第11話 共同生活の始まり
その後は宣言通り、屋敷の各部屋に対して順番に[清浄]を掛けていった。
元々が貴族か何かの屋敷だったらしく、部屋数もかなりのものだったけど、まずは一階を清掃し終えて一息つく。
「フミナ、お疲れ様。……ホントに大丈夫なの?」
「何がです?」
「いや、これだけ魔法を使ったら、魔力が枯渇したりしない?」
「特に問題はありませんね。二階もさっさと終わらせてしまいましょう」
さほど魔力が減っている訳でも無いのでそう返したけど、那月さんは少々げんなりした表情になる。
それでも、魔法を使い続けているわたしだけを頑張らせる訳にもいかないと思ったのか、那月さんも最後まで掃除に参加していた。
やがて日が暮れ始めた頃、二階も[清浄]を掛け終える事が出来た。
「これで、建物の中は一通り終えた感じですね」
「ソウダネ……」
わたしとしてはやり遂げた気持ちで一杯だったけれど、那月さんは疲労困憊という感じだった。
剣を振るう方が大変なのでは? とも思ったけれど、普段やり慣れていない事は、余計に体力を使うという事なのかもしれない。
「もう日も暮れますし、これから夕食にします?」
「あーー!!」
那月さんの様子を見て、ちょっと早めの夕食を提案したところ、突然叫ばれたので驚く。
「買い物に行くのすっかり忘れてた! ……もうお店閉まり始めているよね」
「買い物……ですか?」
「そう! フミナの服とか下着とかベッドとか、必要でしょう?」
「……そっか、そうですね。でも、今から行けばギリギリ間に合うのでは?」
「ダメだよ、それじゃ。フミナに似合うやつが選べないじゃない」
「なら明日ですね。一日くらい何とかなりますよ」
「フミナはクール過ぎる!」
それからも、那月さんはやいのやいのと騒いでいたけれど、やがて諦めたのか大人しくなる。
それでも、結局のところは翌朝の食料の買い出しや夕食を摂るため、外出自体はする事になった。
と言うのも、わたしも那月さんも料理が出来ない事が判明し、外食に頼らざるを得なかった為で、折角掃除した屋敷のキッチンもあまり使われる事は無さそうだった。
外食先は、意外にもお米のご飯があるお店で、わたしは驚く。
那月さん曰く、『日本人はお米をよく食べるって聞いてたから』との事で、この世界でも普通にお米が食べられる事にほっとすると共に、那月さんの気遣いが嬉しかった。
◆ ◆ ◆
外出から戻ると、辺りはすっかり暗くなっていた。
屋敷の中も、大半の部屋が使われていない事もあり、薄暗い雰囲気になっている。
「……まだ色々と買い揃えないといけなさそうですね」
「ま、まあ。幽霊屋敷は脱したし、これからよ、これから」
とりあえず、今夜はわたしの[
それから明日の行動指針を話し合い、まずは買い物をする事に決める。
この家に足りない物も多いし、わたしも着替えを持っていないから、色々なお店を回る必要があり、忙しくなりそうだ。
一応話もまとまり、後はお風呂に入って寝るだけ……というところで、思わぬトラブルが発生する。
「フミナ~、それじゃ一緒にお風呂入ろっか」
那月さんのその言葉を聞き、わたしは飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。
「わわ! 大丈夫?」
那月さんは、咽るわたしの背中をさすってくれる。
わたしは混乱しつつもようやくお茶を飲み込み、何とか口を開いた。
「一緒に、お風呂、ですか……?」
「そう! 相棒と背中を流し合いっこするの、良くない?」
那月さんは純粋にキラキラした目線を向けて来るけど、彼女と一緒にお風呂は色々と不味過ぎる。
わたしのアイデンティティはまだ男子のつもりなので、今の身体だと一人でお風呂に入るのさえ葛藤があるのに、こんな美少女と一緒なんてムリムリ! というのが正直な気持ちだった。
「ど、どうして、急に……」
「へへ~、そういう気安い関係って良いよね。相棒結成の記念って感じでさ」
「気持ちは分かります、けど……」
「ダメ、かな?」
那月さんは半分冗談めかしつつも迫ってくるので、わたしはどんどん余裕が無くなっていく。
更に悪いことに、那月さんが部屋着になっていた事もあって、余計な事にも気付いてしまった。
かっちりした騎士服の時は気付かなかったけど、彼女のとある箇所はとても大きく魅力的で、その事を認識してしまうともうダメだった。
「だ、駄目です! 一緒にお風呂なんて、まだ早過ぎます!」
「え~、そうかな~」
「それに、わたしもこちらに来て初めてのお風呂ですし、今日は一人で入らせて下さい!」
「う~ん、分かったよ。なら、また今度だね」
意外とあっさり那月さんが引き下がった事で、心臓はバクバクしたままだったけど、難局を乗り切れてほっとする。
その後は、一番風呂を譲ろうとする那月さんをお風呂まで送って、ようやく安心する事が出来た。
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