2-2
慣れない長旅に初対面の人々、いつもは元気いっぱいなオディールにも
私もとても疲れている。結局
空席は二つ、位置的に侯爵と叔父のための席だったのだろう。つまり、やはり最初から最後までクタール侯爵夫人はリュファスを私達に引き合わせるつもりがないのだ。
正直うまく笑えたか自信がない。
姉妹それぞれに
「おやすみなさい、オディール。今日はお疲れ様」
「ええ、おやすみなさいお姉様。お姉様こそお体がとっても弱いのですからお疲れでしょう。ふふん。主神エールへの信心が足りないのではないかしら。なんなら私が
私は全然平気ですけれど! と勝ち気な
「次は一人でご招待されても
「っ!!」
本当なら、こういった部分も直していくべきなのだろう。
貴族として生きるなら、今日のお茶会程度の腹の
それはまた、いずれ。いずれでいい。思い出すだけで
さて、赤い顔のまま言い返しもせずにオディールは身を
ドアが閉まった
クタール侯爵家のメイドが目を丸くしていたので、何か聞こえまして? と笑顔だけ残して案内された部屋に入る。
すでに
部屋の
椅子に深く
揺れる
改めて、見込みが甘かったとしか言いようがない。
一回目は
二回目は、
ユーグがこの問題を解決するためには、
まずは、高位貴族や王家の
ただし、貴族院の
貴族院には魔力の
いずれにせよ、何か弱みでも
そして、魔力の強い妻を迎え、魔力の強い子息をもうけて一族を
ただし、魔力の強い子どもが産まれるかどうかは、完全に
対するリュファスはといえば、
生まれを差し引いてもリュファスを当主にすべきだと貴族院の多くが判断するだろう。
ユーグの子どもに魔力が
その場合、私は自分に強い魔力があることをアピールするつもりでいたのだ。
貴族院に
侯爵夫人とユーグに
めとり、政治力とか権力とか利権とか
そもそも、この城には傍系の魔術師達の気配すらないのだ。全力で
クッションには薔薇と
貴族の世界で愛人がいることなんて
珍しくないからといって、法で裁かれないからといって、夫を
魔力のない子どもを産んだことで夫人の立場がよろしくないことは明白だ。心ない言葉をかけられたことも想像に
クタール侯爵夫人は、何がなんでも魔力のある後継を手に入れて、傍系の魔術師達を従わせたいという気持ちがあるのだろうか。
わからなくはないが、その『手段』には断じてなりたくない。仮にユーグとの婚姻が成立したとして、
不意にアンが
メアリが泣きつきにきたのか、それともこんな時間にお客様だろうか。
果たして、扉を開けた先には大きな
くわえた小さな
目を丸くしてそのファンシーな光景を見ていると、金色の目がはっきりこちらをとらえて、笑った気がする。
「招待状です、お
アンが封筒についた
歯形がつくのはご
「……本当にお化け屋敷ね、ここは」
どうしてだろう。ヒロインに成り代わりたいとか世界平和とか一切願っていないのに、死亡フラグ一本折るための難易度が高すぎる気がする。
アンを
目くらましの魔術の類いなのか、それとも単純に誰かの命令だろうか。時々アンがついてきているか
招待状にはこうあった。
薔薇の下でお待ちしています リュファス
「ジゼルお嬢様、どうかご無理はなさいませんよう」
「ありがとう、アン。あなたも疲れているのにごめんなさい、でも」
暗がりの向こうで黒猫が
「どうしても一度、確かめておきたいの」
クタール侯爵夫人は、
侯爵令息の婚約者を決められるような、強い影響力がある傍系の人間がクタール侯爵家にいるなら、リュファスがまるで存在しないような扱いを受けているはずがない。
では、誰がジゼルをリュファスの婚約者に定めたのか。
仮に、万が一。魔力がないととぼけることに失敗した時のためのプランB。
やがて黒猫は庭に出ると、
昼間に窓
アンが燭台を持って前に進み出る。アンの歩調はいつも通り一切乱れない。メトロノームのような一定の足音に、ほんの少しだけ
二人の足音だけが明かりのない温室に
季節外れの薔薇のアーチをくぐると、
『薔薇の下、秘密の温室へようこそ』
「!」
アンが私を守るように進み出る。さっきまで真っ暗だった温室にはオレンジの明かりが灯り、冬の寒さは一切感じられない。
声のする方へ目をやって、うっかり悲鳴を上げそうになった。つる薔薇のアーチの上に、大きな
『招待に応じてくれて
「……!」
『ああ、名乗らなくてもわかるわ。アメジストの瞳、イリス様と同じ』
『髪の色までそっくりなのね。あの
『ちょっと。失礼よ』
先ほどの黒猫と同じ、
言葉を失ってしまう。明るい温室の中には、
彼らが身じろぎし、
そして温室の中央にある小さなテーブルに、少年が一人座っていた。
すこし
上着もなく、シャツにはレースや刺繍の一つも入っていないシンプルな
仕立ては良いが、貴族の令息というよりは商家の子どものようだ。
「……誰?」
ぽつり、少年が口を開いた。
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