新たな企画発表

第5話

 活動休止から三年が経った。あれから私は相変わらずブラブラしてゆっくりした時間を過ごしていたが、澪と陽葵は違った。


 まず澪だけど彼女のファンは根強くて、ソロになっても変わらず応援してくれているらしく、それに答えるかのようにあれだけ苦手だった作詞を学び一つのヒット曲を生み出した。

 そのおかげもあってか歌番組への露出が増え、たまにバラエティー番組で昔から可愛がってもらっていた方たちから弄られている。


 次に陽葵だけど最初の一年間はCiElの陽葵ってだけで抜擢されていた役が、今では春夏冬あきなし陽葵だから選ばれたと言われるくらい演技に磨きがかかっていた。彼女も先輩たちから可愛がられていて、舞台挨拶や番宣で仲良さそうにしている所を観てほっこりしている。


「やっぱりこっちは駄目だったね」


 今朝、Skyのオーディションで選ばれた子たちが数名事務所を辞めたと記事になっていた。その中にはあのライダー作品の主人公としてしばらくテレビに出ていた子や澪の親戚のグループ、そして何故かアクアマリンのメンバーの一人までもが含まれており、不仲説や不祥事など勝手な妄想があれこれSNSでは囁かれていた。


 彼らが今後どうするのか私には分からないけど、恐らくどこかの事務所に所属して活動を続ける人は続けると思う。



 ただ、その事務所を探すのが大変だけど。


「やっと来たか。久しぶりだな星宮」


「お久しぶりですマネージャー」


 彼が運転する車の後部座席に乗り込む。久しぶりに会った滝宮さんは三年程度では特に変わった様子はなかった。

 CiElのマネージャーとして動いていた彼は今、主に陽葵のマネージャーとして動いているらしい。


「なんかしばらく見ない間に更に美人になったな」


「そうですか? 自分では分からないんですけど。私からしたらテレビで活躍している二人の方が輝いて見えるので」


「そう。その二人なんだけどな。最近やっと口を利くようになったらしい。陽葵の交際相手が思いのほかクズだったと他の女優に教えてもらったみたいでな。泣きながら話し合いをして今はお前に対しての気まずさで連絡が取れないらしい」


 なるほど。だからあれだけ毎日来ていた二人からのメッセージが来なくなったんだ。SNSでは反応する癖にと思っていたんだけど、まさか仲直りして自分たちがどれだけ小さな事で喧嘩していたのか気づいちゃったわけね。


 当時は少し残念に思っていたけど、今ではゆっくりできたし感謝している部分もある。


「私はもう気にしていないって伝えてください。逆にゆっくりできてよかったと」


「ありがとう。伝えておくよ」


 突然マネージャーが連絡を寄越してきて、朝早くから彼の車で目的地も伝えられないまま移動している。何処に行くのか尋ねても秘密と嬉しそうに言いながら。


「そう言えば星宮。Skyを退社した四名について聞いたか?」


「ネットニュースで知りました。確かライダー作品に出ていた子と澪の親戚のグループと何故かアクアマリンから一人。アレってどう言う基準なんですか?」


「正直僕も分からん。だが社長が言うには思ったよりもSkyで伸びなかった子たちをクビにした可能性があると。どの子もここ三年で伸び悩んでいた子ばかりだからな」


「でもアクアマリンはまだ勢いは衰えていませんよね? そんなグループから一人いなくなってもいいんですか?」


 未だに彼女たちの歌唱力やダンスの実力はまだまだで、あのメンバーの中では退社した彼女が一番良かったはずなのに何故って声もあった。でも実力があってもセンターに最後までなれなかったみたいで、それを心待ちにしていたファンも中にはいたらしい。


 理由はどうであれ、今じゃなかったはずだ。


「それなんだよな。僕だったら引き留めるんだが彼女たちのマネージャーが空野だからな。人気が絶対の考えを持っているからな」


 人気のない子はいても意味がない、そういう考えを持っている人らしい。歌やダンス、トーク力など関係なく何においても人気が第一と考え、人気がなければクビを切るのがやり方だとか。


 グループ内では必ず人気にバラつきは出てくる。それは仕方のない事だし、それをどうにかしようと必死に頑張っても逆にファンが減ってしまう時だってある。



 ――と、マネージャーにそのまま伝えた。


「確かにそうだが、彼女はSkyの経営にも関わっているからな。必要経費を最小限にしたかったんだろう。出来たばかりの事務所な上にまだ所属している者も少ないからな。アクアマリンだけでは厳しい所もあるみたいだ」


「なるほど。じゃあもしかしたら化ける可能性も?」


「なくはない。――が、取り敢えず着いたぞ」


 そう言ってマネージャーが車を止めた場所には覚えがあった。


「ここって確かお祖父ちゃんが持ってる別荘ですよね?」


 私たちがまだデビューする前、色んな専門の先生や先輩からビシバシ鍛えられた場であり私たちのトラウマであるこの別荘は、今日まで近寄ることができなかった。

 どれだけ泣いても逃げても捕まって出来るまで何度も挑戦させられ、ここまで成長できた場所。


 ちなみに私たちを毎回確保していたのは滝宮マネージャーだった。


「しかもあの車ってお父さんの車だよね?」


「ああ。今日ここに星宮を呼んだのは社長だからな。もうしばらく休むなら一つ仕事を頼まれてくれって」


「それって休みじゃないじゃないですか」


 休むなら仕事を頼まれてくれって。矛盾しまくっている。


「まぁまぁ。三年も休んで今やる事がないって聞いたからな。社長も怠けているよりはいいと思ったんだろ」


 確かに三年も休んでやりたかったことも出来て、今は家で怠けている事しかできないけどそれも立派な休みだから。ここに来ている時点で誰かのレッスンに付き合えとか、休みの間に衰えた物を取り戻せとかそんな所だとは思っているけど、あっちに置いてある大きな荷物と車が気になる。


 あれってCiElが移動で使っていた車と一緒だよね。ナンバーも同じだし。


「アレが気になるか? しばらく使わないからお前たちが復帰するまではここで使うらしい」


「ここでって?」


「実際に目にした方が早いだろ。取り敢えず中に入るぞ」


 そう言ってマネージャーの後ろを歩いて別荘へと入った。相変わらず昔と変わらない香りと雰囲気を持ち合わせているお祖父ちゃんの別荘は玄関からこだわっており、その広すぎる玄関に数名の靴が並んでいる。


 一つはお父さんの物だと分かったけど、残り四足の靴は誰の物か分からない。


「リビングで待っているはずだ」


 一階のリビング。そこはシンプルな造りでテレビも何もない、ソファーとテーブルとラグが敷かれているだけの部屋。キッチンはアイランドキッチンで、大きな冷蔵庫と必要なのか分からないくらい大きくて沢山の収納棚がある。


 そんなシンプルな部屋に居たのはお父さんと四名の若い男女。


「あ。ライダー俳優だ」


 大きなソファーに腰かけていたのは、あまり良い評価を貰えなかった代のライダー俳優。アクアマリンと同じ会社だから抜擢されたとまで言われていた彼がそこにはいた。


「ほ、星宮七海?! 嘘だろっ! 本物?」


「星宮七海、さんだろ?」


「あ。すみません」


 マネージャーが注意すると彼は頭を下げた。


「気にしないで。よくあることだから。次から気をつけてもらえれば」


 上下関係はしっかりしないと後々面倒になる、と私に教えてくれたのは澪だった。


 誰に対しても呼び方や接し方に注意をしなかった私に、アンタは今人気急上昇中のCiElのメンバーで、私たちの中では一番の人気株。上には礼儀を、下には思いやりを持って接しなければならない。八方美人では上に嫌われ下に都合のいい存在だと思われてしまうからって。


「それで、これはどう言うことなの?」


 一人掛け用のソファーが二つ並んでいて、私とマネージャーが座ったと同時にお茶ばかり飲んでいたお父さんが口を開いた。


「ここに居るメンバーはSky、空野の事務所の子だ。退所すると聞き、それぞれに声を掛けここに集まってもらった」


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