第14話 箱庭の戦い
街には様々な人々がいる。暇を潰すためにうろついている青年もいれば、朝から仕事場へ向かって急いでいる中年もおり、また無気力のあまり地べたへ車座に座って雑談に興じている二十代半ばの男たちがそうだ。
しかし各々が抱えている様々な事情、価値観や文化に関わらず、彼らの視線を集めて止まない鮮烈な二人組が朝の街に現れた。
一人は背中が大きく開いたイブニングドレスを身に纏い、真紅の長い髪を靡かせ、肩で風を切る美しい女である。
もう一人は朱殷色の髪をオールバッグにセットした背の高い青年だ。真っ白なシャツと濃紺のジーンズに黒革のワークブーツというシンプルな組み合わせだからこそ生来のスタイルの良さが際立ち、伶俐な顔付きと寡黙な態度も相まって謎めいた雰囲気を醸し出している。
二人はアインガング駅西口側の混沌とした通りを進み、やがて一軒の古書店を訪ねた。
「おはようございます!見つけましたよ!」
店主の老婆は驚きを隠せなかった。大方来るとしても昨日告げた特徴だけでは部屋を発見できず、追加の情報を求めての行動だと思っていた。
だが違った。女は決して一般人には手の届かない華美な衣装を完璧に着こなし、自信満々の笑みを浮かべ、後ろめたさは皆無の足取りでレジカウンターの前までやってきた。
「……へえ。どこなんだい?」
「この建物から北西の方角に四方を囲まれた雑居ビルで囲まれた団地がありますよね。魔力を遮断する結界、空間を歪曲する結界、結界ごと団地の存在感を消している認識阻害が掛けられている場所です。」
反応は劇的だった。老婆は眼鏡の向こうで目を見開き、一瞬だが信じられないといった表情を浮かべた。
見つけられるわけがなかった。彼らに話した特徴に当てはまる構造物はアインガングには掃いて捨てるほど乱立している。外観だけでの特定は不可能。特定には最低でも兆級以上の魔術を用いて探査するか、膨大な量の建物へ実際に接近しなければならない。しかしゼレハフト全域を覆う大結界の内側では認可を受けた者しか超級以上の魔術は発動できず、学院の生徒でもないこの男女にはそれができるとは思えない。仮に発動できる立場にあるとしたらわざわざアインガング内でいわくつきの物件を探す意味がない。また、もしも偶然で接近したとして結界と認識阻害が有効な内は団地の存在は意識下に浮上しにくくしており、特に何も思わず過ぎ去ることが常である。とどのつまり団地の場所を特定するには団地の場所を知っていなければできないはずなのだ。
「どうやって……何をして探し出したんだい?」
「特別なことは何も。基本に忠実にやったまでです。」
無論、二人も最初から当たりを付けて団地を発見したのではない。半日以上を費やしても見つからず、半ば諦めて宿へと帰ろうとした際、少しだけセトラの魔力操作が粗野になるタイミングがあった。若干多めに空間に解き放たれた闇属性魔力が結界と認識阻害を弱め、その瞬間にたまたま団地を捕捉できただけに過ぎない。
だが笑顔の裏に泥臭い真相を隠し、あくまでも見つけられて当然の如く振る舞う。老婆の求める、魔術師としての実力を演出する。
「……降参だ。認めようじゃないか。」
「物件を紹介してくれるってことでいいですか?」
「婆に二言はないよ。しかし紹介するにはいいが、あのままあんたたちに貸してやることはできない。」
「そんな気はしてました。私たちに団地を見つけられる程度の実力があると確認できたら、次は団地内にいる魔物を倒させるつもりだったんですよね。」
「察しのいい嬢ちゃんで助かるよ。もちろん、それをするかどうかはあんたら次第さ。アインガングは住む場所に困らない。こんな危ない橋を渡らなくていいんだ。」
「それでも私たちはやりますよ。貰うばかりじゃ決まりが悪いですし。」
老婆を真正面から見つめ、そう言い放つ。
「……あんたら、一体全体何者なんだい?」
「私はアディプト・イレデンタ。入り口のところにいるのはセトラくん。元は白金等級のギルドメンバーですよ。」
▽ ▽
ギルドでは案件の達成実績や累計獲得報酬額などの要素から総合的に判断し、会員に対して等級を与えている。
等級が上がれば上がるほどより高難易度且つ高報酬の案件を受注でき、昨年のラクオン竜害のように危険度と緊急性が高い案件であれば依頼者側から指名を受ける機会も増える。
白金級という等級は国営ギルドにおける第二位の等級だ。
「なあ、俺って金等級までしかいってないんだけど。」
「しーっ。」
尤も存在が抹消された時点でギルドにおける等級を始めとする一切合切が無意味になった。
そもそも今や魔力神ソトノ直系のグランロッサ家においてアディプトやセトラという人間が存在したという記録はない。新たに取得した戸籍の姓はイレデンタで、グランロッサ家とは全く何も関係がない。
故にアディプトは本名を打ち明けず、ついでセトラのかつての等級をしれっと盛った。
こうして老婆から信頼を勝ち取った二人は彼女を引き連れ、昨晩発見した団地へ向かった。
夕べは跳躍での移動中に見つけたため気が付かなかったが、実際に徒歩で向かうと想像以上に入り組んだ細道を通らなくてはならない。四方を別の建物に囲まれているせいで上層部以外に日光の当たらず、常に夜のようにじめじめとして薄暗い。その暗澹の先、無機質なコンクリート造りの団地が鎮座していた。
「結構自信作だったんだがね。」
老婆が前に出て、虚空の一点に触れる。
「刹那に放ち煌めく輝天に告げる。星の明るき起源へ挑む。歪みを正し、我が道を開けよ。
直後に空間と一体化するように展開されていた結界が部分的に解け、向こう側から名状しがない怖気が解き放たれた。
「最後に確認するが本当にいいんだね?中に入ったらあんたたちが戻ってくるまで結界は開かない。もう一度日の目に当たりたいなら生きて帰ってきな。」
「はい。」
「必ず。」
セトラは剣を抜き、戦闘に備えて魔力炉心を励起させる。
アディプトを指輪を深く根本まで嵌め、動きやすいように長髪をヘアゴムでまとめた。
それから彼女の右手首を握り、一行は団地内部へ足を踏み入れた。
「中では絶対に離れるなよ。」
「分かってる。」
団地は五階建てで一階層当たりの部屋数は十部屋ある。
件の魔物と会敵するまで虱潰しにしていくのが今回に作戦である。
「一階から順に探っていくぞ。鍵は預かってある。」」
手始めに入り口からすぐ左手に曲がったところにある部屋を開錠、恐る恐る中へ潜入した。
「
アディプトの詠唱の後、黄色みがかった光の球が宙に出現した。
その光に照らされて内部の様子が明らかになる。
そこは予想に反して綺麗だった。玄関から入ってすぐのいかにも都会の建物らしい狭い下足場といい細長い廊下の壁際に設置されたキッチンとシンクといい塵や埃は全く見られず、廃墟ならでは淀んだ空気の臭いもしなかった。思わず土足のまま立ち入ることを躊躇してしまうほどだ。しかし見てくれはアパートの室内であっても実態は敵の巣に等しい。
現に恐る恐る廊下を踏み締めた数秒後、玄関扉が勝手に音を立てて閉まった。試しに内側から開けてみると、向こう側には同じような廊下が伸びていた。つい先ほどまでアディプトらが立っていた外通路は跡形もなく、物理的にも設計的にもありえない空間の広がり方をしていた。
(空間操作系の術式か。脱出するだけなら割と簡単だけど、下手に手を出して警戒して隠れられたら厄介だよね。)
「空間の正常化は後回しだな。逐一ピンポイントで叩いても意味がねえ。元凶が直接お出ましするまで迷い込んだ餌のふりを決め込もう。」
細心の警戒を払い、感覚器官を研ぎ澄ませて先に進む。廊下の中間、通常なら洗面所や風呂場へ通じるであろう扉を開ける。今度はどこかの窓と繋がっていたらしく、更に接続先では天地が逆転していた。
そこでセトラは入室と同時に若干の魔力噴出で体勢を変え、頭からの落下を防いだ。
「大丈夫か?」
「うん。ありがと。」
(単純に空間の繋がりをあべこべにするだけじゃなく上下の反転まで行ってくるのか。となると落とし穴みたいに扉を開けたら中に落下するみたいなパターンもあるかもしれねえな。ちくしょう面倒くせえ。)
もういっそのこと団地諸共敵を消し飛ばしたい欲求に駆られる。しかしそれでは本末転倒も甚だしい。一方で積極的に攻勢に出るわけにもいかない。
フラストレーションを抱えたまま延々と狂ったアパートの中を彷徨い歩き、気付けば体感で一時間半以上が経過していた。
「……」
「……」
一般に人間は一時間以上の集中はできないとされている。ましてや方向感覚や平衡感覚が麻痺する異常空間内を歩き回り、いつ敵襲があるか分からない中で警戒を続けるという状況では殊更に短いだろう。
まだ一度も戦闘をしていないとはいえセトラたちは着実に消耗しており、集中を欠き始めていた。故に開けた扉の向こうへ広がる暗黒への対応が一手遅れた。硝子細工の如くぐにゃりと溶歪した暗き空間の引力に導かれ、抗う間もなく闇の只中へ投げ出されていた。
「姉ちゃん!!」
咄嗟に腕を引っ張り、アディプトの身体を引き寄せた。
「っ、何か来る!!」
彼女は即座に指輪へ魔力を籠め、術の発動準備をしながら闇を睨みつけた。
闇は街中至るところに張り巡らされた側溝に溜まる、著しく澱んだ汚水で満ちていた。汚水や沈殿物は悍ましい雑菌や毒素のコロニーそのものである泥沼をなし、鼻を突く刺激臭や腐敗臭は否応もなく死を鮮明に意識させる。
その泥沼からびちゃびちゃと水音を立てて魔物が現れた。団地の一室を遥かに上回る巨体、くすんだピンクの肉体はぬらぬらと粘液に塗れ、尾部からは赤い繊毛が高密度でびっしりと生えている。泥沼で蠢く無数の大ミミズ––––イムシュラムの群れはセトラたち膨大な魔力を蓄えた最高級の餌と認識し、歯のない穴のような口をぽっかりと開け、巨体に見合わぬ機敏な動作で複数の方向から同時に殺到した。
「
反射的にアディプトは短縮詠唱用のスペルを詠唱し、岩の塊を発射。大質量の岩塊を以てミミズ数匹をまとめて圧し潰し、間髪入れずの再発動で先に打ち漏らした群れを追討した。
対するセトラは鉱石剣に魔力を纏わせ、薙ぎ払いの一撃と共に放った。黒々とした魔力の奔流がイムシュラムの肉体を吹き飛ばし、生命力を不活化させて瞬く間に死を齎した。また空かさず魔力噴出で姿勢を反転させ、背後、足元、頭上から襲い掛かってくる敵にも向けて同様の攻撃を繰り出した。
だが今度はイムシュラムらも無策ではない。アディプトらが遠距離攻撃を多用すると学習した残存個体群は空間へ強烈に干渉し、岩塊と魔力の奔流が通過する軌道を捻じ曲げた。同時に獲物との間に横たわる距離を縮め、予備動作なしに二人を口腔内に捕らえた。有機的な悪臭のする口が閉ざされ、セトラたちは完全なる無明に幽閉された。
しかしその程度の危機に際し、恐れ慄く二人ではない。直撃と同時に魔力を流し込むことで対象を爆発させる蹴りを、純粋に出力を上げて空間干渉を退けた斬撃を姉弟は躊躇なく繰り出した。
同胞を惨殺して脱出した彼らに対し、今度は分断しての個別捕食を目論んだ。セトラとアディプトの間にある僅かな空間に干渉し、二人を引き剝がそうとする。
「させるかよ!!」
一方で彼は死体を蹴って座標を離れ、魔力による剣閃を干渉が行われた空間に叩き込んだ。斬撃という攻撃の概念、闇属性魔力の性質により干渉を退けた。
だがこの暗黒空間はイムシュラムの術式で構築された完全なる異界である。
空間そのものが伸縮自在であるというこの異界のルールを無視するには今と同じく概念攻撃と魔力攻撃を重ねるか、或いはもう一段階上の量の魔力を出力しなければならない。しかし魔力放出のみで空間干渉を無効化しようとすれば確実にアディプトもセトラの魔力を浴びることになる。彼女ほどの技量を持つ魔術師といえども大瀑布が如き勢いの魔力を凌ぎ続けるのは至難の業だ。
イムシュラムの言葉なき戦闘思考の狙いは正しくそこにあった。セトラがアディプトを連れながら戦う限り、空間干渉を防ぎ続けることはできないと踏んでいた。
そしてもう一つセトラには懸念点があった。
この異界は人口密集地と重なる形で存在しており、すぐ傍には多くの人々が暮らしている。そのような状況下で異界が崩壊するほどの魔力放出を行えば最後、外部へも被害が及ぶだろう。そうなれば王国騎士団は確実に動く。ドゥラでの一件で脛に傷がある状態で王国騎士団と関わり合いを持つことは危険だ。
そのため攻勢から一転。魔力噴出を移動用途に限定して用い、高速移動によって空間操作の範囲外から逃れつつ各個撃破を行う方針へと切り替えざるを得なかった。
「やりづれえな……!」
しかし敵の数が多い。倒しても倒しても次から次に異界の底から湧いて出る。
(もう結構な数を殺した筈なのに全く異界が綻ばない……てっきり群れ全体で異界を維持してるのかと思ってたけど、多分これは強大な個体が異界周りを一手に担ってるパターンか。)
「このままじゃ埒が明かない……!」
全開で魔力を叩き込めたら、覇級魔術をぶつけられたら、この千日手じみた膠着状況に終止符を打てる。ただそのような有効打こそ今は使えない。
(だけど、そうやってまた間に合わなかったら……また姉ちゃんをあんな目になんて––––)
「––––遭わせてたまるか。」
やがてセトラは決断を下し、ありったけの魔力を熨せてスペルを詠唱した。
「
術式の属性と魔力の属性は密接な関わりがあり、両者を一致させることでより高い効果を発揮する。
その点では火属性魔術の
ところがセトラは術式に対して圧倒的な量の魔力を熨せるという強引過ぎる手法で術式効果を高めた。冷却を超え、凍結の域に達した魔術でイムシュラムの群れを凍らせていく。生命活動が停止した個体を足蹴にして加速し、異界を満たす黒き汚水に触れる。ぬめりと悪臭のする生温かい水への生理的嫌悪感を無視し、この中に潜むものを殺さんばかりの勢いで凍結させていく。
さしもの主もこれを前に静観してはいられない。凍り付いた水を突き上げて粉砕し、二人の前に直接姿を晒した。他のイムシュラムが小枝にしか思えないほど長く太い体躯は通常個体とは比にならないサイケデリックな色身に染まり、尾部のみならず全身から繊毛を生やしていた。
咄嗟にセトラが一太刀を見舞う。
しかし空間操作で斬撃の挙動を歪め、同時に二人を水中に向かって叩き落とした。
落水直前で水面を凍結させ、アディプトを固く抱き締めた状態で彼は背中から落下した。
「っがああ!!!」
この隙に群れの残党に指示を出し、主を含む全個体が同時に別々の方向から襲い掛かった。
苦痛に悶える弟に肩を貸し、今度はアディプトが活路を空中へ求めて跳躍した。
相対する主はこの状態のセトラに反撃はできず、妨害は不能と判断して彼らの空間座標を固定した。時間を止めたかのように二人から上昇も落下の自由も奪い、ここに勝敗は決したかのように思えた。
そしてアディプトはこの瞬間をずっと待っていた。ラスタード繊維への魔力供給を段階的に停止し、先ほどまで吸収していたセトラの魔力を開放する。
「彼方に沈み暮れ逝く遠天。星の黒き終焉。魔を飲み下し、現象を止めよ。
同時に行われる完全詠唱。己の炉心と回路を用いず、イブニングドレスにそれらの役割を担わせることで闇属性魔術を行使した。
その一瞬に刃を叩き付け、凝縮した魔力の圧力で主の頭部を両断。背中合わせの戦場では複数の岩塊を扇状に放ち、一網打尽に圧殺。
イムシュラムの群れはここに完璧に絶命した。
すぐさま主という核を失った異界に亀裂が走り、ぽつぽつと孔が空いていく。孔からはどこかの室内であろう風景が垣間見え、白い光が差し込んでくる。
それから十秒も経たない内に異界は溶けるように消え去り、二人は再び何の変哲もない団地の一室に立っていた。
居室を出て廊下を通り、半ばにある戸を潜って洗面所やトイレの空間を確認したが、そこにはほんの数分前まで彼を閉じ込めていた無限ループ空間はなかった。扉の開閉は空間の繋がりを改変する契機ではなくなり、別室に入ったと同時に頭から落下する現象が起こらず、玄関を出た先は当たり前に外通路に通じていた。
▽ ▽
深い水底から浮き上がるように目を覚まし、腫れぼったい瞼を数度開閉して、そのままぼんやりと天井を見つめた。
カーテンから差し込んだ光が部屋の一部を染めていた。色味からしてきっと朝の終わり、昼の始まりくらいの時刻だろう。
そう悟れるくらいに頭が回り出すと、はたと暑苦しいことに気付いた。本能的にブランケットを剥ごうとして、しかし無理であった。
暑さの原因はブランケットではなく傍らで寝息を立てるセトラで、彼にがっしりと抱え込まれていたからである。
「ええ……?」
約三十センチメートルもの身長差、鍛え抜いた筋力量の違いはアディプトに身動ぎを許さない。
「セトラくーん……?お姉ちゃんちょっと苦しいんだけど。」
加えて夢の中にいるとあっては彼女の言葉も届かぬ始末。
何度目かで不毛だと断じ、魔術で周りの温度をを下げた。
これで少しは快適になるかと思いきや、セトラは微かに唸ってもっとアディプトへ密着した。さながら専用の枕を相手にするように一層力を強め、彼女の柔体を固く抱いた。そうしている彼の表情は最近ではあまり見せない、安堵が滲んだものであった。
(まあ……別にいいか。)
枕元に置いている目覚まし時計をちらりと見た。
表示されている日時に予定を入れた覚えはない。そもそも今日一日、ギルドの案件も何もするつもりがない。
ならば今一度眠るとしよう。
それが休みの特権だ。
▽ ▽
赤焼けた荒野に巨大な竜の骸が横たわっている。引き裂かれた顎の隙間からだらりと舌が垂れ、両翼は歪に折れ曲がり、複数箇所が不自然に陥没した遺体だ。その凄惨な肉塊は強大極まる何者かと戦い、完敗を喫した事実を示唆していた。
そして骸の前には一人、漆黒の漢が静かに佇んでいた。襤褸切れの外套、厚手のカーゴパンツ、黒革のミリタリーブーツをべっとりと血に塗れさせ、特に両拳は血と骨肉が入り混じった粘液に濡れている。彼は竜の角をへし折り、後方で恐れ慄く農夫たちへ投げて渡した。
「先を行くならコイツの一部を持テ。よい魔除けにナル。」
そして漢は——ヴァルガン・ラズィマは相手の返答を待たず、踵を返して再び歩き出した。
目路の先には王国西方の大都市、リッコの荘厳たる街光が遠く輝いていた。
かつての二人はすごかった んほお @OOnhoNHOOO
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