第三章 【緊急】自殺オフを食い止めろ!
ゲームセンターから飛び出しそのまま急いで尾宮通りまでたどり着くと、いち早く見咎めた
爻坂が助手席、アスマと小浪谷が後部座席に乗り込む。
ハカセは開口一番「これを見てくれ」とアスマ達にタブレットを渡した。画面にはどす黒い色の目立つやたら禍々しいデザインのウェブサイトが開かれており、誰かの書き込みが複数ピックアップして映されていた。
『午後五時~。リストの人が集まり次第』
『集合はTM学園。飛び入り、冷やかしNG』
『――はユーフォリアを使う。道具は持参』
『現地で要サイン。途中辞退禁止』
書き込みは他にもたくさんあるのだが、そのほとんどが変に後処理されており、判読できない。似たような言葉が羅列されているのだけはわかるが……。
いつの間にか発進していた車の中で、なんだこれとアスマが鎌首をもたげていると、小浪谷が深いため息と舌打ちをついた。
「……またかよ。多すぎんだろ」
「? これは?」
「自殺オフの掲示板さ」
「あ~……」
聞いたことがある。自殺オフとは、ネットワーク上で知り合った自殺願望者達が一同に会して自殺する集会のことだったはず。アスマの身の回りでも参加した人が数人いた。
ハカセの言葉に付け加えるように爻坂が、
「数年前から安価で即ハイになれるクスリが出回って集団自殺が増えたの。年間の自殺者は六万人以上……しかも年々増えてる」
「きれいな
「……この集合場所ってたぶん再開発区の廃校だろ。こっからギリ間に合うか?」
車はすでに出発している。
時刻はだいたい午後三時半。アクセルに力を込めながら、ハカセが重々しく呟いた。
「遅れたら最悪、霊障発生の可能性もある。何としても食い止めよう」
******
ハカセが車を走らせること一時間強。
センター街の喧騒からすっかり離れ、解体された建物の並ぶ灰色の景色が広がるなか、車窓から奥に見覚えのある白いモニュメント的建造物が見えて、アスマは「あ」と思わず声を漏らしそうになった。
――『共育省』幼児養育センター。
アスマにとって色々と因縁のある施設だ。
九州エリアのと、見た目も中身も恐らくさらにその奥の実態も何も変わらないのだろう。名前の通りの養育施設であり、また生態スキャナーのデータの受信先でもあり……。
深く考えないようにしているが、何とも言えない気持ちになる。
……ここで義眼を使用したら、データもあそこに送られるのだろうか。
頭を振る。
今は目の前のことに集中しよう。
再開発区は道路の整備が行き届いておらず、車は道半ばで停車を余儀なくされた。
ここら辺は元は学区らしい。学園はもちろん学生寮や研究所、その他教育に関する施設があちこちに屹立しているが、そのどれもが既に廃墟と化している。
「悪いが君ら三人、こっから先は足で向かってくれ。まず学園についたら手分けして参加者を探して保護。強行しようとしたら無理やりでもいいから止めてくれ。私はここに待機しているから、有事の際はすぐ連絡を」
ハカセの言葉に了解と三人は頷いて、すぐさま車外へ飛び出る。
小浪谷が一番に駆け出し、爻坂とアスマが続く。時刻はあと数分で午後五時に差し迫るところ。
退廃的で静かなゴーストタウンに、三人の地を蹴る音だけが響く。
隘路を抜け廃墟を通り、機能不全の交差点を左に曲がった正面に校門が現れた。表札には凍明学園の文字が見える。
とうめい学園……ここが件のTM学園か。
他の建物がむき出しの鉄筋コンクリートを晒している中、解体が進んでいないのか学園は比較的綺麗に外観を保っている。
今までの道のりにも今見える範囲にも人は一人も見つからなかったが、参加者はもう校内にいるのか。
「俺は三階から上を当たる。爻坂は二階、
校舎に目を向け、小浪谷が指示を飛ばす。
「時間はもう過ぎてる。万が一ヤバい事態に直面したら、とりあえず声上げて即逃げろ」
「わ、わかりました!」
いくぞ、と小浪谷は一瞬目配せをして、校門へと走り寄る。アスマと爻坂が並ぶように続いた。
自殺志願者の保護か。
内心、(不謹慎かもだが)アスマは活躍の機会が出来て少し嬉しかった。見回りでの荷物持ちや事務作業の手伝いとは違う。これは目的のハッキリとしたミッションだ。
……よし、やるぞやるぞやってやる!
緊張はしているが気持ちは前のめり。振り返って考えても今日は絶対吉日だ。いける。
アスマは小浪谷を追い越す勢いで、校門の中へ足を踏み入れる。
そして、次の瞬間―――……………………
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます