第7話 キケンな世界に美少女転生?

 それから夜も更けてきて、土のベッドに横になりつつ、眠る前にこの世界の事について考えていた。


 神様からの提案に乗ってみたものの、転生の際に女体化してしまい、挙句この世界は随分と危険に満ちていた。

 特に、女性にとっては性的な脅威が多過ぎて、これ程のスキルを得ても安心出来ない気持ちの方が強い。

 悪意の塊の様な魔物が多数存在する世界なだけに、街中にすら落とし穴があると考えていた方が良いだろう。


 そう考えていると、日本での記憶でふと思い当たる事があった。

 男子高校生の日常としてアダルトな猥談もままあったけれど、その中にはファンタジー物に関する話題もあり、特に詳しいクラスメイトもいた。

 その中で、『二次元なら何でもあり』といった話題が出て、全ては思い出せないけれど、魔物を性的な対象にするだとか、逆に人の女性が無理やりされてしまう……みたいな事例があった気がする。

 この話題になった時は、何故人と魔物なのかとドン引きした奴も多く、何でもあり派とそれは無い派とで男子高校生らしい馬鹿話に突入した様な……。


 ……待って欲しい。そうなると、この世界は男子高校生の妄想を具現化した様なところという事か。それって滅茶苦茶危ない世界なんじゃ……。

 少なくとも、わたしの貞操的に良い要素は無さそうだった。


 それでも、彼らの話が現状の助けになる可能性を考慮し、その記憶を手繰り寄せるべく思案を巡らせる。

 ただ、そんなに親しい間柄ではなかったし、そういうのは面白半分の話でもあるから、まともに覚えていないんだよね……。


 唯一思い出せた事としては、『美少女はみんな攻略対象』みたいな話もあった気がする。

 要は作り手側としても美少女=ヒロインとして作るから、大人の作品に美少女が出てきたら、いかがわしい事をされる可能性が高いって事だろう。


 そう言えば、今のわたしは相当な美少女だった様な……。

 当初の予想を超えて、極めて危険な世界に転生してしまった可能性が出てきた事で、わたしは絶望感を抱き始める。

 転生して生き永らえる事こそ出来たけど、正直これはあんまりだと思う。


 そう思いつつも、現状を打破して平和に生きるべく、足掻いてみる事にした。

 性的に獲物として見られるなら、なるべく危険を避けつつも、いざという時はそれを力尽くで跳ね除けられる様に鍛えるべきだろう。

 また、この仮定が正だとすると、わたしの様な『攻略対象』が他にもいるかもしれず、それは綺麗な女性である可能性が高い。

 それなら、『攻略対象』同士で仲間になり、力を合わせるのも手かもしれない。

 いずれにしても、力を付ければ安全度も高くなるはずで、この世界で生きていくにはそれしかないのかもしれなかった。


 何とか結論は出せたけど、これからの事を思うとげんなりする。

 日本の創作物に毒され過ぎだとも思うし、この予想が外れる事を祈りたいけど、生きるために力を付けるのは必須だろうと結論付けて、わたしは眠りについた。


◆ ◆ ◆


 翌朝、夜が明けると同時に出発して街を目指す。

 昨夜は色々考えていた事もあり、中々寝付けなかったけど、意外と調子は悪くない。

 魔物は今日も襲ってくるけれど、良くも悪くもいやらしい視線に慣れた事もあり、心を無にして蹴散らしていく。

 速度重視で突破した事もあり、昼過ぎには森を抜けて街道に辿り着いた。


「ようやく……ですね。まだ街まで距離はあるけど、ここまで来れば安心でしょうか?」


 とりあえず、街に着いた時の予習も兼ねて、丁寧に呟いてみる。

 慣れないのと、もう少し言葉を崩した方が良いかもしれず、口調には特に気を付ける必要がありそうだ。


 尚、街道に出ても【隠密】は切らさずに進む事にした。

 街道と言っても、街から離れれば普通に魔物が出てくる可能性があるのと、盗賊に襲われる危険もあるからだ。

 魔物と違い、盗賊が相手だと〈聖域〉も意味を成さないので、今後も気を付けた方が良いだろう。


 但し、その後は幸いにして一度も会敵せずに、二時間程で街の入り口に辿り着いた。

 まあ、街の入り口と言っても、害獣防止用の柵と堀、そして畑が広がる農耕地帯で、農家の集落こそ見えるものの、街の中心部はまだ先になる様だけど。

 それでも、人の集落まで辿り着いた安心感から、張り詰めていた緊張感がようやく解けていくのを感じる。


 そのまま街道に沿って農耕地帯を進んで行くと、やがて街の外壁が見えてきた。

 どうやら、あの外壁の内側がこの街の中心部になるらしい。


 外壁の規模は結構大きく、思ったより大きな街の様で少々緊張したけれど、特に門番などはいなかった。

 変に問い詰められたりしなかった事にほっとすると共に、少々困った事になったとも思う。

 と言うのも、この街の何処に何があるかが分からないため、宿を探すだけでも日が暮れてしまいそうだ。


 門番がいれば質問する事も出来たのに、と途方に暮れていると、可愛らしい声で話し掛けられた。


「お困りですか? お姉さん」


 その声に振り向くと、小学生高学年から中学生位の年頃と思われる女の子がいた。

 宵空を思わせる濃い瑠璃色の髪と目が綺麗な美少女で、特に夜の始まりの様な色彩の青髪は、ここが異世界である事を強く感じさせる。

 その神秘的な容姿を見て、思わず呆けてしまったけど、はっと気が付いて返事を返す。


「……君は? わたしに何か用でしょうか?」

「私はセルフィと申します。失礼ですが、お姉さんはこの街は初めてですか?」

「あ、うん……そうですね」


 セルフィの丁寧ながらもぐいぐい来る感じに、思わず押されて答えてしまう。


「でしたら、街案内は必要でしょうか? 案内料は頂戴しますが、その分の情報は保証しますよ」


 ここまできて、ようやく彼女の意図が掴めてきた。

 どうやらセルフィは、旅人に対して街の案内をする事で対価を得ているらしい。

 案内料も妥当な様だし、今のわたしにとっては天の恵みの様に思えた。


「セルフィはこの街の案内屋さん? なら案内をお願い出来るかな」

「はい、承りました。案内を希望される施設等はありますか?」


 相手が年下の少女なので、少し砕けた口調で話す。

 セルフィの質問に対しては、最低限必要な情報を得るべく、少考してから答えを返した。


「それなら、銀貨5枚くらいで食事と寝泊りが出来る宿屋と、冒険者ギルド、それと旅の道具が買える雑貨屋をお願いしても良い?」

「はい。案内の順番は、冒険者ギルド、雑貨屋、最後に宿屋の順で宜しいでしょうか?」

「そう……ですね。その順でお願いします」

「かしこまりました。それでは案内しますね」


 不安が無い訳ではないけど、セルフィは服装や話し方もしっかりしているので、信用に足りると判断する。

 そうして、初対面の少女との街の散策が始まった。

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