第2話 状況整理

「それではアイリスさん。自己紹介をお願いします。」という先生の一声で何故か自己紹介することになった。さっきの話しぶりからして皆私のこと知ってるんだよね?

それに私ここのクラスメイトじゃなかったの?

けど仕方がないから促されるまま教卓の横に立つ。

「初めまして。照間てらまアイリスと言います。よろしくお願いします。」

私は戸惑いながらあいさつした。皆じっと私の顔を見るから変に緊張してしまった。それにしても魔法少女なんて本当にいるんだろうか。それに私は勇者の一人って言ってたから少なくともあと一人は勇者がいるんだよね。

私はあいさつを終えると自分の席に戻る。何か変な気分になるな。

ふと掛け時計を見るとまだ朝の9時半だった。はあ疲れたからお腹すいた。


私はとりあえず今の状況を整理してみようと思う。

まず私は普通の女子高校生だったはず。なのに突然魔法少女とか勇者だとか言われた。それにMーシステムとか知らない単語も聞こえた。私は教室で居眠りしていて、それで・・・。目が覚めたら変な状況に。まるで世界の設定だけが書き換わったみたいな。周りのクラスメイトも先生も見覚えがある。なのにどういうこと?

先生は相変わらず授業を続けている。自分の机を見ると世界史の教科書が開かれている。でも私の頭には全く情報が入ってこなかった。インパクトのあるワードに引っ張られて何も考えられなかった。


四時間目が終わりお昼ご飯の時間。私のカバンには弁当箱が入っていた。居眠りから目覚めてから頭がぼーっとしている。現実と夢の境が曖昧になっているような感じだ。この弁当は自分で作ったんだろうか。弁当のから揚げを一口食べる。冷めてるけどおいしい。

頭の中がもやもやしてても味覚はしっかりしてるんだな。

あ、今一人で食事をしてるってことは私、友達いないんだっけ。


そのまま時間が過ぎ下校時間になった。帰りのホームルームでの先生の話も頭に入ってこなかった。別に変な話はしてなかったはずなのに。

教室を出て下駄箱に向かう。教室でも廊下でもわいわいお喋りしてる人はいるのに、私には誰も声を掛けてこないんだな。

靴を履き替えて外に出る。空は灰色の雲に覆われている。どこに帰ればいいか覚えてないけど足は勝手に進む。歩いていたら地面が点々と濡れてきた。私は雨を避けるように陸橋りっきょうの下に入った。

足元には拾ってくださいと書かれたダンボール箱に黒猫が入っていた。今時こんなのあるんだ。私はかがんで猫の目を見る。すると猫はゆっくり瞬きしてきたので私もそれに倣ってゆっくり瞬きした。

猫が口を開けたのでにゃーというのかと思っていたら、「君、今とまどってるんでしょ。」と話しかけてきた。

びっくりして後ずさる。「そんなに驚かないでよ。」

猫は笑顔でしゃべる。そういえば不思議の国のアリスに似たようなしゃべる猫いたっけ。とどうでもいいことを考えてしまった。

しゃべる猫はめげずに話しかけてくる。

「君さ。知りたいことたくさんあるんじゃないの?」

「・・・それは、あるけど。そもそもあなたは何なの?」

「僕はねー。君のことが好きなんだよね。」

知りたいことがあるかと訊かれたから質問したら話を逸らされた。自然とむっとした顔になる。腹が立つ。ただでさえいらいらしてるのに。

「まあまあ、そんな怒らないでよ。君はね勇者に選ばれたんだよ。勇者がすることは決まってる。世界を救うことだよ。」

「私が、救う? 訳が分からない。それに何から救うのよ。」

「何からって。悪に決まってるでしょ。悪を排除して世界を綺麗にするんだよ。」

「・・・。」

会話をしてるのにまるで手ごたえがない感じ。空気と話してるみたいだ。この猫は私を馬鹿にしているんだろうか。私がにらみつけていると。

「まあ、また話したくなったら会いに来てよ。」

そう言われたので私は立ち上がりどこかに歩き出した。いつの間にか雨は上がっていた。


着いたのは照間の表札がある一軒家。自然にカバンから鍵を出し家に入る。ただいまーと言うとおかえりーと返事があった。

出迎えてくれたのは金髪で髭のある若そうな男性。おそらく父親だと思う。彼は「雨、大丈夫だったか?」と心配してくれる。私が「うん。大丈夫。」と返すとそっかと安心したように書斎に入っていった。中をのぞくとパソコンを触っている。職業は文字書き、投資、エンジニアあたりだろうか。

居間の隣には和室があって奥に仏壇がおいてあった。そこには白髪の女性の写真。そうだ私のお母さん、私を産んですぐに亡くなったんだった。

自然とそこに足が向かい仏壇の前で正座して手を合わせる。そして洗面所で手を洗った後二階の自分の部屋に向かった。

カバンを置いてからベッドに腰掛けそのまま仰向けに倒れこむ。

ふうー。今日は一体何だったんだろう。私の記憶の方がおかしくなったんだろうか。知ってるはずの記憶が曖昧になっていて、知らない記憶がそれを押しのけようとしている。誰か別の人間が私の中に入ってきてるような。でもそんなことありえないか。

・・・いや。ありえないことなら今日いくつか出会っているではないか。魔法少女、Mーシステム。勇者にしゃべる猫。うーん。あ、そっか。

私はスマートフォンを取り出し調べてみることにした。まずは「魔法少女」っと。検索。

一番上に出てきたのは「魔法少女は世界を陰で支えるヒーロー」というサイトだった。クリックしてみると、ふむふむなるほど。要約すると魔法少女は少女に宿るという奇跡の力、輝力を用いて変身する。その変身はMーキューブに輝力を籠めることで成される。彼女らは悪と戦っているが一般人の我々には詳しいことはわからない、神秘的な存在。

ということだった。その後もしばらく検索したが結局よくわからなかった。

学校の人なら何かしっているかもしれない。そう思ってSNSをひらくと何人かの連絡先があった。とりあえず一番上に表示されている「秋雨美咲あきさめみさき」という人物にメッセージを送ってみる。

「いきなりですみません。お訊きしたいことがありまして。魔法少女が何かご存じありませんか?」

するとすぐに既読がついた。数分待っていると、

「本当にいきなりですね。同じ学校の人ですか? 申し訳ないけど私もよくわかってないの。ごめんなさい。」

と返信がきた。そっかそもそも同じ学校の人かわからないのに見切り発車で送信してしまった。でもこの感じだと同じ学校の人のようだ。

私もよくわからないか。どういうことだろう。あの時他のクラスメイトや先生は何か知っている風だったのに。秋雨さんは例外なんだろうか。こうなったら他の人にも連絡してみよう。

夢見ゆめみみるくさん、急にごめんなさい。魔法少女について何か知りませんか?」

「え、誰なの? ・・・私もわかんないの。」

やっぱりだめか。次だ。

薔薇園紫音ばらぞのしおんさん。急ですみません。あなたももしかして戸惑ってたりしますか?」

「はあ、何? 何で教えてあげないといけないの。」

何か知っていそうだ。ここは押してみよう

「そこをなんとかお願いします。本当に困っているんです。」

「・・・はあ。私は元々魔法少女だったのよ。それが気づいたら知らない場所に。多分この世界に飛ばされてきたんでしょうよ。」

「ありがとうございました。」

元々魔法少女だった?それにこの世界に飛ばされてきた・・・。最後の人にも一応連絡しよう。

火暗明穂ひくらしあきほさん。もしかしてあなたも元々魔法少女だったりするんですか?」

「ああ? そうだよ! ということはお前もそうなのか。いやー私たち選ばれしものってことだよな!」

「すみません。私実はよくわかっていないんです。これはどういう状況なんでしょうか?」

「うん? わかってるんじゃないのか。私も詳しいことはわからないけど・・・。うーん。この世界の英雄に選ばれたってことじゃないのか?」

もう少し詳しく訊きたい。

「選ばれたとはどういうことでしょうか。」

「質問ばっかりだな。こういうのはな。私たちに世界を救えっていうことなんだよ。お決まりのやつだよな!」

「ありがとうございました。」


話した感じでは火暗さんが一番理解していそうだけど。何か嫌な予感がする。とんでもないことに巻き込まれているような。

とにかく明日学校で先生に尋ねてみよう。そう思ったら急に眠くなってきた。


『ウル、行くよ! コメット・チェンジ!』

「何これ、何の記憶? ・・・そっかこれ夢だった。」

『よーし今回も気合いれていくぞー! とうぅ! ジャーんプ、そしてパンチ!』

「大きな熊と戦っている。変な夢だなこれ。」

『くうー。意外としぶといなー。こうなったら思いっきりキーック!』

「あ、熊が倒れた。このままとどめかな。」

『やあまた会ったね。少しは思い出したかな?』

「え、急に場面が変わった。あの猫が話しかけてきてる。別に思い出してないけど。」

『そっかー。まあそうだよね。君の場合星ごとだもんね。そりゃしょうがない。』

「何のことだろう。私なんかしたっけ。」


「おーいアイリス。ご飯できたぞー!」と一階から声がする。私は目をこすりながら体を起こす。何か変な夢をみたような気がする。思い出したいけど一瞬で忘れてしまった。

ぐうう。お腹も空いているので素直に階段を下りる。一回顔洗ってこよっと。

「眠そうだな。疲れてたのか?」

「う、うん。そんなとこ。」

顔を洗うと食卓に着く。テーブルにはメインディッシュにデミグラスハンバーグ。添え物にざく切りレタス。白ご飯としめじの味噌汁。おいしそう。

「これお父さんが作ったの?」

「ん? ああそうだよ。何だアイリス。またお父さんがさぼったと思ったのか?」

「いやそういうわけじゃなくて。何でもない。いつもありがとうね。」

「お、おう。何か照れるな。」

そっか。いつもお父さんが作ってくれてるんだ。なら感謝しないとな。味は濃いめだったけど普通においしかった。

「ごちそうさま」と食事を終えて食器を洗う。私これからどうすればいいんだろう。お父さんに相談するべきかな。でもこんなこと言ったら困らせてしまうかな。・・・まあ今日はとりあえず寝て明日の自分に任せよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る