第27話 行商人との同行
ゴブリンの気配も消え、安全性が確認出来たところで、わたしは那月さんと合流する。
「フミナ、早過ぎだって。正直焦ったよ」
「すみません。でも、急いだからこそ彼らを救えましたので」
「うん、分かってる。良くやったね」
那月さんはそう言って、わたしの頭を撫でてくる。
「……子ども扱いは止めて下さい」
「あ、ゴメンゴメン。そういうんじゃなくて、相棒とのスキンシップだから!」
「はあ……。とりあえずは、彼らの元に向かいましょう」
そんなやり取りをしつつ、わたし達はヒナタに守られた旅人達の元へと歩いて行く。
彼らはしばらく呆然としていたけど、わたし達の姿を認めると立ち上がろうとした。
「そのまま座っていて下さい。まだ本調子ではないと思いますので」
「そうですな……、ではこのままの姿勢で失礼致します。我々を救って頂き、ありがとうございます」
「不幸中の幸いだったね、おじさん。この子が気付いて良かったよ」
そう那月さんが話すと、男性はぎょっとした表情になる。
「勇者ナツキ様……ですか? 貴方が私どもを助けて……」
「ううん、貴方達を助けたのはこの子――フミナ。多分、貴方も見たでしょう? フミナの魔法の力をさ」
「……そうでした。最早死にゆくだけと思っていたところを、フミナ殿に助けられました。重ね重ねになりますが、ありがとうございます」
「気にしないで下さい。みんな助かって良かったです」
わたしがそう返すと、男性は少し顔を顰める。
「残念ながら、亡くなった者もおります。今回の護衛には彼女達の他、男性の冒険者を二名雇ったのですが、うち一名はゴブリンの群れを見て逃げ出し、もう一名は逃げた冒険者にゴブリンの前へ囮として突き飛ばされ、いの一番に襲われてしまいましたので」
「……そうですか」
「フミナ、仕方ないよ。私達は全てを救える訳じゃない」
「……わかってます、大丈夫ですよ」
助けられなかった人もいる――、その事にもやもやしたものを感じるけど、那月さんが気遣わし気にわたしの肩に手を置いたのを感じ、もやもやを吐き出す様に答えを返す。
その微妙な雰囲気を打破するように、男性はわたしに問い掛けてきた。
「フミナ殿は聖女様ですか? 素晴らしい回復魔法のお陰で、こうして命を繋げる事が出来ております」
「わたしは魔女です。……偶々光魔法が得意なだけの」
「そうですか……。いずれにしろ、ありがとうございました。申し遅れましたが、私はテルセロと申します。しがない商会の会頭などをやらせて頂いております」
男性はそう言うと、わたしへと改めて深々と頭を下げる。
それからは、お互いに自己紹介をし合ってから、ゴブリンの群れに襲われた経緯などを話して貰った。
テルセロさんは、何とピンセント商会の会頭との事で、商会のお店でわたしの着ている服を買ったと話すと、『やはりそうですか』と納得しつつ嬉しそうな顔をしていた。
娘さんはティナさんという名前で、一番上の子どもらしく、今回はテルセロさんの行商に同行していたところをゴブリンに襲われたらしい。
ほわほわした雰囲気の美少女で、栗色の髪を綺麗に伸ばしている一方、その前髪は短く切り揃えられている。
最初は畏まった感じだったけど、わたしと歳が一緒らしく、それが分かった途端にフレンドリーな雰囲気で『フミナちゃん』呼びになったので驚いた。
二人の女性冒険者はそれぞれ剣士と魔道士との事で、ゴブリンに襲われていた方が魔道士のミリアムさん、気絶していた方が剣士のリンダさんと紹介を受けた。
おっとりした雰囲気のミリアムさんと、生真面目なリンダさんでコンビを組んでいて、驚いた事に彼女達は私生活でも恋人同士という事だった。
一通りみんなの自己紹介が終わったのを機に、テルセロさんが再度口を開く。
「今回はゼアスの街で反物を買い付けたのですが、まさか街道でこれ程大規模な魔物の群れに遭遇するとは想像しておりませんでした。お二方が気付かなければ、どうなっていた事か……」
「ま、それは置いといてさ、これからを考えようよ。ここからだと、もう日のあるうちにアルフルスまで辿り着けないっしょ?」
「でしたら、一旦は亡くなった方を埋葬しても良いでしょうか。そのままだと、アンデッドになってしまう危険がありますので」
「そうですな。なら、私が同行しましょう」
そう話した後、わたしと那月さんとテルセロさんの三人で、亡くなった冒険者の元へ赴く。
途中、テルセロさんはその冒険者の話をしてくれたけど、不良冒険者の類だったらしく、ミリアムさんとリンダさんにしつこく声を掛けていただけではなく、依頼主の娘であるティナさんにまで言い寄っていたらしい。
ゼアスで足止めを食う訳にはいかず、背に腹は代えられないとの判断をしたらしいけど、テルセロさんはこの判断を悔いているらしかった。
わたしもギルドに初めて行った時、不良冒険者に絡まれたから、他人事とは思えず憤る。
そうして、冒険者の亡骸の近くまで来ると、先行して様子を見に行っていた那月さんが顔を顰めて戻って来た。
「どうしました?」
「あ~、フミナは見ない方が良いよ。慣れてないっしょ?」
「はあ、まあ……。でしたら、手伝って貰えますか」
それから、那月さんの指示に従って、冒険者の亡骸を[
その後に[清浄]と[浄化]を続けて放ち、アンデッド発生の余地を無くす。
その際、テルセロさんが『やはり、聖女……』と言っていたのが聞こえたけど、それはスルーした。
やがて、浄化作業を終えて那月さんも戻って来たので、気になった事を問い掛ける。
「それで、わたしの目に入らない様にしたのは何か理由が?」
「そうだね。理由は二つあって、一つは遺体が結構酷い事になっていたからだけど、もう一つはさ、あの時の冒険者だったんだよね」
「あの時……ですか?」
「冒険者ギルドでフミナに絡んでた二人組がいたっしょ? その片割れ」
「ああ……」
確かに、あの時の冒険者なら……と色々と納得する。
そう考えると、あの時も非道いのに偶々当たっただけで、他の男性の冒険者までもがみんないやらしいとは限らない事に気付き、少しほっとした。
「だとすると、相棒を囮に逃げた方はもう片割れの方ですか……。そちらも、もう生きてはいないでしょうけど」
「そうなの?」
「ゴブリンの上位種が後詰めに控えていた様ですので。並の冒険者だと厳しいでしょう」
「そっか、ままならないものだね」
そんな話をしながらみんなの元に戻った後は、横転していた馬車を戻したりしつつ、再出発の準備をし始める。
ゴブリンの大群に襲われた場所なだけに、ここで野営をする気にはなれず、日のあるうちにより安全なところまで移動する事にした。
幸いにして、馬が一頭、ゴブリンの奇襲から逃げおおせた後に戻ってきていて、荷馬車を引かせる事は出来そうだ。
移動を始めると、早速ゴブリン上位種と男性冒険者の亡骸を発見する。
上位種は、わたしの予想通りゴブリンメイジとゴブリンアーチャーで、想定通りだったとは言え、結構厄介な敵だったようだ。
男性冒険者も、予想通り冒険者ギルドでわたしに絡んできた不良冒険者の片割れで、色々と自業自得の面はあったけど、相方と同様に[
今度は、テルセロさん以外の人達からも『聖女……』という呟きが聞こえてきたので、この認識は後で正そうと心に決める。
そうして先に進むと、比較的野営に適したところを見つけたので、今日はここで一泊していく事になった。
特に、大怪我をしていたテルセロさんとリンダさんが相当辛そうにしていた事もあり、無難な判断だと思う。回復魔法で怪我を治したり命を繋ぐ事は出来ても、心身の疲労は抜けきらないという事だろう。
野営の準備については、那月さんとも相談して土のシェルターを解禁し、まずはくの字になる様に三つ配置する。
それぞれが、わたし達・テルセロさん一家・ミリアムさん達用で、囲われた中央部に馬車を留める感じだ。
「この様に、わたしの魔法は色々と特別らしいので、他言無用でお願いします」
「なるほど……。確かに、その若さでこれだけの魔法を操れるのは規格外ですし、それを知られれば良からぬ輩を招く事になるかもしれません。フミナさんには親子共々命を救われた訳ですし、それはお約束しましょう」
「私達も異議ありません~。そんな恩知らずな事はできませんよ」
幸い、私の言葉にみんな同意してくれたので、まずはほっとする。
その後は、疲れもあってか早めに夕飯を済ませ、早々に休む事になった。
ミリアムさんとリンダさんは夜番を申し出てきたけれど、魔物を寄せ付けない結界を張るから大丈夫と説得する。
それと、テルセロさんとミリアムさんには幾つかのポーションを手渡して、調子が思わしくなければ飲むように伝えた。
わたしの力が露見する事になるけど、みんな悪い人ではない様だし、助ける事が出来た後の処置が不味いせいで望まない結果になるのも嫌なので、必要な処置は躊躇せずに対応する。
ゴブリン襲撃による疲労は相当だったのか、その夜は何処もすぐに就寝した様だった。
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