第18話 野営で夜更かし
ダンジョンに入って大分時間が経過した事もあり、そろそろ野営を想定し始めた頃、幸いにして丁度良く明るさが控えめなスペースが見つかったので、わたし達はそこで野営をする事に決める。
「フミナ。一応言っとくと、ダンジョンでの野営ってかなり危険だからね。ほとんど眠れない事も覚悟して」
「那月さん、大丈夫ですよ。まずは、ちょっとこちらへ。では[
那月さんは野営時の注意を語り始めていたけど、わたしは彼女を呼び寄せると、とりあえずは[
ダンジョンの隅なので、上下と側面2方向は元来の土壁を利用して、今回は壁を二つ付けるだけなのでかなり楽だ。
「お、おお~?」
「ヒナタ、お願い」
そして、ヒナタに【結界】を張って貰って安全を確保し、その後にわたしの魔法で明かりと空調も確保する。
二回目という事もあって、今回はあっさりと野営の拠点を作成する事が出来た。
「ありがとう、ヒナタ。那月さん、ひとまずはこれで夜番の心配はないかと。ヒナタの【結界】があれば、魔物は入って来れませんので」
「……マジか」
「はい。それと、昨日買った毛布を出して下さい。土製ですけど、ベッドも用意しますので」
「……ああ~、そう言う事か……」
那月さんは呆れつつも、得心のいった表情になると、アイテムバッグから毛布を取り出す。これは、幌馬車などで旅をする際に使用される物で、結構丈夫なつくりをした毛布らしい。
主に商人や一定以上の身分の人が使用するもので、冒険者はあまり用いないと聞いたけど、昨日の買い物の際に必要性を訴えて買って貰ったものだった。
普通の冒険者だと荷物は厳選する必要があるし、いくら丈夫でも野宿で毛布を使うとすぐにボロボロになる、というのが冒険者に人気がない理由になる。
だけど、わたし達ならアイテムバッグや[アイテムボックス]があるし、野営の際は土魔法で居住空間を作れるから、有用な一品になると思う。
更に居住性を高めていきたい思いもあるけど、まずはこれだけあれば、最低限合格と言えるだろう。
「ここまで来ると、野営とは何か、分からなくなってくるね……」
「まあ、安全に眠れるに越した事はありませんし」
「分かってると思うけど、これって普通じゃないからね。知られたら、色々と目を付けられる可能性が高いから、気を付けること」
「そこは、わたしも理解しています。だから、信頼出来る人にしか見せませんよ」
わたしがそう言うと、那月さんはちょっと嬉しそうな表情を見せる。
既に大分遅い時間になっていた事もあり、その後は軽食を摂り、そのまま就寝する事にした。
◆ ◆ ◆
その夜、寝床に就いて[
「フミナ~、ちょっとお話しても良い?」
「今からですか? 明日も朝早いですよ」
「ちょっとだけ。ね、お願い」
「……分かりました。本当にちょっとだけですよ」
「ありがとう、フミナ!」
どうやら、わたしには那月さんのお願いを断るのは難しい様で、結局は言う事を聞いてしまう。那月さんの嬉しそうな声を聞くと、仕方ないかと思ってしまうあたり、大分彼女に毒されてきているのかもしれない。
「最初は質問からね。フミナが一番得意なのって時空魔法?」
「そうですね。……その、アレを見たからですか?」
「まーね。[時空震]なんて、私も初めて見たし」
「なるほど……」
あの時はわたしも冷静さを欠いていた事もあり、大魔法を見せたため確証を得られてしまった様だ。
「ならさ、多分[アイテムボックス]も使えるよね? 勿論、容量も多めでさ」
「そうですね」
「それじゃさ、昨日買った衣類とかは、フミナに全部渡すね」
「良いんですか?」
「フミナのために買った物だからね」
正直なところ、買って貰った衣類に対して、所有権が自分という意識がまだ無かったけれど、確かにプレゼントした側から見れば、その後も自分が持ち続けているのは締まらないだろう。
「そうですね、分かりました」
「次はこのダンジョンについてね。今日見てどうだった?」
「ええと……、アンデッドが多いなと」
「まあそれもあるけど、素材や宝箱についてはどう?」
「……あ、全然見つかりませんでしたね」
「うん。多分だけど、もう採り尽くされているのかもしれないね。だから、このダンジョンは人気が無いのかもしれない」
那月さんの指摘を聞いて、わたしもなるほどと得心がいく。
他の冒険者と全く鉢合せなかったのは、そういった理由があるのかもしれない。
「そういう事ですか……」
「そう。だからさ、明日も何も見つからなかったら、早めに出た方が良いかもね」
「分かりました」
この辺の視点は、経験豊富な〈勇者〉ならではという感じで、わたしだとすぐには分からなかっただろう。
那月さんの『お話』が、思いの外まともな事に感心していると、彼女は尚も話を続ける。
「そして最後にだけど、これが一番重要」
「……はい」
「フミナってさ、私の事をさん付けで呼ぶじゃない? 折角相棒になったんだし、呼び捨てにして欲しいな~って」
「……それが一番重要?」
「重要だよ! 何かフミナとは未だに距離を感じるし、それって連携にも影響しちゃうでしょ? だから、まずは呼び方からそれっぽくしていこうよ」
重要な話と聞いて身構えたところに、随分と緩めの話が来て拍子抜けする。
言わんとする事は分からないでもないけど、わざわざ重要な話と銘打ってする内容でも無いと思う。
「とは言っても、那月さんは年上ですし、わたし達が出会って幾ばくも経っていないですよね。なら、さん付けが自然じゃないでしょうか」
「でも相棒だよ? なら良いじゃない」
「……考えておきますので、とりあえず今日は寝てしまいましょう」
「あ~! それ絶対やらないやつ! ナツキって呼んでくれるまで寝かせないから!」
「ちょ……、止めて下さい!」
那月さんの話を流そうとしたところ、予想以上に強硬に主張されてしまい、挙句那月さんはわたしのベッドに入り込んで来る。
そうなると、わたしも応戦せざるを得ず、結局はこの夜も夜更かしをする羽目になった。
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