第2話 スキルと祖母ちゃんの教え
目の前の砂時計を見つつ、俺は今後の方針を考えていた。
神様がいないため質問も出来ず、徐々に減っていく砂が焦りを助長していく。
その一方で、目の前の画面表示は乱雑な本棚の様に全く整理されておらず、この中から必要なスキルを選ぶとなると頭が痛くなった。
祖母ちゃんは若い頃に色々と苦労したらしく、偶にその時の教訓を言い聞かせる事があった。
教わった時は昔と今は違うという思いもあったけど、祖母ちゃんも時代に合わせて知識をアップデートしているのか、その教えは存外理に適っていた事を思い出す。
今の場合だと……『まずは情報収集と整理』だろうか。
そう思い、乱雑な画面を操作していくと、三つ分かった事があった。
各スキルにはレベルがあり、例えば【光魔法】は
即ち、仮に【光魔法 LV3】にするなら、合計で60ポイントが必要になる計算だ。
また、一旦割り振ったポイントはキャンセル可能であり、入力ミスを気にしなくて良いのは好材料だと思う。
最後に、スキルを選択すると一応説明文が表示される事も分かった。
もっとも、【光魔法】を例に取ると、『光魔法を習得』位のものだけど……。
そんな事を考えつつスキル一覧を眺めていくと、【異世界の基礎知識】というスキルが目に入った。
その説明文には『世界の基本的な知識を現時点より習得。キャンセル不可』とあり、30ポイントが必要らしい。
他と毛色が違うのが『現時点より習得』と『キャンセル不可』で、メリットとデメリットについて少考したものの、まずはこのスキルを取る事に決める。
正に『まずは情報収集と整理』に合致したスキルであり、30ポイントは小さくないものの、堅実に行くなら必要経費と割り切った。
そして、実際に【異世界の基礎知識】を習得すると、その効果は劇的だった。
それまで乱雑に表示されていたスキルが、一気に整理されていく。
気が付くと、スキルは〔種族〕〔クラス〕〔強化耐性〕〔魔法〕〔スキル〕の5つに分類され、整理されて表示されていた。
その効果に驚きつつ、まずは〔種族〕から確かめてみる。
【人間:0ポイント】
人族の中で最も人口が多く、広範囲に分布する。
+能力に偏りがなく自由度が高い。素養が無いと魔法の習得不可。
どうやら『+』以降が【異世界の基礎知識】の効果の様だ。
スキル整理の効果はあったけど微妙だったか? と次を見てみる。
【魔族:50ポイント】
人族の中でも強靭な肉体と優れた魔法の素養を持つ。
+他種族のうち、人間とは特に敵対的であり、『力こそ正義』の価値観を持つ。
強烈なマイナス要素が表示され、思わず唖然とする。
50ポイントを消費してこれは、中々致命的ではないだろうか?
魔族の街に辿り着けば何とかなるか? とも思ったけど、『力こそ正義』の価値観が危険過ぎて、どうしようもなさそうだ。
……なるほど、【異世界の基礎知識】は予想以上に優秀らしい。
結構思い込みでスキルを認識していた事に気付くと共に、リスク回避策が上手くはまった事にほっとした。
続いて〔クラス〕を見てみると、【魔法使い】や【格闘家】、【重戦士】といった感じで、ゲームのジョブ・職業に類するものが選べる様だ。
但し、後付けで取得する事も出来る様なので、一旦は保留にする。
次は〔強化耐性〕か。
これはステータスUPや耐性付与を設定できるらしい。
気になったのが【頑健】で、次の様に表示されている。
【頑健 LV1:5ポイント】
身体が丈夫になる。
+食中毒や病気への耐性を得る。生命力にプラス効果。
消費ポイントが少ない割に、有効性の高い内容だと思う。
日本と比べて食中毒や病気の懸念が大きい可能性は高く、このスキルは取っておいた方が良いだろう。
そして、神様も最初に話していた〔魔法〕。
文字通り魔法を使える様になるスキルで、逆にここで選ばないと、人間の場合は『素養が無い』と判定されてしまう様だ。
であるなら、なるべく広く習得しておくのが良いかもしれない。
最後に〔スキル〕。
そのままの名称だけど、これまでの〔種族〕〔クラス〕〔強化耐性〕〔魔法〕以外の全てのスキルがここに入っている様だった。
雑多なので全ては見切れないものの、有効そうなものをピックアップして確認していく。
……という具合に、何とか一通りのスキルに目を通して一息ついた。
砂時計は残り半分を切った位で、まだ時間は残されているものの、スキル選択を急ぐ必要がありそうだ。
ここで、再度祖母ちゃんの教えを思い返す。
この場面で有効なのは、『最初が肝要』と『一芸より多芸』だろう。
『最初が肝要』では、スタートダッシュの有効性と共に、場合により最初期が最も苦しく困難な状況になり得る事を教わった。
今回は天涯孤独のスタートになりそうだし、最初期に困難な状況になる可能性が高いから、その対策を第一優先にするのが正しいはず。
『一芸より多芸』は、必ずしも正解とは限らないけれど、今回はこの教えを実行する事にした。
一芸極振りだと、それが上手く行かなかった場合は致命的になるけれど、広く浅くスキルを設定すればリスク回避に繋がる。
スキル選択ミスがそのまま生命に関わるだけに、安全を重視した構成にするのが正解とみた。
そうしてギリギリまで取捨選択を続け、次の様にスキルを取得した。
〔種族〕
【人間】(0ポイント)
〔クラス〕
なし
〔強化耐性〕
【頑健 LV2】(15ポイント)
【精神耐性 LV2】(15ポイント)
【魔力出力 LV1】(5ポイント)
【魔力容量 LV1】(5ポイント)
【魔力制御 LV1】(5ポイント)
〔魔法〕
【火魔法 LV1】(10ポイント)
【水魔法 LV1】(10ポイント)
【土魔法 LV2】(30ポイント)
【風魔法 LV1】(10ポイント)
【光魔法 LV3】(60ポイント)
【錬金魔法 LV1】(10ポイント)
【時空魔法 LV4】(100ポイント)
〔スキル〕
【異世界の基礎知識】(30ポイント)
【体術 LV3】(60ポイント)
【解体 LV1】(5ポイント)
一通りの魔法を習得しているので魔法使いっぽく見えるけど、一人旅を想定して【体術】を習得し、〔クラス〕は敢えて設定しなかった。
なので、〔魔法〕の威力に期待出来ない反面、生き延びるにはオールラウンダーなこの構成こそが最善と判断する。
〔魔法〕を駆使して最初期を乗り切り、安定した暮らしが出来る様に頑張るのが最初の目標になりそうだ。
そうして、選択したスキルを再確認していると、突然空間の輝きが増していき、徐々に何も見えなくなっていく。
まだ砂時計に砂は残っていたはずだけど、ポイントが0になったから予定を早めたのだろうか?
やがて辺りが純白の光に包まれた頃、目の前にメッセージのポップアップが表示される。
しかし、メッセージは純白の光により何も見えず、『はい』『いいえ』の選択肢のみが辛うじて視界に映った。
これは転生の了解確認だろうと判断し、深く考えずに『はい』を選択する。
すると空間は完全に光に覆われ、実際に転生の準備に入った事を理解した。
そして純白の光の中、やがて俺の意識は薄れていく。
……この時の安易な選択を、すぐに後悔するとも知らず。
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