第17話 東京に行くぞ!

 翌日は日曜日だったが、坂崎から身体を休めると連絡が入り、玲花はぽつんと取り残されてしまったような錯覚に陥った。これまでも休日の度に会っていたかというとそうではないのに、何故か今日も会えると思い込んでいたからだ。


 両思いだと分かっても、恋人同士になったかというとそうでもない。しかし面白いもの探しを続けてくれるという以前からの約束はある。その約束が守られるのであれば、一生関係は続くのではないかと思ってしまう。


 一生は言い過ぎか。


 寂しい中、玲花は苦笑する。


〔今、大丈夫?〕


 坂崎からメッセージが入り、胸が躍る。


〔どうしたの?〕


〔音声通話していい?〕


〔もちろん〕


 クウガのアイコンが現れる。


『ごめん、音声通話して』


「ううん。センパイの声が聞けるから嬉しいです」


『嬉しいな。こういう感情を萌えるっていうんだろうな』


 玲花は笑う。


「私に萌えてくれるんですね」


『こ、恋人の言葉に、萌えても、いいよね』


 センパイの声は挙動不審さにあふれていた。


「恋人の言葉に萌えても、無罪です」


『許されたらしい』


 坂崎は安堵した声で言った。恋人同士になったのだと彼も確認したかったのだろう。玲花ももちろんこれで安心できた。


「ビデオ通話が良かったな」


『それはダメ。部屋、片付いていないし』


「じゃあ今度までに片付けておいてね」


『その前に話があって』


 ああ、と玲花は思う。


「入院?」


 昨日、彼は8月になったら入院するという話をしていた。


『うん。昨日の話を東京の病院に連絡しておいたら検査で早く入ることになった。手術も前倒しになりそう』


「そうなんだ」


『手術自体に命の危険はないよ。内視鏡手術だし、身体に負担が少ないから退院も早い。すぐ戻ってこられるから』


 玲花は考える。


「東京、行きたい」


『夏期講習をさぼっちゃダメだよ』


「うう」


 優等生の泣き所である。サボるという選択肢はない。


『僕も、入院しても可能な限りオンラインで受講するし』


「その手があった。上京する電車の中でオンライン受講だ」


『ないなー』


「うん、ないわ。でも、何か手があるはず。考える」


『いや、正直、わざわざ僕のために上京しなくてもいいよ』


「違うよ。私が、クウガ先輩に会いたいんだよ」


『くうう。僕の彼女、どうしてこんなにかわいい』


 彼女と言ってもらえたことが壮大に嬉しい。玲花の脳内で花火が上がる。


『でも、僕は来て欲しくないかな』


「どうしてそんなこと言うの?」


『やつれている僕を見られたくない』


「――そう、なの?」


『元気になって帰ってくるから待っていてくれる?』


「すぐには答えられないよ」


 恋人同士になったばかりで一番盛り上がるときに会えないなんて玲花には考えられない。確かに自分は恋愛脳なのかもしれない。


『そうだね……そう思うよね。本当は僕も会いたいよ』


 その台詞から考えられるのは、彼にまた発作が起きたということだ。そしてこれからも起きるのかも知れない。だから入院が早まったのだろう。何度も発作が起きれば、体力を消耗する。外からはやつれたように見えるだろう。彼は病状の悪化を恐れているのだ。


「わかった。身体を治すのに専念して。でも、連絡はくれるよね」


『今は病院でもスマホは使えるから大丈夫だよ』


「必ず返事してね」


『うん』


「返事がなかったら東京まで押しかけるから」


『はは。嬉しいけど、怖いな』


 現実になるかも知れないと彼も思っているのだろう。


「好き」


『僕も好きだよ』


 その言葉が心の奥まで染み入る。


 初めての恋人からの、愛の言葉だ。甘い。


 その後も少し話をして、音声通話を切った。


 不安と希望が同居する中、玲花はフウとため息をつく。


 自分がどうすればいいのか、分からない。人生経験が少ないことが、こんなに恨めしく思うこともなかった。


 ただ、今は彼が連絡を欠かさないという約束を信じて、待つしかなかった。




 翌朝、玲花は夏期講習を受けるために登校する。


 そして自転車置き場に坂崎の自転車を見つけ、登校してきたのかと胸を躍らせたが、冷静に考えると土曜日に直接、彼の家に送り届けたから、まだ置きっぱなしなのだと考えられ、落胆した。


 2年生の特進クラスをのぞき込んでも彼の姿はなかった。


 しかし1年生の教室に戻る前に玲花は声をかけられた。


「上泉さん、時間あるかな」


「太田先輩」


 自称、坂崎の元カノ、先代の図書室の仙人の太田先輩だった。夏服の太田先輩はスタイルの良さが際立っていて、白いブラウスのボタンがはち切れて胸が飛び出しそうだった。


 玲花が時計を見ると夏期講習が始まるまで、まだ20分あった。


「はい」


 玲花は小さく頷いた。


 2人は、夏休みには使われない特別教室棟の階段の踊り場まで足を伸ばした。


「おめでとう。付き合うことになったんですって?」


 太田先輩は開口一番そう言い、少し寂しそうに微笑み、玲花を見つめた。 


「センパイから報告があったんですね」


「話が早い。彼としては義理を通したつもりなんでしょうね」


「義理、ですか?」


「自分から告白しておいて、付き合えないって、告白をすぐに撤回した後輩としては、それでも新しく恋人を作ったのなら、報告すべきだと思ったんじゃないかな」


 玲花が想像していたのとはだいぶ違った。付き合って、うまく行かなくて別れたのだと思い込んでいた。


「――太田先輩は告白を受け入れたんですね」


「返事する余裕がないくらい、すぐに撤回されるまで、ほんの一瞬だけ、『彼女』だったって私は思ってる。夕日桟橋で夕日の中で――忘れられないよ」


 それで彼は友達以上、恋人未満と言い直していたのかと、玲花は思い至る。そしてそれで行こうと思い立ったのが夕日桟橋だったのかと分かってショックだった。しかし彼は、結局、自分とは一緒に行かなかった。今ならその理由も分かる。過去を振り返っても仕方がないし、太田先輩との関係を説明してもそれはエゴだと思ったのだろう。しかし分からないことがある。 


「告白を撤回したのは――」


「私は彼の身体のことを知っていたからだと思う。私の恋愛感情には半分以上、同情が入っていたって今なら、分かる。あなたが彼女になったと知っても、そんなにショックじゃないから。ううん。心から祝福できるよ。本当の恋人同士だもの。私は先入観があって、そういう関係には最初からなれなかったんだと思う」


「だから、私には、身体のことを何も言わなかったんだ」


 だけどそれが、彼の身体を酷使させ、病状を悪化させてしまったことにつながると思うと、やるせない。


「あなたの感情は同情の余地なく100%恋愛感情でしょう。だから、彼も本当に自分のことを好いてくれていると考えて踏み込んだのね」


「さすが先代の仙人先輩ですね。分析すごい」


 玲花はうなる。


「初代と比べたらどうってことないの。私、初代の助手だったんだけど、彼女は本物の安楽椅子探偵アームチェア・ディテクティブだったから」


「初代さん、女性だったんですね」


「2代目からヨロズ相談事屋だけどね。3代目の仕事も手伝ってくれていたんでしょう? 4代目」


「うわあ、もう指名されてしまった!」


「3代目に彼を指名したのは他に適切な人材がいなかったからだけど、大分、彼の身体の調子も良くなっていたからいいかなと思ったんだよね。1年生のときはよく発作が起きていたの。今も心配はしていたんだ」


「そうなんですね」


「頭がいい子だけど、無理もするから、支えてあげてね。言いたかったのはこのこと」


 太田先輩は微笑んだ。祝福してくれるという言葉に嘘は感じられない。


「はい――ありがとうございます。おっぱいが大きい人にもいい人はいるんですね」


「なんでそんなに巨乳を敵認定するし? ああ、そうだった。連絡先、教えておくね。これは彼の依頼だから。先代仙人のお仕事、かな。何かあったら、連絡頂戴ね」


 そして太田先輩は連絡先のIDが書かれたメモをくれた。


 もう、夏期講習が始まる時間だった。


 2人はそれぞれの教室に戻り、玲花は自分の席で考える。


 自分はセンパイを支えてあげられるだろうか。


 センパイが自分を支えてくれていたのではないか。


 そして少しだけ悩んで、玲花は頭を夏期講習に切り替えた。




 昨日の話だと、早ければ今日にでも東京の病院に入院できるということだった。


 玲花はメッセージを入れたが、午前中には返事はおろか既読もつかなかった。


 午後の遅い時間に既読がつき、少ししてメッセージが入った。


〔無事、入院した。いきなり検査の連続でスマホを見られなかった〕


 それを見ただけで玲花は幸せな気持ちになれた。


〔既読がついただけで安心したよ〕


〔ご飯食べた?〕


〔うん〕


〔今は病院食も美味しいんだ。昔のことを思えば、すごく良くなった〕


 そういえば何度も入退院を繰り返していたと彼は言っていた。


〔クウガ先輩、好き嫌いなさそうなのに〕


〔美味しくないものは美味しくないよ〕


〔私の手料理にもそう言っちゃう?〕


〔度が過ぎたら〕


〔頑張るわ〕


〔別に僕も作るし〕


 なんか新婚っぽい話になってきた。玲花は焦る。


〔あ、キャンプとかで食べて貰う機会があったらだからね〕


〔別にお弁当でも図書準備室で簡単なものでも〕


〔カセットガス1台だと作れるものは限られてしまうけどね〕


 そうだ。そうだった。意識しすぎだ、自分。


〔キャンプ、行く機会あるかなあ〕


〔さすがに2人では無理だろうね。高見沢くんを誘うか〕


〔玲那姉も一緒に? それは玲那姉、喜びそう〕


 東京と館山で、2人は直線距離でも80キロ離れているとは思えない近さだ。昔の恋人たちとは違う。遠距離恋愛もスマホ越しで苦もなく続けられるに違いない。


〔ごめんね、疲れた〕


〔おやすみなさい。聞き分けのいい彼女でいたい〕


〔ありがとう〕


〔元気になったらわがまま言うから〕


〔遠慮なくいってね〕


〔うん〕


 嬉しかった。


 明日の朝は〔おはよう〕を入れよう。なんか、彼女っぽい行動だ。


 玲花はニヤニヤが止まらないまま、スマホの画面を見続けたのだった。



 翌朝、おはようのメッセージを入れた。


 既読がなかなかつかず、まだ寝ているのかなと思った。


 しかし夏期講習が終わって確認すると既読はついたが、返事はなかった。また検査の連続なのかな、と心配しつつ玲花は夜を待った。夜まで検査はないだろうから、返事をくれるはずだと信じた。起きている間、スマホを手元に置いて連絡を待ったが、坂崎からの返事はなかった。翌日の、水曜日の朝も返事はなかった。


 追ってメッセージを入れたくて仕方がなかったが、なんかそれは雰囲気が悪くなりそうで、イヤだった。


 どうしようもなく、落ち着かなかった。


「そうだった。返事がなかったら東京に押しかけると宣言したんだった」


 玲花は有言実行しようと決意する。スマホを使えないくらい、坂崎の容態はよくないのかも知れない。面会謝絶なのかもしれない。もちろんずっと検査があるのかも知れないし、スマホが故障しただけかも知れない。それでも少しでも彼の近くに行きたい。そうしないと何も手につきそうにない。


 玲花は決意するとすぐに太田先輩に連絡をいれた。何せ、坂崎が入院している病院も知らない。手がかりがあるとすれば坂崎と付き合いの長い彼女だけだ。


〔想定内だよ。ここね~〕


 太田先輩からは3分も経たないうちにリンクが張られた返事がきた。リンク先の病院は東京の文京区にある大学病院だった。本当に彼女にとっては想定内だったらしい。手のひらの上で転がされている気がしなくもないが、甘んじようと思う。


 行くなら朝一番の高速バス。夏期講習前に東京に到着する。どこかのカフェでオンライン受講して、午後、面会可能時間になったら突撃だ。彼の病室は分からないし、容態も分からないが、どうとでもしてみせようと思う。


 朝食時、母の南に全てを打ち明けて相談すると、少し困った顔をしたが、すぐにアドバイスがあった。


「弾丸往復なんて疲れちゃうから、お泊まりにしたら? 東京にはちょっと心当たりあるのよね」


 南は悪戯っぽく笑った。母がこういう風に含みがある笑みを浮かべるときは当然、何かあるのだが、保護者の方からお泊まりと言ってくれるのだから是非受け入れたい。1日で解決する保証はないのだ。


 南がスマホで連絡を入れるとすぐにピコンと音が鳴った。返事があったようだ。

「先方は快く受け入れてくれたよ。他人様のお宅だから、きちんと何か手土産を持って行きなさい。住所はメッセージで入れておくから」


 南は少しホッとした顔をした。


「しかし玲花ちゃんに彼氏かあ。感慨深いなあ」


「こんなことでもなければ言わなかった」


「当然よね〜。でも、最近、とっても楽しそうだからそうだろうなとは思っていたのよ」


「バレバレだよね。T20号に乗っておでかけするんだもん」


「いやいや、それは女の子の可能性もあるじゃない」


「そうか」


「写真見せて~」


 ここは断れる流れではない。先日の展望台での記念写真を見せる。


「ま、お揃いの帽子とウィンドブレーカー。先輩って言っていたのに、童顔ね。どっちが先輩かわからない。かわいい」


 坂崎をかわいいと言われて何故か嬉しく思う自分がいた。玲花はもっとセンパイを自慢したくなる。


「これでも2年生の特進クラスで成績2位なんです」


「そうなんだ。将来有望ね」 


「で、私がやっかいになるお宅って? 父上のお仲間とか? 東京だと京王閣か。だとすると多摩方面が拠点だよね。文京区には遠くない?」


 父の競輪仲間だとすると都心からは結構離れて不便だ。


「ううん。根津よ。便利でしょう」


「文京区だ。大学病院まで歩けるね」


「優海さんの実家だけど」


「えぇ……それは本当に本当の他人の家じゃん」


「里子のお嫁さんの実家で、師匠の娘が泊まりにいく――見事に他人ね」


 南がおかしそうにしているのも当然だ。かつての恋敵の実家とは想像の範囲外にもほどがある。しかしここは母の意向に沿わなければ東京行きそのものが破綻する。


「りょ、了解いたしました」


「よろしい。先方はいつでもいいということだけど、今日の今日はさすがに、常識的にやめておいた方がいいから、明日ね」


 南は満足げに微笑んだ。


 朝食が終わっても坂崎からの返事はなかった。


 もう覚悟を決めて準備するしかなかった。


 まず明日の朝一番の長距離バスの予約を入れる。朝5時発で7時には着く。根津までは電車で30分かからない。佐野倉の家まで根津駅から徒歩5分だ。家の人に挨拶をしてもオンライン受講に間に合う。


 タブレットでオンライン受講の申請を忘れずにして、登校の準備だ。お土産とお泊まりの準備は帰ってきてからだ。


 玲那姉に共用のロードバイクを1日使うと断りをいれて、登校。受講を終えた後、山の中のカフェに行って、手土産用のいちじくのジャムとビワを購入する。そして遠征用の大きなダッフルバッグに着替えを詰める。根津にも連絡を入れて貰い、午前中の早い時間に到着し、オンライン受講する旨を伝えた。


 明日の準備が終わる頃にはもう午後5時を回っていた。


 室内練習を終えた俊がリビングに戻ってきて玲花に声をかけた。


「坂崎先輩と付き合い始めたと聞きました」


「う、うん」


 俊から言われることは見当がついている。


「これまで付き合っていないとは夢にも思っていませんでした。校内一有名で、校内一偏差値が高いカップルなのに」


「だよね。あ、偏差値関係ないから」


「ゆっくり、自分たちのペースで進んでいくのでいいと思いますよ」


「それ、自分たちのこと? ごめん。ちょっと意地悪だった?」


「意地悪ですねぇ。えーっと、羨ましいです。だから、坂崎先輩とはちょっと話しただけですけど、しっかり捕まえてきてあげてください」


「?」


「坂崎先輩からは僕と同じ匂いがします。きっと物怖じしてしまうでしょうね。だから捕まえてあげてください」


「なんで? 誰に物怖じするの?」


「玲花さんも、玲那さんも、特別だからです。自分たちでは分からないでしょうけれど、本当に、とびきり、素敵ですから」


「それ、玲那姉に言ってあげなよ」


 玲花は自分に言われた気がしない。


「だから物怖じするんですってば」


「俊くんはさ、自分に自信がないんだね」


「お2人に比べたら誰でもそうです」


「そんなたいそうなものじゃないよ。私なんか、坂崎先輩が支えてくれなかったら、今も塞ぎ込んでいた。何が楽しいのか分からなかった。玲那姉がずっと楽しそうにしているのは俊くんがいるからだよ。それには妹の私が太鼓判を押す。だから自信をもって」


 俊は頷いた。


「インターハイ、頑張ってね」


「ええ」


 自転車競技のインターハイはもう目前に迫っていた。


「玲那さんの水着姿で元気貰いましたから」


「男の子だなあ」


「――2人とも、何話しているの?」


 玲那がリビングにやってきて、玲花と俊は苦笑する。


「私が東京に行くって話」


「さすが玲花、行動力あるよね。見習いたい」


「玲花姉も北海道、一緒に行けば?」


 今年のインターハイ自転車競技の会場は北海道だ。玲花は真っ赤になって俯いて、モジモジし始める。


「それは、さ、ほら、いろいろ、大義名分も必要だし」


「そ、そうですよ」


「はいはい」


 2人は心配なさそうだ。


 玲花はスマホを見る。坂崎からの連絡はまだなさそうだった。不安が玲花の頭をよぎる。もしかしたらセンパイは具合が悪いのではなく、自分に呆れたのかも知れない。拘束が強いと、重いと思って連絡をしにくいのかもしれない。太田先輩のように病気に同情をされたと思って、距離を取ろうとしているのかもしれない。


 考えれば切りがない。


 だから考えるのをやめて、東京に行くことだけを考えようと思う。


 夜は更け、ベッドの上で玲花はまんじりともせずスマホを見つめる。


 午後9時過ぎ、スマホがピコンと鳴った。


 坂崎からのメッセージだった。


〔急に24時間の心電図検査になって、連絡できなかったんだ。ごめん〕


 そんなことだろうと玲花は思っていたが、不安だったのは間違いない。その文字を見ただけでその不安が霧散するのが分かった。


〔ううん。想定内〕


〔そりゃ良かった〕


〔明日、東京に行くことになったから〕


〔ええっ?〕


 驚きを表現するスタンプ付きだ。


〔宣言してあったでしょう? 返事がなかったら東京に押しかけるって〕


〔大丈夫なの?〕


〔下準備はばっちりだから。太田先輩に入院している病院を聞いて、長距離バスの予約して、オンライン受講の申請して、宿のあてもあるし、手土産も用意したし、親も承認済み〕


〔なんてこった。行動力すごい〕


〔迷惑?〕


〔嬉しいよ〕


 その文字に玲花はジーンときた。感極まるあまり、センパイの目の前にいたら自分から彼にキスしているところだ。


〔せめて声が聞きたい〕


〔病室が4人部屋だから音声通話不可なんだ〕


〔残念。でも、明日、会えるから我慢するよ。いや、会えるよね。検査で忙しくないよね?〕


〔たぶん、大丈夫〕


〔よかったあ〕


 心から玲花はそう思う。


 明日は早いのでやりとりは早めに切り上げることにする。朝5時に長距離バスに乗らなければならないのだ。玲花は最後に伝える。


〔明日は直接、おやすみなさい、って言うから〕


〔楽しみにしているよ〕


 坂崎の返事が、スマホの画面上の文字でしかないのに、玲花は温かく感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る