥゥルッ!ミナクゥゥゥゥゥルッ!ミナクゥゥゥゥゥルッ!ミナクゥゥゥゥゥルッ!ミナクゥゥゥゥゥルッ!」


「・・・なんで五回言った?」


「エコーだ。」


「エコーを自分の口で再現すんなッ!」


完全に乗り突っ込みだった。


というか、ダメだ、こいつといると完全にペースを崩される。


同じクラスにはどういう人がいるのかと気にはなっていたが、まさかこんな変人が待ち構えているとは思ってもみなかった。


というか、今になって考えてみると、ディーン先輩も変人だったよな? オルエイってこんな奴ばっかなのか?


なんだか幸先が悪い。


色々不安になってきた。


俺が頭を抱えると、ミナクールが初めて質問してきた。


「ちなみにyou達はなんていう名前なんだい?僕、気になっちゃうな。」


そう聞かれたので、俺たちも自己紹介をする。


「ああ、俺はいぶき。んで」


「僕はナルキだよ、よろしくね変体。」


「へ、、、変体⁉」


ナルキは満面の笑みでミナクールを罵倒する。


あまりに自然に出てきた言葉だったので、ミナクールはショックを受けたようだった。


「へ、変体か。初めて言われたな。」


噓つけ。


と突っ込もうと思ったが、あまりにも不毛だからやめておいた。


とりあえず、かなり時間がかかったが自己紹介は終えたので、俺は別の話題を切り出す。


「そういえば、まだ3人なんだな。ていうことはもう一人来るのか?」


「そうみたいだね。」


ナルキは頷く。


一方でミナクールは髪をかき揚げていった。


「もう一人か、、、僕の美しさに惹かれて失神しなければいいが。」


こいつ、もしかしなくてもずっとこのノリなのか? 俺、こんな奴と三年間付き合うのか? しかもルームメイトとして。


まあ、楽しそうといえば楽しそうだが、それ以上に面倒くさそう。


そんなことを考えていると、不意に今まで聞いたことのない声が聞こえた。


「あの~。一応もういるんですけど。」


突如背中から聞こえたその声にびっくりして振り返ると、そこには一人の少年がいた。


身長はかなり低身長で、ナルキと同じくらい。


緑色髪に赤色のめで、眼鏡をかけている。


髪の毛は異常に長く、目元がかなり見えずらいため、顔の全体像が見えない。


俺たち3人誰一人彼がそこにいることに気づいておらず、度肝を抜かれた。


ナルキは驚きと同時にこぼす。


「え? いつからいたの?」


すると、少年は口をもごもごさせながら小声で喋りだした。


「い、一応、、、最初からいました。」


「「最初⁉」」」


俺たちは声をそろえて言った。


全く気付かなかった。


視界に入っているはずなのに、全く彼を認知できなかった。


というか、俺達よりもずっと前からいたっぽいミナクールでさえ彼のことを見つけられなかったのか…


なんでわからなかったのか考えようとするが、皆目見当がつかない。


変体ナルシスト野郎が急にデリカシーのない事を言い始める。


「まさか先に来た僕でさえ気付けないとは。you、凄まじい程の陰キャだな。」


いや思っても口に出すなよ。


彼は悪気が全くなさそうに言うので、つい突っ込みたくなる。


一方少年はバツが悪そうに目線をずらした。


「え、、えっと、昔から影が薄くて、、、ごめんなさい。」


肩が震えていた。


初めての人と話すから緊張しているのだろうか。


とりあえず、俺は自己紹介をした。


「あー、最初からいたならもう聞いたと思うが一応。俺の名前はエスタだ。よろしく。」


すると、ナルキとミナクールも乗っかってきた。


「僕はナルキね。」


「そして僕は、、、you、僕の名前を知りたいのか…」

「「それはもういい」」

「・・・はいミナクールです。」


コテンパンにされて、彼はショックを受ける風にベッドに倒れ込んだ。


少年はまだ肩が、というか悪化して全身震えていたが、目を輝かせて自己紹介をした。


「ぼ、ぼぼぼぼぼくは、ヨロです。よよよよよよろしくおお願いしますすす。」


これは陰キャっていうより、コミュ障の類なのではないだろうか。


最後まで言い終えると、ヨロは安心した表情を見せた。


何はともあれ俺達の自己紹介は終わった。


なんだか、癖の強いやつばっかだし、波乱の学園生活になりそうだが、これはこれで楽しそうだからいいか。


俺は今後が楽しみになっていった。




★☆★☆★




夜、みんなが寝静まった頃、俺はいつものように剣を持って広場へ行った。


Hクラスの寮は奥にそこそこ動ける広場がある。一応庭という扱いだ。。


先輩達に聞くと、夜や朝、動くときはここを使うらしい。


周囲を見渡すと、今も数人の先輩達が魔法や剣術の練習をしている。


オルエイの生徒は凄いなと思った。


こんな夜遅くまで練習している生徒など、俺の通っていた中等学校にはいなかった。


これも学校柄か。


例え最底辺のHクラスだとしても、本気で高みを目指している生徒ばかりだ。


もしAクラスへ行ったとしたらどんな光景が見られるのだろうか? もっとここにいる生徒が多かったりして。


周りを見渡すと、残念ながら同級生は一人もいなかった。


みんな疲れて寝ているのだろう。


俺はまた剣を振るう。


昼もずっと振っていたが、まだ振りたりない。


周りはもっと先にいる。


同じクラスの生徒達だって俺よりも凄いんだ。


追いつかないと。


追い抜かないと。


もっと早く。


もっときれいに。


相手を意識する。


もし目の前に敵がいるとしたら。


その敵が剣を持っているとしたらどう攻めてくるだろう。


そういった事を意識して剣技を磨いた。


二十分が経ったくらいで一人の先輩に話しかけられた。


「お前、入学前夜だっていうのに偉いな。」


そういったのはさっき叫びまくっていた寮長ディーン先輩だった。


「あ、先輩。」


「合格発表があったその日から修行をしている生徒はかなり珍しいぞ。大抵はさっさと寝たり、今日くらいはいいかとさぼったりするもんだからな。」


「へえ、このオルエイ高等学校でも、皆そうなるんですね。」


「まあ、他の寮がどうなっているのかは知らないがな。」


ディーン先輩は片手で剣を振って見せる。


とても綺麗な剣筋だった。


エイリア先生には及ばないけど、でも美しい剣技だ。


父さんよりは確実に上だと思う。


「凄いですね。三年間、剣を振り続ければ、俺もその域に到達できますかね。」


「さあな。人によって向き不向きがあるからな。こう見えても俺は魔力の使い方はからっきしだ。まあ、強くなる方法はいくらでもある。お前は剣の才能はないようだな。」


そう指摘されて、少し心にもやがかかる。


完全に見透かされている。


確かに普通よりは全然できる自負はあるが、それは努力してきたからだ。


俺の剣は誰もが到達できるような常識の範疇にある。


「見ただけでわかるんですね。」


「習得したのは最近だがな。まあ、そんな顔するな。言ったろ、人には向き不向きがある。自分の向いているものを探せばいい。強さとは、必ずしも剣技の事を言うわけじゃないんだからな。とはいえ、剣を全くしなくなるのはまた違う話になってくるが。」


なんだか、心に響く言葉だった。


同じ学生なのにかなう気がしない。


自分の向いているものを探せ、か。


一度、自分と向き合って考えてみるのもいいかもしれない。


「アドバイスありがとうございます。」


「気にするな。なんだか焦っている風に見えたから話しかけただけだ。受験か初代の試練にあてられたんだろ? 俺も経験者だからそこら辺の気持ちはよくわかる。だが、焦りすぎはよくない。適度に焦れ。今の言葉、忘れるなよ。」


「はい。」


いい先輩だ。


などと思っていると、横からもう一人、女の先輩が乱入してきた。


「ちょっとディーン、あんた先輩ずらしたいからって一年生にからんで。恥ずかしいわよ。」


「なっ、リール、恥ずかしいって俺はこの子にいい言葉をだな…」


「はいはいそういうのいいから。彼の修行の邪魔をしないの。」


そういいながら、リールと呼ばれていた先輩はディーン先輩を引っ張って寮内へ戻ってしまった。


その一連の流れを俺はずっと見守っていた。

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