第9話 冒険者ギルドでの出会い
その後は旅の雑貨屋を経由して、日が傾き始めた頃に宿屋へと辿り着いた。
「フミナさんの希望を考えると、ここが良いかなと。女性でも安心との評判で、実際に周りの治安も悪くありませんし」
「そっか。ありがとう、セルフィ。今日は助かりました」
わたしはそう言って、セルフィへ案内料を渡す。
その後、礼儀正しく挨拶をしてから駆けていくセルフィを見送りながら、私はあらぬ事を考えていた。
「可愛い子達でしたけど、年齢を考えると流石に『攻略対象』ではありませんよね。あるとしたら、数年後……などでしょうか?」
そう呟いた後に、我ながら毒されているなと頭を振り、セルフィの姿が見えなくなってから宿屋の扉を開ける。
異世界の宿屋という事で緊張したけれど、店員が無愛想な以外は普通だった。
一部屋一人一泊、夕食朝食付きで銀貨5枚となり、風呂は付いていなく、食事は一階の食堂で摂る事になるらしい。
お風呂が無いのは残念だけど、[清浄]があるので問題は無いだろう。
転生後の疲れもあるので、早速一泊部屋を取って休む事にする。
部屋に行く前に、まだ早い時間だけど駄目元で夕食をお願いしたら、すぐに出して貰えたのは助かった。
夕食はパン、謎肉のステーキ、野菜スープという献立で、量は多くはなかったものの、意外と悪くない味だと感じる。
食事が口に合うか否かは、今後の生活の上で重要な一要素だっただけに、ほっとした気持ちが大きかった。
食事を終えた後は、他の客が来る前に部屋へと撤収する。
そして、固めのベッドに横になりつつ、今後の指針について考えていた。
まずは街に辿り着けたので、最初の関門は突破したけれど、今後はこの世界でどうやって生きて行くかを考えないといけない。
現状は身寄りが無い立場なだけに、まずは冒険者として生業を立てるしかなさそうだ。
ヒナタと一緒ならソロでも問題なさそうだけど、将来的にはどうするか。
一案としては、【錬金魔法 LV4】を活用しての魔道具や魔法薬の作成があるけれど、工房や販路など整えるべきハードルも高そうに思う。
「まずは、明日冒険者ギルドに行ってみて……でしょうか。それと、わたしのスキルを活用する手段も考えないと、ですね」
『まずは情報収集と整理』から始めよう。そう結論付けて、念のためヒナタに【結界】を張って貰い、その夜は眠る事にした。
◆ ◆ ◆
翌朝はギリギリまで眠り、他の宿泊者が出払った頃合いを見て始動する。
朝食は夕食を流用したようなメニューで、肉がハムとチーズに変わった感じだった。
遅めの朝食を摂った後、早速冒険者ギルドへ向けて出発する。
今日は冒険者登録の他、まずは情報収集から始めるつもりだ。
何らかの資料や地図があれば良いけれどと思いつつ、冒険者ギルドの扉を開ける。
中は役所っぽい雰囲気で、意外と閑散としていた。セルフィの言う通り、混雑する時間を避けたせいもあるのか、そもそも冒険者も数名しかいない。
まあ、わたしにとっては好都合なので、早速受付の女性に話し掛けてみる。
「おはようございます。登録希望ですが、大丈夫でしょうか?」
「はい。登録料として銀貨5枚が必要になりますが、宜しいですか?」
意外と登録料が高かったけど、必要経費なので差し出す。
「はい、確かに頂きました。それでは登録に当たり、幾つか質問をさせて頂きますのでお答え下さい」
受付さんはそう言うと、簡単な質問をしてくる。
名前、年齢と種族、それと分かれば自身のクラスについてという感じだ。
わたしが〔クラス〕【魔女】と答えると、かなり驚かれる。
「魔女……ですか。すると、そちらの動物は使い魔でしょうか?」
「はい。……その、魔女はやはり珍しいのでしょうか」
「そうですね、私もほとんど記憶にありません。魔女でしたらソロで活動する事も可能かもしれませんが、お気を付け下さい」
「はい、ありがとうございます」
「それでは登録とカード発行とを致しますので、今しばらくお待ち下さい」
とりあえずは、特に問題なく冒険者登録が出来そうでほっとする。
それからは待ち時間で情報を得るべく、壁に掛けられている地図を見ていると、冒険者らしき男性2名に話し掛けられた。
「お嬢ちゃんは、冒険者志望かい?」
「……ええ」
「パーティーメンバーがいる感じもねえけど、まさかソロで始めるつもりか?」
「……そうですけど、何か?」
男共のいやらしい視線に気付き、取り付く島もない様に答えを返すも、男共はまるで動じず、更に踏み込んでくる。
「そりゃ良くねえなあ。お嬢ちゃんみたいな女の子がソロ活動なんて。魔物に襲ってくれって言ってるようなもんだぜ」
「それとも、可愛い顔してそう言う趣味か?」
そう言って下品に嗤う男共を避けようとするも、二人はわたしの進路に回り込み、周到に立ち塞がってくる。
そのまま、男共はわたしに舐め回す様な視線を向けつつ、嫌がらせの様なナンパをしてきた。
「おいおい、つれないねえ」
「怖がる事はねえだろ。俺達は初心者なお嬢ちゃんを助けてあげようって言ってるんだぜ?」
「はい?」
「ああ。先輩冒険者として、お嬢ちゃんに手取り足取り教えてやるよ」
「俺達とパーティーを組めば、魔物も怖くないしな」
そう下品に迫ってくる男共にキレかけつつ、やはりこの世界は街中さえも危険なのかとある種の絶望感を覚えた頃、凛とした声が掛けられた。
「止めなよ。その子、嫌がっているじゃない」
反射的に声の方を振り向いて驚く。
そこには物凄い美少女の剣士がいた。
淡い金髪をボブカットにしていて、大きな瞳は蒼く吸い込まれそうな碧眼であり、その肌は剣士とは思えないほど白く滑らかだった。
歳の頃はわたしと大差無さそうだけれど、そんな外見にも関わらず、一方で歴戦の猛者の雰囲気も感じさせている。
実際に、かっちりした服装と特別な意匠の施された剣と鞘が見て取れる辺り、高名な騎士なのかもしれない。
一方で、男共は美少女剣士の雰囲気を感じ取れないのか、下手なナンパに水を差された事で食って掛かっていた。
「ああん? なんだてめーは! お前も相手して欲しいってか」
「俺達は初心者を仲間に誘っていただけだぜ。変な言いがかりは止してくんねーか?」
「ああもう、落ち着きなって。ギルドで揉め事起こしても、損するだけっしょ?」
美少女剣士の態度に何故かイケると思ったのか、片方の男が彼女にまで迫ろうとしたところ、もう片方がぎょっとした表情になると、突然止めに入った。
「んだ急に。俺は男に抱き着かれて喜ぶ趣味はねーぞ」
「馬鹿止めろ! ソイツは特務騎士〈勇者〉だ!」
その言葉を聞いた途端、美少女剣士に迫ろうとしていた男もピタリと動きを止め、ギギギと油の切れた機械の様に振り返る。
「〈勇者〉……だと?」
「ああ、奴が下げているのは聖剣だ。特別な意匠が施されているから間違いねえ」
「……マジか?」
「よく見たら、服装も王国特務騎士のものじゃねーか。……どうする?」
「………………」
男共はそこまで話すと、脱兎の如く逃げ出した。
「あーあ、そんな走って逃げなくても良いのに」
美少女剣士は苦笑しつつそう言うと、わたしに向き合う。
「大丈夫だった?」
「はい、ありがとうございました」
美少女剣士は更に語りたそうにしていたけど、そこに受付さんがやってくる。
「フミナさん、大丈夫でしたか?」
「はい、彼女が助けてくれましたので」
「ども~」
そこで受付さんは美少女剣士と向き合い、こちらもぎょっとした様な表情を浮かべる。
「ナツキ様! お手を煩わせてしまい、申し訳ありません!」
「気にしないで。この子が困ってたから、口を挟んだだけだしさ」
王国特務騎士の称号は伊達ではないのか、受付さんは謝る事しきりだった。
その一方で、わたしは彼女の名前に衝撃を受けていた。
『ナツキ』……この世界ではまず無い名前のはずで、ひょっとしたら彼女も日本からの転生者なのだろうか?
そう考えていると、受付さんとの話が終わったのか、こちらを見ていたナツキさんと目が合う。
美少女からの吸い込まれる様な視線を受け、思わずたじろいだわたしに対し、ナツキさんは一歩距離を詰めて囁いた。
「それでさ、フミナって日本人?」
その言葉を受けて、わたしは驚きを返すのが精一杯で、そんなわたしを見てナツキさんはにっこりと微笑んだ。
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