第6話 懐かしい顔
土曜日の昼過ぎだった。高校の部活動が一段落をして賑わいが嘘のような静けさになったころ、
「こんちは」
とざっくばらんに管理事務所のドアを開け、料金を差し出した若者が来た。
「おう、久しぶり」
「ちょっと練習に来ました」
彼はもう大学三年生になっていると言う。この前来たのはやはり一年前くらいだったか。大学でも陸上競技のサークルに入っていると言う。彼が高校生の頃、個人利用で来たことはなかった。が、部活動中に何度となく話す機会があったため、顔も名前も覚えていた。なにせ、元気な性格なのだ。目立つなという方が無理な話で、下手をしたら中学時代から個性的であったと言えなくもない。
「じゃ、よろしくお願いします」
利用票に記入をすると、そそくさと管理事務所を出て行った。中学時代から今はもう大学、それも三年。つまりは七年がある。七年。ただただ職務のために通勤で行ったり来たりしていたことを思い出した。それでも七年が経っているのだ。小学に入学したら卒業している。その年数。声変りをする生徒もいるだろう、身長ばかりでなく体格がすっかり変わる生徒もいるだろう。そんな年数。自分には一体何があったろうか。取り立てて何もない。声が変わることもなければ、身長が伸びることもない。あえて言うなら体重が簡単に増えるようになったくらいだ。健康のために体重計に日々乗って観察し、食事量を変えたり、汗を流したりして、急激に体重が増えないように、増えたら減らすようにするくらいだ。そんなことで費やされる時間。今来た彼も前よりも体格がよりがっしりしたように見える。そういえば、手にしていたのは自動車のキーだ。免許を取ったのか。自分はどうだろうか。
走り出した彼を窓際から見つめて頭を撫でた。ふとその瞬間変化があったことに気づいた。白髪が増えた。竹井はなんだか居心地が悪くなってすぐに自席に座った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます