第35話 セルフィの夢
それからは問題なく、無事に那月さんの屋敷に到着する。
セルフィ達は広い敷地と大きな屋敷に驚いた様だったけど、手を引いて屋敷まで連れ立って行き、屋敷に入ってから【隠密】を解除する。
「ただいま戻りました」
「フミナちゃん、お帰りー。ちゃんとみんな来てくれたのね」
「はい。モニカさん、この子達をお願いしても良いですか?」
「りょーかいよ。まずはお風呂に入れちゃった方が良いわよね?」
「そうですね。わたしは那月さんと話してきますので」
屋敷に入ってすぐにモニカさんと会えたので、まずは彼女にセルフィ達のお世話をお願いする。
「まずは初めまして。それと、早速だけど今からお風呂に行くねー。あ、私の名前はモニカね。お姉ちゃんって呼んで良いからー」
モニカさんはそう言うと、上手い事セルフィ達を追い立てて、お風呂へと連れていく。その間に、わたしは那月さんの元へと移動する。
「ただいま戻りました」
「お帰りフミナ~。上手く行った?」
「はい。今はモニカさんが子ども達の世話をしてくれています。那月さんの方はどうでした?」
「私の方も大方大丈夫かな。それと、子ども達への試験は明後日にここで行う予定だってさ」
「ここで、ですか?」
那月さんの方の首尾も上々だった様だけど、想定外の回答もあり驚く。
彼女には、ピンセント商会との詰めの交渉をお願いしていたのだけど、セルフィ達の採用試験についても無事にまとまったらしい。
そのためとは言え、向こうから出向いて来るという話は驚いたけど、この話には続きがあった。
「そう。何でも、新店舗はこの屋敷の裏手にある空き店舗を第一候補にするらしくてね、その最終確認も兼ねてるんだって」
「そうなんですね」
「当日はティナ一人で試験を担当するらしいし、あの子達も多少は気が楽なんじゃないかな」
新店舗をすぐ隣に構えるという話でまた驚かされたけど、かなりの好条件でもあるから有難く感じる。
これだけ話を優位にまとめてきたあたり、那月さんも頑張ってくれたのだろう。
それからも、那月さんからはピンセント商会との話し合いの結果を教えて貰い、逆にわたしの方からはセルフィ達の状況を説明する。
ピンセント商会からの要望としては、人目を惹きそうな魔法薬や魔道具の相談があり、出来れば新店舗の開店に合わせて目玉商品にしたいとの話が出たらしい。
また、ティナさんの方からは衣装のモデルをして欲しいとの要望も出た様で、那月さんは王都の商会との契約を理由に断ったのだけど、彼女の本命はわたしらしく、改めてお願いをしに来るだろうという話だった。
一方で、わたしの方からは、セルフィ達を連れて来るまでの事を話した。
ここまでの足取りは追えない様にしたものの、リゼット達の魔法の素養はまだ診ていないから、それは夕食の後になるだろう。
「りょーかい、大体予定通りだね。なら、後は私の名前でセルフィ達を保護してしまえば何とかなるかな。その為にも、これから急がないとね」
那月さんの返答に対し、わたしは改めて頷く。
外では夜の帳が下り始めていた。
その後、セルフィ達がお風呂から上がって来たので、那月さんと子ども達とで改めて自己紹介をしてから、みんなで一緒に夕食を摂る事になった。
セルフィとリゼット、コレットは当初は遠慮していて、那月さんに諭されて一緒のテーブルに座ったけれど、その後も恐縮していた。
わたしもこれまでは意識してこなかったけど、この世界だと身分に差がある人同士が一緒のテーブルに着くのは珍しいらしく、那月さんとモニカさんの様に、主従でありながらその辺をあまり気にしないのは例外に属するらしい。
もっとも、那月さんとモニカさんの場合は、その関係性がより深いという事もあるのだろう。
その一方で、フィリアはあまり気にした様子もなく普通で、シャルロットに至ってはニコニコした表情で、更にはモニカさんを『お姉ちゃん』と呼んで、早くも懐く様子を見せていた。
これまでの様子を見ると、フィリアは物事にあまり動じない質で、シャルロットは愛され上手という感じだろうか。
そんな感じでちょっとドタバタしたけれど、最終的にはセルフィ達も納得したので、全員で一緒に夕食を食べ始める。
驚いたのは、子ども達がみんな、テーブルマナーがしっかりしていた事で、那月さんとモニカさんも目を丸くしていた。
「皆、テーブルマナーがしっかり出来ているけど、誰かに習った?」
「あ、はい。私が多少なりとも知っていたので、それをみんなに教えました」
「そうなんだ。それじゃ、セルフィは何処で教わったの?」
「私の生家は、こことは別の街で商会を営んでいましたので、両親から一通り躾けられました」
那月さんの質問にセルフィはさらりと答えたけど、色々と気になる内容だった。
更に確認していくと、彼女達は読み書き計算も問題なく出来る様で、それも全てセルフィが先生となって子ども達に広めたらしい。
読み書き計算が出来るなら、採用試験でも大きなポイントになりそうだけれど、その一方でセルフィがここまで優秀な理由について、推測は付くものの確認する必要性を感じたのか、那月さんは意を決して一歩踏み込んだ質問を投げ掛ける。
「最初に断っておくけど、無理に答えなくて良いからね。セルフィが親御さんと離別しているのと、『商会を営んでいた』って事は……」
「はい。私の両親の商会は、今はもうありません。それと、それから間を置かず、私は両親と離れ離れになり、この街に流れ着いた感じです」
セルフィがそう淡々と答えると、那月さんは少々気まずそうな表情になる。
「そっか。ゴメンね、嫌な事を思い出させて」
「いいえ。もう大分経ちますし、私にはどうする事も出来ない事でしたので」
セルフィはそこまで話すと、ふいに那月さんを見上げる。
「それよりも、チャンスを頂けた事が大事ですから。……ナツキ様に一つお願いがあるのですが、ピンセント商会の店員採用試験を、私にも受けさせて頂けないでしょうか?」
「あれ? セルフィは仮採用が決まっているんじゃない?」
「それは、魔法使いの卵としてだと思います。それだけではなく、出来るならピンセント商会の店員としてもお願いしたいです」
普段の落ち着いた感じとは一転して、セルフィはそう熱く語る。
その様子にわたし達は驚かされたけど、予想通りというか、彼女の知識は両親からもたらされたもので、何かあっても生きていける様にとの想いが込められたものらしい。
それ故に、実家の商会は無くなってしまったけれど、自分の力で新たに商会を切り盛り出来る様になる事が、セルフィにとって両親への恩返しであり、また将来の目標にもなる様だった。
また、セルフィに感化されたのか、意外な事にフィリアも店員の採用試験を受けたいと言い出した。
本人曰く、『仲間外れは嫌』という事だけど、案外乗り気な雰囲気も出していたので、意外と客商売に愛着があるのかもしれない。
食事を終えた後は、リゼット、コレット、シャルロットの順に魔法の素養を確認する。
リゼットは照れた感じで、コレットは緊張していたけれど、シャルロットはこの時も終始ニコニコしていたので、これは最早一つの才能と言えるのかもしれない。
尚、彼女達三人の魔法の素養はそれぞれ多少はあったけれど、セルフィやフィリアの様な特別なものではなかった。
その結果を聞いて、三人とも普通に納得していた事から、強い魔法の素養持ちは相当珍しいのだろう。
子ども達が疲れていた事もあり、その後は程なくして就寝する事になった。
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