第4話 使い魔はレッサーパンダ
「えっ!? 何で!? どういう事!!」
混乱から、思わず意味のない言葉を叫ぶ。
しかし、感情は現状を拒否していても、理性では自分が女子になった事を理解せざるを得なかった。
その後、ひとしきり叫んだり狼狽えた事で多少は気分が落ち着いた事もあり、現実を見据えるべく改めて水面を眺めてみる。
随分と目鼻立ちの整った、綺麗な顔になってしまったものだと思う。
その一方で、顔立ちに男だった頃の面影が残っている様にも見え、見慣れない顔のはずなのに、これが自分の顔なのだと不思議と納得してしまってもいた。
「どうしてこんな事に……。そのまま転生させるって話だったはずだけど……」
そう呟きつつ、神様との会話や今のスキルを振り返る。
特に、スキルは転生時に選択したよりも増えていたり
その結果、増えたスキルは〔クラス〕【魔女】、〔スキル〕【魔女の知識】、【使い魔召喚】の三つと分かった。
また、〔魔法〕に関わるスキルがいずれも当初の
他には、【異世界の基礎知識】が【世界の基礎知識】に変わっていたけれど、これは世界を渡った影響だと思うから、考察対象から外す。
……どう考えても、疑わしいのは〔クラス〕【魔女】だよなあ。
【魔女の知識】、【使い魔召喚】は如何にも【魔女】に付随するスキルって感じだし、〔魔法〕系スキル
そうなると、次は何故【魔女】になってしまったかだけれど、一つ思い当たる事があった。
転生前に見えないメッセージがポップアップされ、『はい』『いいえ』の選択肢が出てきたけれど、あの時は砂時計の砂がまだ少し残っていたはずなんだよね。
それなら、あれは転生の了解を求めるものではない可能性があった訳だ。
例えば、『〔クラス〕【魔女】の条件を満たしました。設定しますか?』というのはどうだろう?
……物凄くあり得そうな気がしてきた。少なくとも、今の状況に説明が付くし。
「はあ~、流石にそれは反則なんじゃないかな……」
ある程度推測が付いた事で、思わず愚痴が零れる。
【世界の基礎知識】よりも【魔女の知識】の影響か、魔法に関する知識はそれなりに頭に入っているっぽいけれど、性転換に関わるものは無かった。
という事は、俺が女体化したのは、正に神の御業に因るものという事になる。
即ち、これからは異世界で女性として生きていかなければならない訳で、途方に暮れるのも仕方ないと思う。
「とは言え、生き延びる事だけを考えると、ほぼ心配が無くなったのも事実なんだよな……」
複雑な心境でそう呟いたけど、実際に〔魔法〕系スキル
物理耐性が高くない弱点はあるものの、『最初が肝要』という点で見ると、ほぼ問題解決したと言えると思う。
最も
【世界の基礎知識】によると、[転移]は儀式魔術などでの使用が主となり、個人で扱う事が出来るなら最早伝説上の存在に近い位置付けになるらしい。
このため、そうホイホイ使う訳にもいかないけれど、生き延びる上ではこれ以上ない手段を手に入れたと言えるだろう。
そう考察し、この女体化は生き延びるためにはやむを得なかったと、無理矢理結論付ける。
それから、この〈聖域〉を転移ポイントとして記録しつつ、まだ触れていなかった追加スキル【使い魔召喚】を試す事にした。
魔女の使い魔と言うと、何となく鳥か猫を思い浮かべたものの、仮にペットにしかならなくても一人旅よりは良いだろう。
そう考えて【使い魔召喚】を実行すると、早速目の前に動物が現れた。
猫よりもちょっと大きく、全身がもふもふの毛で覆われていて、特に縞々の尻尾はもふもふして大きく長い。
上から見ると、もふもふの背中は濃いオレンジ色をしており、間抜けな感じで愛嬌のある顔の、可愛らしい動物だった。
「……レッサーパンダ?」
想定外の動物が召喚されて、ちょっと驚く。
確かに愛玩用でも良いかとは思ったけど、まさかレッサーパンダが使い魔になるとは考えていなかった。
あまり戦闘向きな感じもしないし……と考えていると、レッサーパンダが俺を見上げているのに気付く。
「可愛い……じゃなくて、どうしたんだい?」
思わず話し掛けてしまったけど、【魔女の知識】のお陰か、レッサーパンダの求めている事が分かった。
【使い魔召喚】は使い魔を呼び出しただけでは完了せず、魔女と使い魔とで魔力
その方法としては、魔女から使い魔への名付けが一般的であるらしい。
「えっと……、名前を決めて欲しいって事で良い?」
一応、レッサーパンダにも問い掛けてみると、嬉しそうなオーラを発しつつ期待した眼差しで見つめられた。
使い魔だからなのか、魔力
しかし、名前か……。
前世でも動物を名付けた経験は無いし、どうしたものかと思っていると、レッサーパンダのオレンジ色の背中が目に付く。
「それなら、『ヒナタ』はどう?」
背中の色合いからお日様をイメージしたけれど、レッサーパンダも気に入ったの
か、嬉しそうなオーラが強くなった。
「それじゃ、君の名前はヒナタだね。これからよろしく」
そう言うと、魔力
何となくヒナタの感情が分かる様になったのと、この子のスキルを共有できた感覚があると言えば良いのかもしれない。
「まず最初に、君の能力を確認してみるね。[
使い魔契約が出来たので、[
[
ヒナタ
〔種族〕
【レッサーパンダ】
〔クラス〕
【魔女の使い魔】
〔スキル〕
【尖爪】
【隠密】
【警戒】
【防壁】
【結界】
使い魔だからなのか、ヒナタは意外と色々なスキルを習得していた。
しかし、【尖爪】【隠密】【警戒】までは理解出来るけど、【防壁】【結界】辺りはレッサーパンダにそぐわないので、詳細を確認してみる。
【防壁】――物理・魔法・状態異常耐性を持つ防壁を任意の対象に設定。防壁の強度は主の魔力に依存する。
随分と強力かつ、魔法使いにピッタリなスキルの様だ。
このスキルがあれば、後衛専門でも大丈夫だったかもしれない。
【結界】――【隠密】【警戒】【防壁】を三位一体化したスキル。認識を阻害する事で察知されなくなると共に、害意や危険な気配を把握し、物理・魔法・状態異常耐性を持つ防壁を構築する。対象は空間範囲にて指定し、解除するまで有効。但し、【結界】内からの攻撃行動は出来ない。
余りにも強力過ぎる性能に、思わず唖然とする。
制限事項もあるけれど、これがあれば野営時の心配はほぼ無くなるし、要人警護の様に誰かを守る使い方も出来ると思う。
【隠密】【警戒】も合わせて考えると、ヒナタはとても優秀な使い魔の様だ。
この子は本当にレッサーパンダなのだろうか? と思わなくもないけれど、当面の安全性が大きく向上したので喜ぶべきだろう。
女性になった代償として、半ば安全な旅が約束されたと考えると、良かったのか悪かったのか……。
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