第7話 秋の記録会
秋の記録会。残暑厳しく熱中症にも気をつけつつのレースが執り行われる。
二百メートルは参加者の人数によって一レースのみだった。本間泰浩はユニフォームを脱ぎ、汗を拭いてからティシャツを着た。バッグから塗り薬を取り出して右の太腿の裏にこすりつけた。痙攣していたそこが治まった。
レース前から違和感はあった。棄権するわけにはいかない。そんな思いでスタートした。心配だったスタートがあまりにも順調すぎて、コーナーでスピードが出過ぎたせいか第四コーナーを出るか出ないかの所で痛みが走った。ああ、これでは楽しく走れない。せっかく風を泳ぐように駆けたコーナーなのに、それでも、だからこそ残りの直線、風が巻いて息が一つ不自然に浅くなった。痛みは痺れのままでいる。これなら速さになれたままゴールができる。後五十メートルか、何かもったいない気もするが、走れたのだからそれでいい、ああ、やっぱり走るのは爽やかだ。ゴール直後、太ももの痙攣が始まった。引きずって、屈伸をして痙攣は微弱になった。腰ゼッケンを返して、スタート地点に荷物を取りに行く。バッグを担いでスタンドへ行こう。そこで小休止だ。
軟膏を塗った太腿を擦って、それからズボンを履いた。スポーツドリンクを飲む。肉離れかもしれない。明日にでも病院に行くか。アップが足りなかったろうか。いや、この暑さだ、十分したはずだ。こういうことも起こるんだな。二百は長かった。けれども、やはりちょうどいい長さかもしれない。もっと早く参加しておくんだった。来年。そうだな、大学……。
そんなとりとめのないことを本間泰浩はスポーツドリンクを飲み、一息つき、キャップをしめ、タオルで顔を覆いながら思っていた。その表情が緩んでいることを自分では気づかない様子で。
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