第7話 調子にのってました
翌朝、優斗がギルドへ出向くと既にカエサルの姿があった。
今日は共にクエストに出る事もあってか、彼はいつもの白衣姿ではなく冒険者の服装に身を包んでいた。
白いシャツと黒いズボンに膝下までのロングブーツを履き、そして、黒いスタンドカラーのロングジャケットを羽織り腰に剣を携えたその出で立ちは、彼の持つ知的なイメージによく似合っている。
(ヤバい……めちゃくちゃ格好いいじゃん……)
初めて見るカエサルの冒険者姿を見た瞬間、優斗は思わず息を吞んだ。
普段の白衣姿とはまた違った魅力があり、それが余計に優斗を魅了したのだ。
(ホント、何着ても似合うよな……)
そんな事を考えつつ彼に見惚れていると、カエサルはこちらに気付いたようで、いつもの穏やかな笑みを優斗に向けた。
「おはよう、ユウト」
「おはざっす、カエサルさん」
(やばいな……なんか緊張してきたかも)
普段よりも数段凛々しいカエサルの姿と、その眩しい微笑みに、優斗は柄にもなくドキドキしてしまったが、それを表に出すことはしなかった。
(平常心だ……平常心を保て……いつも通り接すればいいんだ……頑張れ俺っ!!)
自分にそう言い聞かせて気持ちを落ち着かせながら、努めて平静を装っていた。
そんな優斗の様子に気付く様子もなく、カエサルはいつもの様に穏やかな微笑みを見せている。
「それでは行こうか?」
「うっす!」
優斗は元気よく返事をすると、カエサルと共に、依頼のあったクシュール家へ赴くべくギルドを後にした。
隣町にあるクシュール家までは少々距離がある為、二人は馬車を使って移動する事にしたのだが……。
経費節減の為に少し小ぶりな馬車にしたのが間違いだったかもしれない――狭い車内に向かい合って座るとお互いの膝頭が触れ合ってしまいそうだった。
そんな中でも向かいに座るカエサルは涼しい顔のまま、窓枠に頬杖をついて流れる景色を眺めている。
その様子を見て、優斗は何故か少し悔しくなってしまった。
(くそぉ~!余裕綽々って感じだな……!こうなったら絶対に動揺させてやるぜっ!)
そんな決意を固めつつ、優斗は何気ない風を装って彼の膝の間へ自分の膝を割り込ませた。
その瞬間、カエサルの表情が僅かに強張るのを見て内心ほくそ笑む。
(よしっ!手応えありっ!)
そのまま更に優斗は自身の足でカエサルの足を撫で上げるように動かしてみた。
すると微かに、外に向けられているカエサルの瞳が戸惑うように揺れたのが分かった。
(おっ?もしかしてちょっと感じちゃったとか?)
そんな期待を込めて彼を見上げると、視線だけ動かしてこちらを見るカエサルと目が合う――その瞳は明らかに『やめろ』と訴えかけていた。
だが、優斗の悪戯心はその程度で抑えられるようなものではなかった――むしろ火が点いてしまったのだ。
優斗はチラリと前方の御者に目を遣り、こちらに気付いていない事を確認すると、今度はそっと手を伸ばして彼の太ももの内側を撫で上げた。
途端にピクリと反応するカエサル。
(あ、かわいい……)
その反応に気を良くした優斗はつい調子に乗ってしまった――そのままカエサルの内もも沿いに手を這わせて行き、たどり着いたその場所を指先でツイとなぞり上げる。
すると今度ははっきりと分かる程にカエサルの体がビクッと跳ねた。
(ふふっ♪どうだ?これなら流石に――!?)
そう思った矢先だった――突然カエサルの手が伸びて来て優斗の手を掴み引き剥がしたと思うと、ギュッ握り返してきたのだ。
(――えっ!?)
驚いて視線を上げた優斗の目の前には、いつの間にかこちらに向き直っているカエサルの端正な顔が間近に迫って来ていて……。
(あ……キス、かな……?)
優斗の心は期待に高鳴った――しかし、カエサルは唇が触れ合うまであと僅かというところでピタリと止まったかと思うと、静かに、だが確実に怒気を孕んだ声で告げる。
「……あまり調子に乗るなよ?」
(ひえっ……こわっ!!)
その瞬間、優斗の身体は固まりザアッと一気に血の気が引いていくのを感じた。
「す、すんません!ちょーしこきましたぁあぁ!!」
謝罪の言葉を叫びながら優斗は慌ててカエサルから飛び退くと、自分の膝頭に額をぶつける勢いで深々と頭を下げた。
「まったく……」
カエサルは呆れたように溜め息を吐くと、そのまま何事もなかったかのように再び窓の外へと視線を移してしまった。
(やべぇ……本気で怒らせちまったかな……!?)
つい、調子にのってしまった自身の行いに後悔しながら頭を掻きむしる。
(あぁもうっ!俺の馬鹿野郎ぉぉっ!!)
心の中で自分自身を罵倒しながら小さく縮こまる優斗だったが、その時頭上からクスリと笑い声が聞こえてきた。
驚いて顔を上げると、そこには笑みを浮かべたカエサルの姿があり、彼は優しく諭すような口調で注意してきた。
「あまり悪ふざけをするんじゃないぞ?」
「うっ……すんません……」
素直に謝ると、カエサルは再びフッと笑みを零してから優斗の頭をポンポンと軽く叩き、立ち上がった。
それと同時に馬車はゆっくりと速度を落として行き、大きな門の前で停車した。
「さあ、行こうか」と、いつもの調子で言うカエサルの様子から、彼が本気で怒ったわけではないと知り、安堵すると同時に、どこか残念にも思う優斗だった。
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