第4話
あの日からCiElと共に私は活動を休止し、テレビではアクアマリンがバラエティー番組から歌番組まで色んな番組に出演している。
ちょっとだけ澪のニュースもあって彼女は本名の名前だけを芸名とし、今ではMIOと名乗っている。女優として活動する事を決めた陽葵はまだまだこれからみたいで、事務所の先輩に演技の指導を受けているとか。そんな二人とは違って私は相変わらず愛車でうろうろしている。
今はただの無職だ。
「んで? アクアマリンの数名がパパ活のようなことをしているって噂になってるんだけど、何か知らないか?」
「何で私に聞くんですか?」
お洒落なカフェに似合わない無精髭の男性がアクアマリンの噂について尋ねて来た。彼は有名な出版社の記者で、アクアマリンの噂の真相を探るために動き回っているせいで髭を剃る時間すら取れないらしい。
「お前と俺の仲だろ? CiElの妹分って言う割には歌手として活動しているMIOとは共演が全くない。事務所での彼女らってどんな感じなんだ?」
カフェの前を通りかかった時に私の愛車を見つけ、何の断りもなく目の前に座った彼。名前は忘れたけど以前、愛車をかっこよく撮ってくれたってだけ覚えている。
私の車がスポーツカータイプの上に、色が青でナンバーがデビュー日の七三一だから目立つみたい。こんなことならお父さんの愛車で来たら良かった。
「事務所でのって言われても同期が三人いるんですがデビューしてからは事務所ではすれ違う程度で、これと言って仲も良かったわけでも悪かったわけでもないんですよ? だってライバルですし」
「確かにな。じゃあパパ活については?」
「パパ活ってアレですよね? 知らないおじさんをパパって呼んでお金貰うやつ」
「……近くもなく遠くもないな。飯食ったり体売るんだよ」
「それはさすがにバレた時にややこしくなるのでないと思いますよ? だってほらよく聞くじゃないですか? アイドルの昔の話とか」
何処から漏れるか分からないこのご時世。あれだけテレビに出ているんだからパパ活はないと思う。アイドルを目指しているんだから素行は絶対に悪くできないし、無理やりだったとしてもデビューしてこれからって時にそんなバカな真似はないでしょ。
パパ活とは違うけど、澪の時のように上がりだした人気が急降下するから。
「まあ一理あるな。じゃあもう一つ。休止前のCiElのライブにアクアマリンを登場させたのって」
「あれは私よりも社長に聞いた方がいいと思いますよ」
遠くから店員さんが飲み物を運んでくるのが見え、一旦話をやめる。聴かれてまずい事は何一つないけどSNSとかマジで怖いから一応。角席で人が少ないとしても。
「失礼します。こちらアイスコーヒーとメロンクリームソーダになります」
「ありがとうございます」
「ごゆっくりどうぞ~」
「俺頼んでないけど?」
「そりゃーそうですよ。だってそれ――あ、やっと終わった?」
こちらに歩いてくる人物に声を掛けると目の前に座っていた彼も振り向き確認する。気軽に声を掛けたから友達だと思ったみたいで、相手を認識してすぐに固まってしまった。
「すまない。親父からの電話が長くて」
「お祖父ちゃん元気だった?」
「相変わらず。んで? こちらさんは?」
「週刊誌の人。ほら前に私の車をかっこよく撮ってくれた」
「ああ。何か聞かれたのか?」
アクアマリンのパパ活の件を伝えると眉間に皺を寄せため息を吐かれた。
この感じは初めての質問じゃなさそう。
「またか。俺はアクアマリンをどうこうできる立場じゃないんだ。詳しくはあの子たちのマネージャーを調べてくれ。あと休暇中のこの子のことが知りたかったらSNSでもフォローして」
テーブルにお札を叩きつけるように置き、私が注文していたメロンクリームソーダを殆ど一気飲みしたお父さんは、コーヒーとお釣りをあげると言って共に店を出た。
ドライブした後にどこかでご飯を食べる約束をしていたけど、道中はずっとお説教。週刊誌の人に質問されても笑顔で誤魔化せとかすぐに人を呼べとか、アクアマリンの話については全て突き放せと言われてしまったのだ。
「来週のニュースで知るとは思うが、アクアマリンのマネージャーが会社を設立してアクアマリンはもちろんその他にも数名引き抜かれた。こちらとしては痛手ではないが少し訳アリでな」
「訳アリ?」
お父さんは困ったようにため息を吐き、詳細を話してくれた。
アクアマリンのマネージャーは私たちCiElを目の敵にしていた空野さん。滝宮さんとは同じ年に入社し、誰よりも早く売れっ子のマネージャーを目指していた矢先私たちを見つけた滝宮さんに越され、CiElも滝宮さんも敵視されていたとか。
「まだウチの会社で働いている時に勝手にオーディションを開いていてな。その時点で事務所を設立するつもりだったんだろうが、俺たちはお前たちの騒動があって気づかなかったんだ」
星宮プロダクションの名を語っていないオーディションでは複数名合格しており、今年その内の一人が大人気のライダー作品の主人公として俳優デビューするらしく、その主題歌をアクアマリンが歌うらしい。
「え。大丈夫なの? それ。子供に人気があると言っても大人にも人気があるライダー系はアイドルが主題歌を歌うような雰囲気じゃないよね? かっこいい主題歌が盛り上がるタイミングで流れたら最高にグッとくるじゃん? 荒れるんじゃないかな?」
「星宮プロダクションを離れた以上俺は関係ないからな。と言いたいが、個人的にも好きなシリーズに出るから正直止めてほしいと思っている。だが決まったもんは仕方ない。まあ納得してくれる人は少ないと思うがな」
今までの傾向であれば疾走感がありテンションが上がるような曲が選ばれていた。女性アイドルのわちゃわちゃしたような曲が選ばれるなんて。
教育番組をやっていた時に子供たちに勧められてハマり、歴代のライダーをある程度は把握できるようになった私が言うのもなんだけど、そこで出てきちゃ絶対に駄目じゃないかな。戦闘シーンで曲が入って萎えたら元も子もないし。
「少し方向性を変えてくるんじゃないか? 曲」
「いやでも、私が言うのもなんだけど武道館ライブで披露した歌とダンスは正直見てられなかったよ? 昔の自分を見ているみたいで恥ずかしかった」
「……正直お前たちより酷いだろ。空野からデビューについて何度も進言はあったが、俺が首を縦に振らなかった。だからお前たちのライブを乗っ取って、自分の会社も設立したんだろう」
私たちのライブに無断で登場させた件については色んな所から怒られたらしい。空野さんが。でも結果的にアクアマリンがテレビ出演など表の仕事が増えて観ない日はないくらいの存在になった。
結果良ければすべてよし、と言うところだろう。
「それと空野の事務所Skyに澪の従弟がいるんだ。
「確かその子って澪に凄く懐いている子でしょ? イケメンの」
澪のお父さんと悠翔君のお父さんが兄弟で、小さい頃から澪のことをお姉ちゃんのように慕ってくれたって聴いた事がある。
「それは分からないが、個人的にはライダーの主題歌は彼らが歌えば良かったんじゃないかって」
「あ。またそこに戻るんだ」
どうしても納得できない様子のお父さんに笑みがこぼれた。
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